マセラティ・レヴァンテグランルッソ(4WD/8AT)イタリアを纏う

官能的な走りとゼニアパッケージの仕立て、グリジオ・マラテアの艶を纏うレヴァンテ。ラグジュアリーSUVを超え、マセラティの世界へ踏み出す一歩にふさわしい存在だ。

官能的な走りとゼニアパッケージの仕立て、グリジオ・マラテアの艶を纏うレヴァンテ。ラグジュアリーSUVを超え、マセラティの世界へ踏み出す一歩にふさわしい存在だ。

スポーツモードが見せる表情

イグニッションを押し、エンジンが目を覚ます瞬間から、マセラティは他のSUVとは違う空気をまとっている。

日常の速度域では、グランルッソは驚くほど穏やかだ。3.0リッターV6ツインターボの鼓動は低く抑えられ、サスペンションは街の段差を吸い込み、乗員に優しい仕立てを見せる。

マセラティ・レヴァンテグランルッソ(4WD/8AT)イタリアを纏う

だが、センターコンソールのスイッチでスポーツモードを選ぶと、表情は一変する。

排気バルブが開き、太く響くエキゾーストノートがキャビンを満たす。タコメーターの針が軽やかに跳ね上がり、アクセルに応えるレスポンスがぐっと鋭くなる。

ギアのつながりも緊張感を帯び、まるでSUVの皮を脱ぎ捨てたスポーツカーのように生き生きと走り出す。

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同じマセラティでも、ギブリよりもこの変化幅は大きいと感じる。普段は静謐さを演じながら、モードを切り替えた瞬間に“これぞマセラティ”という官能をぶつけてくる。

二面性があるからこそ、飽きることがない。ラグジュアリーSUVの枠を超えて、イタリアのブランドが持つ劇場的な演出を味わえるのだ。

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ゼニアパッケージが放つ個性

この個体のハイライトは、間違いなくゼニアパッケージのインテリアだ。

ドアを開けた瞬間、ただのレザーシートではないことが一目で伝わる。ブラウンレザーの中にブルーのファブリック調パターンが走り、ヘリンボーンの織りがシート中央に浮かび上がる。

ヘッドレストには誇らしげなトライデントの刺繍。そこには、イタリアを代表するテーラーブランド、エルメネジルド・ゼニアの感性が息づいている。

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手で触れる前から特別さを感じさせる仕立て。スーツを纏ったときのように、持ち主に自信と誇らしさを与える。単なる装飾ではなく、オーナーの存在そのものを際立たせる演出だ。

ラグジュアリーSUVというカテゴリーの中でも、このパッケージが放つ個性は強い。量産の枠を越えて、パーソナルな一台を手にした実感をもたらしてくれる。

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そして、この車は左ハンドル仕様だ。

日本の道路環境では少し不便に映るかもしれない。けれど運転席に腰を落とすと、その不便さ以上に「本国の空気」を感じられる。

ステアリングの握り、ペダルのレイアウト、ダッシュボード越しに広がる視界。ほんの些細な違いが、イタリアの地で走るマセラティと同じ空気感を運んでくる。

機能性だけではなく空気感。それを大切にできる人にとって、この左ハンドルは何よりの贅沢だ。

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グリジオ・マラテアという選択

ボディカラーは「グリジオ・マラテア」。イタリア語でグリジオはグレーを意味し、マラテアは南部ティレニア海に面した町の名に由来する。

切り立った海岸の岩肌を思わせる深いガンメタリックに、陽光が差すとブラウンやブロンズのニュアンスが浮かび上がる。定番のブラックやホワイトから一歩外した選択が、SUVに都会的で洗練された個性を与えている。

マセラティ・レヴァンテグランルッソ(4WD/8AT)イタリアを纏う

ドイツ車のグレーが実用的で引き締まった印象を与えるとすれば、この色はもっと官能的だ。

色そのものが主張するのではなく、光と影の移ろいの中で雰囲気を纏う。大きなボディを無骨に見せることなく、都会的で洗練された存在に引き上げてくれる。

マセラティ・レヴァンテグランルッソ(4WD/8AT)イタリアを纏う

そしてゼニアパッケージのブラウン×ブルーのインテリアと、このグリジオ・マラテアの組み合わせは絶妙だ。

外装のシックな深みと、内装の鮮やかなコントラストが呼応し合い、イタリア車らしい色彩のセンスを体現している。

ブラックやホワイトを選んでいたら得られなかった調和。あえて外した選択が、オーナーの感性を際立たせる。

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マセラティらしさ

この世代のレヴァンテには、V6の高出力仕様である「S」や、V8を積む最上位「トロフェオ」といった上位モデルが用意されていた。

上位グレードには、それぞれにしか味わえない魅力が確かにある。けれど、このベースグレードであるグランルッソに乗っても、実際にハンドルを握れば、その違い以上に“マセラティらしさ”が迫ってきて、グレードの序列は些細に思えてしまう。

マセラティ・レヴァンテグランルッソ(4WD/8AT)イタリアを纏う

どのグレードであっても、アクセルを踏み込んだ瞬間に官能は立ち上がる。

内外装のデザインは一目でマセラティとわかり、道行く人を振り返らせる。ステアリングを握った瞬間に込み上げる高揚感、そして「マセラティに乗っている」という事実が放つオーラ。

これらはすべてのモデルに共通するものだ。グレードや装備を超えて、マセラティらしさがドライバーを包み込む。

マセラティ・レヴァンテグランルッソ(4WD/8AT)イタリアを纏う

しかも、このレヴァンテのように特別な仕立てを備えた一台が、現在の相場ではおおよそ500万円前後で落ち着いている。新車時にはオプション込みで1000万円を超えたモデルであることを思えば、いま手にすることができる価格帯としては現実味がある数字だ。

マセラティが持つ官能的な走り、ゼニアパッケージによる特別なインテリア、グリジオ・マラテアの深み。そのすべてが重なったとき、このレヴァンテは単なるSUVではなく“イタリアを纏う体験”へと姿を変える。

マセラティの世界に初めて足を踏み入れるにも、さらに一歩先へと進むためのステップとしても、ふさわしい一台だ。

マセラティ・レヴァンテグランルッソ(4WD/8AT)イタリアを纏う

SPEC

マセラティ・レヴァンテ グランルッソ

年式
2019年式
全長
5,005mm
全幅
1,985mm
全高
1,700mm
ホイールベース
3,004mm
車重
約2,100kg
パワートレイン
3.0リッター V型6気筒 ツインターボ
トランスミッション
8速AT
エンジン最高出力
350ps/5,750rpm
エンジン最大トルク
500Nm/4,500rpm
  • 河野浩之 Hiroyuki Kono

    18歳で免許を取ったその日から、好奇心と探究心のおもむくままに車を次々と乗り継いできた。あらゆる立場の車に乗ってきたからこそわかる、その奥深さ。どんな車にも、それを選んだ理由があり、「この1台のために頑張れる」と思える瞬間が確かにあった。車を心のサプリメントに──そんな思いを掲げ、RESENSEを創業。性能だけでは語り尽くせない、車という文化や歴史を紐解き、物語として未来へつなげていきたい。

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