- アウディ / RS7 スポーツバック(2021)
5人乗りの「アウディR8」
アウディRS7スポーツバックの二面性、いや多重人格ぶりに驚く。そろりと歩みを進めるかと思いきや目に見えるものすべてにパンチを食らわせる。クールな技術をもって。

そもそもアウディA7とは何者か
私がアウディRS7スポーツバックを目にした時、撮影は既に始まっていた。元離宮二条城がある京都は中京区。大通りに面したアスファルトの上。真っ黒い車体が低い姿勢で私を睨みつけていた。
遡ること13年前の2009年。RS7のベースとなったA7の原型「スポーツバック・コンセプト」が世界5大モーターショーの1つ、デトロイト・オートショーでデビューした。
当時私はその思い切りのよい面構えを興味深く思ったのと同時に、リアの造形に違和感を覚えた。低く幅広なフロントフェイスに対し、リアが尻すぼみで、少し腰高に見えたのだ。
その不安は翌年、払拭された。2010年、コンセプトからより大胆なデザインになったアウディA7スポーツバックがデビュー。A6、A8セダンを上下に携え、実用性とルックス、珍しさを恣に手にした。
そこから8年間販売された初代は、2018年、2代目にバトンタッチ。この記事の主役、RS7スポーツバックは翌2019年にデビューした。
どのような進化であったか? 初代やベースモデルと比較しつつ、おさらいしよう。
華々しくデビューしたRS7とは
アウディRS7スポーツバックは、モデル名からもお分かりのとおりA7スポーツバックを基本とする。とはいえ共通するパネルはたったの4枚。ボンネット、ルーフ、ドア(前)、テールゲートのみである。
A7スポーツバックに比べてRS7スポーツバックの全幅は+40mmの1960mmに達する。全長は5010mmあるいっぽうで、全高は1415mm。つまり幅広で長く、そして低い。またテスト車両は、社外のロワリング・モジュールと、+10mmのトレッドをもつ社外鍛造ホイールを組み合わせていた。低く構えて見えたゆえんだ。
心臓部は4.0リッターV型8気筒ターボ。600psと800Nmを叩き出し、100km/hにはたったの3.8秒で達する。先代+40psにあたり、最高速こそリミッターで250km/hに制限されるが、ダイナミックパッケージでは280km/hに、ダイナミックプラスパッケージでは305km/hとなる。
大パワーは8速ティプトロニック(トルコンAT)を経由し、クワトロ(フルタイム4WD)に伝わる。機械式のセンターデフを介し、通常時、前後アクスルには40:60の比率で配分される。
ホイールスピンの状況をみて、前後70:30から15:85の幅で自動配分される。
なお内燃機関には48Vのマイルド・ハイブリッドが組み合わさる。ベルト駆動式のオルタネーター・スターターは、最大12kWの電力回生を減速時に行う。またシチュエーション次第ではコースティング(惰性走行)に転じる。結果的に、100kmの走行あたり0.8リッターのガソリン消費を抑えるのだという。
これらのシステムが良い仕事をするのだ。
ゴロゴロ、バリバリ、パンッ!
シートに腰を下ろし、シートベルトを装着する。体がすっぽりと包まれる感触がある。標準で仕立てられるランバス(菱形)パターンのナッパレザーが背中に伝える凹凸も心地よい。
スタートボタンを押すと、間髪入れずにエンジンが目覚める。アイドリングストップ時も同じ。先述のMHEVが為す芸当である。
まずはコンフォートモードで走り始める。多くのアウディがそうであるように、硬いボディが実現する乗り心地の良さにうっとりする。
先に触れたとおり、22インチ(285/30)ホイールが、あるいは悪さをせぬかと心配していたけれど、よくよく考えるとRS7にオプションで備わるホイールと完全一致のスリーサイズ。ドイツメーカーである。これくらいのことは想定の範囲内なのだ。杞憂に終わった。
アクセルをつま先でちょんと動かしながら走るような低負荷時では、一部、燃料噴射と点火が止まる。吸排気バルブが閉じ、4気筒になる。
少しいじわるしてみる。アクセルを突然深く踏んでみると、一瞬で8気筒に戻る。休止しているとはいえ、ガススプリングのごとく作動は続けており、アウディが「わずか数ミリ秒」とうたう言葉に嘘はないと実感した。
何より深々とアクセルを踏んだ時の豹変ぶりである。車体後方から雷鳴のごとくゴロゴロゴロと響くエグゾーストノートに、道端の婦人が振り向いた。さらにアクセルを踏み続ける。ゴロゴロゴロ…からのバリバリバリ。空気が裂けてしまうようだ。気づくと恐ろしいスピード。慌ててアクセルを緩めるとパパパパンッ。破裂。次々押し寄せる音の応酬に完全に脳天をぶち抜かれた。お"〜、とか、わ"〜とか、感動詞に濁点がついていた。強烈であった。
ダイナミックモードに切り替えると、車体全体がギュッと引き締まる。ひときわキャラクターが変わるのがステアリングで、径がひと回りもふた回りも小さくなった感覚になる。
このモードでは、確かに目線の上下動が小刻みに増えてくる。あるいは後席の住人からは不満の声が漏れるかもしれないレベルだ。
しかし明らかにこの小さからぬボディが自分の手の内にあると感じさせる領域が増えてくる。ステアリングのみならず、車体自体も小さくなったようだ。それぞれのモードの小さな不満より、真逆の性格を1台の車で実現しきった技術に拍手を贈りたい。
切ったら切っただけ曲がる。コーナーではリアから巻き込み、フロントが勇敢に引っ張る。テクノロジーで車を説き伏せる。昔からのアウディの十八番である。
走る多重人格にハマるよろこび
かくも多彩なキャラクター。RSモードを駆使すれば、アシをやわらかく、ステアリングをスローに、されどサウンドは「雷鳴」なんていう、甘やかな時間を楽しむこともできる。
出勤時は激しく、退勤時は穏やかに。真逆の遊びだって可能だ。
車体に惜しげもなく投じられた技術を、様々な組み合わせで読み解いていく楽しみがこの車にはあり、180°真逆の個性を味わい尽くす充足感。
家族を運ぶ時は鳴りを潜めるこの車が愛おしいし、1人、ダイナミックなRS7と真っ向勝負するのもいい(ノックアウトされることも少なからずあるかもしれないけれど)
5人が乗れるアウディR8。そんな言葉をふと思い浮かべた。
おそらくこの車を迷う向きのなかには、ポルシェ・パナメーラの名前が挙がるかもしれない。かたやパナメーラは、スポーツカーメーカーが作ったユーティリティカーだ。RS7は、実用メーカーが作った、花形である。
大抵の場合、後者の方が一粒で二度おいしい。