カーキとブラックで仕立てられた120系プラド。森の中でも街中でも映えるそのカスタムは、クルマを自由に楽しむという感覚を思い出させてくれる。
街にも馴染む装い
カーキとブラックに塗り分けられたボディが、鈍い光を放っていた。
グリルの中央には、クラシカルな「TOYOTA」のロゴ。純正のエンブレムではなく、あえてシンプルなレタリングに置き換えられているのが印象的だ。顔つきが引き締まり、どこか往年のランドクルーザーを思わせる。
タイヤはノーマルよりひとまわり力強い。XTREME-Jの17インチホイールに履かせたオールテレインタイヤが、足元に影を落とし、停車中でも「走り出したらどこにでも行ける」という雰囲気を漂わせる。
リアゲートには、ブラックアウトされていたエンブレム。テールランプもスモーク仕様に換えられ、光と影のコントラストの中で無骨さを際立たせている。
クルマ雑誌よりも、むしろファッション誌のストリートスナップに登場しそうな装いだ。
アウトドアで使う道具というより、街角を走る姿のほうがしっくりくる。まるでファッションの一部としてクルマを楽しむ人のための存在のように感じられた。
ライトカスタムの持ち味
この個体は、いわゆる“オフロードガチ勢”からすれば軽い仕立てに過ぎないだろう。サスペンションをいじるわけでもなく、リフトアップもされていない。エクステリアの色とパーツを整えただけのライトなカスタム。
けれど、この軽やかさはむしろプラドの持ち味だ。もともとプラドは、ヘビーデューティな本家ランドクルーザーの弟分として誕生した。都市やファミリーユースを想定し、日常の足としても扱いやすいように設計された“ライトデューティー”の存在だ。
だからこそ、足まわりをノーマルのままにしておくという選択が似合う。走りはあくまで素直で、シティSUVのような乗り心地を保ちながら、見た目にはアウトドアやアドベンチャーの雰囲気を漂わせる。
もともとプラドのデザインは端正でバランスが取れているが、この個体のように意図的に無骨な仕立てを施すと、違う顔を見せてくれる。
街中で同じモデルのプラドとすれ違っても、この仕立てまで重なることはまずないだろう。他と違うクルマに乗っているという高揚感と満足感がこみ上げる。
本物の四駆の血筋
ライトデューティーとはいえ、プラドはランドクルーザーの名を冠する“四駆”である。
都市に馴染むキャラクターを持ちながら、その骨格は本物だ。ラダーフレームを採用し、フルタイム4WDを備える。電子制御が発達する以前から、物理的な強さで信頼を勝ち得てきた存在だ。
海外に目を向ければ、その実力は、本家ランドクルーザー同様、今なお証明されている。特にオーストラリア、中東、アフリカといった過酷な環境では「信頼できる相棒」として使われており、人気が高い。
だから、この個体のアウトドアを思わせるスタイルも相まって、どこかへ冒険に出かけたくなる心をくすぐられる。
林道に足を踏み入れれば、未舗装路を難なくこなしてくれる余裕があるし、ちょっとした雪道くらいなら安心して走破できるだろう。実際にそこへ出かけるかどうかは別にして、そういう選択肢を常に備えていることが気持ちを高揚させてくれる。
街中こそ似合うと感じながらも、自然の中に持ち込むとさらに映える。
木々に囲まれた駐車場でふと振り返ったとき、その存在が一層頼もしく感じられるのは、このクルマがただの都市型SUVではなく、本物の四駆の血を持っているからだろう。
楽しみ方は自分次第
デビューから約20年を経て、良質なヤングタイマーへと移ろいつつある120系プラド。楽しみ方は人それぞれだ。オリジナルを大切に守り抜くのもいいし、この個体のように自分の感性でカスタムし、新しい顔を与えるのもまた一つの道だ。
このクルマも、このまま乗るのもいいし、さらに自分好みに手を加えていくのもいい。走行距離5.6万kmという低走行で、内装のコンディションも良好な一台。だからこそ「カスタムはもったいない」と言う人もいるだろう。
でも、それでいい。人から異を唱えられたとき、自分は人と違う選択をしているのだと実感できるし、逆に自分の価値観に共感してもらえたときには大きな喜びにつながる。そのどちらもが、カスタムカーに乗る醍醐味だろう。
リセールや将来的な価値を考えれば、オリジナルを維持するほうが得策かもしれない。だがクルマとの向き合い方はそれだけではない。結局大切なのは、クルマそのものの価値よりも「そのクルマで何をして楽しむか」だ。
プラドは、そのベースとして最適な一台だ。都市で扱いやすいサイズと素直な走り、本物の四駆としての骨格。そのすべてが、自由度の幅を広げてくれる。
オリジナルを楽しむもよし、スタイルを追求するもよし。いずれの方向に進んでも、このクルマはしっかり応えてくれる。フルノーマルの個体をいまからカスタムするのは気が引けるかもしれないが、この一台のようにすでに仕立てられているなら、躊躇なくその世界に飛び込める。
日常をただ移動するだけでなく、自分の気分を高めるための道具としてクルマを持つ。そのとき、ファッションを楽しむようにこのプラドに乗るという選択は、とても自然で豊かなものに思える。
SPEC
トヨタ・ランドクルーザープラド 2.7 TX
- 年式
- 2006年式
- 全長
- 4715mm
- 全幅
- 1875mm
- 全高
- 1850mm
- ホイールベース
- 2790mm
- 車重
- 約1930kg
- パワートレイン
- 2.7リッター直列4気筒
- トランスミッション
- 4速AT
- エンジン最高出力
- 163ps/5200rpm
- エンジン最大トルク
- 246Nm/3800rpm
中園昌志 Masashi Nakazono
スペックや値段で優劣を決めるのではなく、ただ自分が面白いと思える車が好きで、日産エスカルゴから始まり、自分なりの愛車遍歴を重ねてきた。振り返ると、それぞれの車が、そのときの出来事や気持ちと結びついて記憶に残っている。新聞記者として文章と格闘し、ウェブ制作の現場でブランディングやマーケティングに向き合ってきた日々。そうした視点を活かしながら、ステータスや肩書きにとらわれず車を楽しむ仲間が増えていくきっかけを作りたい。そして、個性的な車たちとの出会いを、自分自身も楽しんでいきたい。