BMW 318i(FR/4AT)ザ・ふつう

BMW 318i(FR/4AT)ザ・ふつう

BMW 3シリーズの2代目、E30に抱いた感想は「ザ・ふつう」。しかし乗れば乗るほど、その主張しない味わいに、ゆっくりと惹かれることになっていったのだった。

六本木のカローラ

この記事で試乗するのはBMWの3シリーズ。といっても1986年式。37年も前の車だ。

BMW 3シリーズは、初代(E21)→2代目(E30)→3代目(E36)→4代目(E46)→5代目(E90)→6代目(F30)→7代目(G20)と続いており、今回の主役は2代目だ。

2代目は1982年に日本で発売開始。2ドアや4ドアセダン、カブリオレ、ワゴンなど、ラインナップが多く設定された。

1985年には意匠やモデル構成にわずかな変化があった。1987年にはマイナーチェンジが行われ、意匠や素材が大幅に変更を受けた。

パワートレインは1573〜1990ccの直列4気筒エンジンと、1990〜2693ccの直列6気筒エンジンの二本立てとなる。

とにかく売れたこの世代。好景気もあいまって、そこらじゅうで目にした時代がある。これが「六本木のカローラ」と呼ばれ、親しまれたゆえんである。

令和の今、かつてのBMW 3シリーズはどのような味わいなのか?最新型の3シリーズに通づるところはあるのか?気になったわれわれはドライブに連れ出すことにした。

もう全く違う車だ

久しぶりに実物を目の前にすると、その小ささに驚く。全長×全幅×全高=4325×1645×1380mm。現行モデルG20は参考までに4715mm×1825mm×1440mm。

もう全く違う車である。

一見カクカクしたデザインの印象を受けるけれど、よく見ると角が削り取られ、どこかやわらかい印象を受ける。ふしぎだ。

デザインは当時、クラウス・ルーテが担当した。彼の代表作としてNSUプリンツ4やRo80が挙げられることを考えると、この3シリーズの結果も頷けるというものだ。

なおここからは物凄く余談。ルーテは薬物中毒だった33歳の息子を自らの手で刺殺している。故殺罪で33か月の禁固刑を宣告されたが、刑期満了前に釈放。その後もBMWの外部コンサルタントとして働いた。

室内は今では考えられないほどシンプルだ。メーターやシフトゲートなど、何をとっても中庸の極みのようなデザイン。奇を衒っておらず、むしろ好感がもてる。おかげで視認性や操作性に一切の不満がない。

細いシフトノブをぐぐぐっとスライドさせて走り出してみた。

ザ・ふつうの良さ

走り出して驚いたのは、全ての動きに、特別感がなかったことだ。

今より重みのある操作系が、今よりゆったりと車を前に進める。

当たり前だが、エンジンの雄叫びや、目を見張るアジリティなどとは完全に無縁。ただただ実直な車であるという印象を受ける。

速くもないし、遅くもない。目立つわけでも、地味であるわけでもない。

ザ・ふつう。私は、そんな言葉を思い浮かべながらハンドルを握った。

そのまましばらく車を走らせ続けた。すると今度は、過度に鋭く切れるステアリングや、無理に固めたサスペンション、本来鳴るはずのない音を作り込んだ現代の車たちのことを思い出し、無性に不愉快になった。

それらに比べると、この3シリーズ、いかに素直で、バランスに優れた車であるかがわかってくる。翌朝目が覚めると、もう忘れているかもしれないこの乗り味だからこそ、当時、多くの人に愛された「スタンダード」になり得たのではないかと思った。

いい車の基準。近頃変わってきてやいないか。

ふと疲れた時に、折に触れて、ガレージに大切に仕舞っているこの3シリーズに火を入れてゆっくりと走る。そんなことができたらいいなとしみじみ思ったのだった。

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