ポルシェ911カレラ(RR/7AT)「997最強説」は本当か

ポルシェ911カレラ(RR/7AT)「997最強説」は本当か

ポルシェ911カレラ(997世代/後期)の試乗記。このモデルこそ、「最後の911らしい911」と主張する向きも多い。そう言われるのは何故なのか? 一般道とワインディングで探った。

ポルシェ911ヒストリー

今回の読みものの主役は、ポルシェ911(997世代)。レセンス読者にとっては釈迦に説法かも知れないけれど、念の為歴代911を簡単に遡っておきたい。

いわゆるナロー・ポルシェと呼ばれる初代911がデビューしたのは1964年。

その後、大枠では930型と呼ばれるモデルが1974年に加わった。(厳密には全てのモデルが930と呼ばれるわけではないけれど、それを説くには1ページ丸々割く必要がありそうだから、それはいつか930型を主役にした試乗記をお届けするその日のお楽しみにとっておこう)。

そして3代目の964型(1989年〜)、4代目の993型(1993年〜)、5代目の996型(1997年〜)、6代目の997型(=今回の主役、2004年〜)、7代目の991型(2011年〜)、8代目の992型(2018年〜)と、911は連綿と続いている。

997型をヒストリー視点で見つめると
・水冷になって2代目(熟成が進んだ)
・ボディサイズがまださほど大きくなかった
・後期はガソリン直噴システム初採用
・後期はPDK(デュアルクラッチAT)初採用
という点がハイライトされるだろう。

この、後期型997を「最後のポルシェらしい911」なんて言う向きも少なからずいる。彼らは何をもってそう述べるのだろうか。試乗で探ってみたいと思う。

997型911のハイライト

997型の911、それも後期型の外観を見ていると、たしかに2022年時点の現行型(992型)より随分小さく感じる。

またポルシェあるあるではあるけれど、前期型から後期型になり、私には見た目がシュッと洗練されて見える。

LEDのデイライト(日本仕様はスモールライト)、テールライトなどがそう感じさせるのだろうか。ライト自体の形状も変わっており、前期型よりもエッジーなデザイン言語が取り入れられている。

内装も変わっていないようで変わっている。スイッチの質感がより精緻になった。スイッチそのものの素材も見直され、経年劣化でベタつくこともなくなった。

最新の911と比べると高級感は希薄で、そもそもあまりそこを重視していないように思えるけれど、少なくともチープだと感じることはない。しっかり作られた「いいもの感」は間違いなく感じる。

997型911前期→後期に世代交代する際の技術的ハイライトも少なからずある。

DFI(ダイレクト・フューエル・インジェクション)と呼ばれるガソリン直噴システムが初めて導入されている。これで高圧縮比/高出力/低燃費が叶えられる。

またPDK(ポルシェ・ドッペルクップルング)もこの世代から組み合わせられる。デュアルクラッチATであるこれは、素早い変速の手助けになる。マナーもいい。

さらに掘り下げていこう。

低い速度域での洗練性

997型911のこぢんまりとしたボディに身を収め、ブレーキを踏みつつキーを撚ると、幾ばくかの時間のクランキングのあとブルッとエンジンが目覚めた。

997型前期の記憶と照らし合わせると、比較的静かなオープニングだと感じる。アイドリングもまた穏やかである。

走り出しから粗い路面に出くわした。乗り心地はいい。むろん多くのSUVのような足さばきではないけれど、小さいストロークの中で積極的に衝撃を丸めこむ。

特にポルシェは「揺り戻し」ともいえる、セッティングへの反動が世代ごとにある。

たとえば996型911は、ほとんど全てのグレードで角の取れた乗り心地である。その後、997型前期は、はっきりといってどのモデルでも硬くなった。タイヤというよりも薄い板でも巻いているのかと思うほど、常に下からの突き上げがある。

その反動か、997型後期はマイルドだ。静かになったパワートレインと相まって、車格が上がったかのような感覚になる。

PDKは、こちらが積極的なドライビングをしない限り淡々と高いギアを選ぶ。低速の発車/停車を、傾斜のある場所で繰り返すような環境ではほんの僅かなノイズがセンターコンソール内で聞こえることもあるけれど、基本的にはトルコンATより迅速で賢く、快適だと感じた。

飛ばせ、正しい姿勢で

いざワインディングに飛びこむと、すぐにポルシェ911に乗っているのだという強い実感が湧き上がってくる。

アクセルを踏み込むと、低速域で鳴りを潜めていたフラット6がジャーーンと音量を高めていく。この音、空冷エンジンに近い。やや雑味がありながら、高回転域で粒が小さくなるこの音を聴くと、精密に作り込まれたポルシェに乗っているという満足感にどっぷり浸れる。

コーナーに飛びこむと、911の味の濃さを、その後2世代よりも感じられる。中途半端な荷重移動では絶対に上手く曲がれない。フロントを自由にし、リアにしっかりと荷重を与えながら回り込む。それも低いスピードではだめで、必ず高いスピードでないと味わい尽くせない。

新しい911は、どんなレベルのドライバーでも上手に走られるようになった一方で(その理由の大部分はホイールベース延長と電子制御の発達)、この997世代の911は「真面目に運転しないとミスするぞ」とドライバーにまっすぐ語りかけているような感じがするのだった。

997型911は最強なのか

ここまで書いてきて、私は気づいた。

あの世代よりも◯◯、前期と後期で△△。時間軸を通じ、無意識に比較していた。

911は各世代に大きな特徴があり、それも前期/後期で表情が変わるのだ。

それぞれの表情は、(基本的に)RR(リアエンジン/リア駆動)を一貫して採用しているからこそ、世代ごとの差をより浮き彫りにしていると言える。

実はこれが出来る車は他にあまりない。

エンジンや駆動方式、何なら呼び名が変わったりする車だらけのこの世の中で、ポルシェ911だけが特別な理由である。

そんな中で、997型911は、それより新しい911より大きくなく、繰り返しになるがRRであることを強く感じさせる設計であり、パワートレインにも荒々しさが残っている。それでいてPDKにより、快適に走る時と、積極的に攻める時のメリハリも叶えられている。

後期型997を「最後のポルシェらしい911」と述べるポルシェ・フリークの意見を私も尊重したいと思う。

SPEC

ポルシェ911カレラ

年式
2008年
全長
4435mm
全幅
1810mm
全高
1310mm
ホイールベース
2350mm
トレッド(前)
1490mm
トレッド(後)
1540mm
車重
1490kg
パワートレイン
3.6リッター水平対向6気筒
エンジン最高出力
345ps/6500rpm
エンジン最大トルク
390Nm/4400rpm
サスペンション(前)
ストラット式
サスペンション(後)
マルチリンク式
タイヤ(前)
235/40 ZR18
タイヤ(後)
265/40 ZR18
メーカー
価格
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