アウディTTクーペ(FF/7AT)歴史上、欠かせぬ車

アウディTTクーペ(FF/7AT)歴史上、欠かせぬ車

アウディTTはアウディの歴史上、欠かしてはならない車に3世代を通じてなった。その理由は内外装のデザインに集約される。各世代を振り返り、デザイン、走りを見つめる。

アウディTTの歴史

アウディTTは1995年、クーペのスタディモデルとしてIAA(フランクフルトモーターショー)でデビューした。デザイナーは米国人のフリーマン・トーマス。同社の全く新しいデザインランゲージを模索した結果だった。

名前の由来は「マン島TTレース」ならびに、60年代のスポーティモデル「NSU TT」である。

同年、量産が決定する。スタディモデルからプロダクションモデルへの移行は、別のデザイナー(トルステン・ヴェンツェル)に白羽の矢が立つ。「数多くの技術仕様を細かく調整する必要がありました」とした上で「メディア各社は、デザインが大きく変わらなかったことを高く評価してくれました」と語る。

もっとも大きな変更点は、リアのサイドウインドウが追加されたことだった。スポーツカーとしてダイナミックな見た目を手にした。彼にとってTTは「最高品質のボディとラインを備えた走る彫刻作品」だったという。「ボディは1つの大きな塊から削り出されたように見え、従来のバンパーオーバーハングの無いフロントエンドが、クリアなフォルムを強調しています」と説明する。

デザイン要素は「円」だった。ヴェンツェルはデザイナーとして、円を「完璧なグラフィック形状」と捉える。インテリアのデザインにも数多くの円形要素が見られる。

また全てのラインに目的があるという。ヴェンツェルの発言を追っていくと、「Less is More=レス・イズ・モア」という言葉をしばしば用いることが分かる。「より少ないものは、より豊か」。「シンプルなデザインを追求することで、より美しく豊かな空間が生まれる」と説いたのはドイツの建築家、ミース・ファン・デル・ローエだ。ヴェンツェルは「本質的なところまで削減することで、TTのユニークなキャラクターを引き出しています」という。ヴェンツェルにもまたバウハウスの精神が息づいているのであった。

3代目アウディTT

衝撃を与えた初代〜2代目と代替わりしたのちの2014年、この3代目アウディTTが発表された。ビッグニュースは2代目−50kgの1230kgに抑えた車両重量だろう。

全体のシルエットは初代から受け継がれるものの、ラインは現代的な解釈とともに、同世代のアウディと共通項をもつようになった。

また「アウディバーチャルコックピット」と呼ばれるフルデジタルメーターを初採用した。

2019年にはマイナーチェンジが施される。外観はアウディR8のエッセンスが取り入れられる。標準モデルにも従来のSラインのデザインが取り入れられた。またこの世代のSラインは、シングルフレームグリルがグロスブラックの立体形状になる。バンパーやサイドスカート、リアディフューザーのデザインが新しくなっている。

内装も、シートをはじめ、かなりスポーティになった。またアルカンターラやレザー、ダイヤモンドステッチの効果もあり、大幅にプレミアム感が増したと筆者は感じる。

同時に、エアコン吹き出し口の中央に配される温度調節ダイヤルなど、実用性とデザイン面の両立にまだまだイノベーションの余地が残されていたのだなと見る度に感じる。

ルックスこそ魅力

走らせてみると ―突き放すような表現になってしまうことを百も承知で書くならば― さほどの魅力を感じづらい。

それはそもそもTTのベースは、FFを基本とするA3/ゴルフに過ぎないこと、また2リッターの4気筒ターボを横置きしているに過ぎないことが理由として挙げられよう。

またテスト車が前後に履く245/35 R19は、明らかにトゥーマッチだと言わざるを得ない。

名誉のために申し上げると、ボディはA3/ゴルフより明確に堅牢だし、車重に対してパワーがあり、端的に速い。けれど心を揺さぶり、乗ったことを思い出すだけで眠れなくなるような甘美さはないということだ。

その一方で、このルックスは強力である。テスト車のようなビビッドなカラーは、周囲がモノクロに見えてしまうくらい華がある。先に申し上げたとおり、内装はデザイナーの意地さえ感じるほどイノベーティブだ。

アウディTTの存在意義は、そこにあるのだ。それだけに後継車種の噂が一切聞こえてこないのが惜しい。ビジネスに取捨選択は付き物だが、アウディにとってTTはヘリテージを語るうえで揺るぎない宝物ではないのかと思うのだけれど。

SPEC

アウディTTクーペ

年式
2017年
全長
4180mm
全幅
1830mm
全高
1380mm
ホイールベース
2505mm
トレッド(前)
1570mm
トレッド(後)
1550mm
車重
1320kg
パワートレイン
2リッター直列4気筒ターボ
トランスミッション
7速AT
エンジン最高出力
230ps
エンジン最大トルク
370Nm/4300rpm
サスペンション(前)
ストラット
サスペンション(後)
4リンク
タイヤ(前)
245/35 R19
タイヤ(後)
245/35 R19
メーカー
価格
店舗
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