- ポルシェ / 911 カレラ(2014)
- ポルシェ / 911 カレラ(2017)
「操る」ということ
2台のポルシェ911カレラがある。991.1世代と991.2世代だ。2台に共通するマニュアル・トランスミッション。世代をまたぎつつMTならではの愉しみを見出す。

MTの911を駆る愉しみ
PDK全盛の中、マニュアル・トランスミッションのポルシェ911を駆る愉しみはどこにあるのか?レセンス編集部員の1人が言った。
この言葉が、この企画の発端となった。
ここに2台のポルシェ911がある。991世代の前期型と後期型。いわゆる991.1と991.2だ。2台、モデルチェンジ前後でドラスティックに変わった部分がある。パワートレインだ。
3.4リッター自然吸気だった水平対向6気筒は3リッターにダウンサイジングされターボ加給された。カレラ比較で最高出力は350ps→370ps、最大トルクは390Nm→450Nmへと増強された。ことポルシェ911において、搭載するパワートレインはしばしば話題の対象になる。
991.1と991.2の間でマニュアルギアボックス自体、変更されたというアナウンスは無い。
全体のフィーリィングの違いに注意しつつ、MTを駆る愉しみにどう影響し、今MTを選択する価値があるか、ということが知りたい。
トランスミッションは
まずは991.1ならびに991.2が搭載するマニュアル・トランスミッションがどのようなものであるかを解き明かそうではないか。
実はこの世代、PDK(デュアルクラッチAT)とMTの機構はほとんど同じである。PDKをあれこれしてMTにしたと言っていい。
事実、約75%はPDKとMTで同じパーツを使っている。
ただし、そもそもPDKのギア配列が一般的なHパターンとは異なる。ZFの資料によると、PDKの配列では、左上が6速、その下が4速、次がリバース、下が2速といった具合になってしまうのである。
これをMeCoSa(メカニカル・コンバーテッド・シフティング・アクチュエーション)で、「ふつうの」Hパターンに変換している。もっとも大きな箇所としては、ここの変更点だ。
その上、リアにエンジンがあり、リアを駆動するポルシェ911は、シフトケーブルを用いて動作する。このあたりもシフトフィーリングを左右するポイントである。
手のひらに伝わる感触
走り始める際に、「おっ」と感じるのはクラッチペダルの足裏にもたらすフィーリングである。
重い、と表現する執筆者も多いが、歴代911に比べると私は軽く感じる。軽い、のではなく、軽く感じるのはバネ感ゆえだと思う。クラッチペダルの踏み始めに少し重みがあり、そこから更に踏み込むとサクッと奥に行き着く。行き着いた際の衝撃吸収もうまい。快感、といってよい気持ちよさだ。
シフトノブを1速にインサート。コクっと吸い込まれるようにギアが入る。適度な重みとストローク感。これにクリック感が掛け合わされ、エンジニアが慎重に吟味し尽くしたことが手のひらに伝わってくる。
クラッチペダルを離す。どこでギアがエンゲージするか一発目でわかる明快さ。足の裏のごくわずかな動作にも従順。微小領域の反応が従順でエンストとは無縁だと思う。
1速、2速、3速。シフトアップしていくと、991.1と991.2の間に生じる世代間の違いがピュアに浮き彫りになった。
パワートレイン各世代
まず991.2世代からトライした。
1、2、3速。991.2世代の911に乗ってまず驚かされるのは、ターボエンジンとは思えない(という考えももう古いだろうか)リニアリティである。具体的には、そもそもブーストの掛かり方が速い。だからこちらの「待ち」がない。その上クラッチを繋いでアクセルを踏み込んだアイドリングの回転域プラスアルファからトルクがすぐに立ち上がっていく。
一般道では2速を超えたあたりで全開だと免許は取り消しである。怒涛の加速。次々とトルクが湧き出し、その終わりは見えない。さらに高らかに回転は上がる。柔軟で速い。
7速でゆっくりと巡航しながらポンとアクセルを踏んでみても、そこから豊かなトルクが生まれるのだから、この面でもグランドツアラーの鑑といっても良さそうだ。
991.1世代は、全く違った味わいを見せてくれる。アイドリングの音質は自然吸気とターボユニットの間で大差はない。
しかし不思議なことに、3速のみ、それも2500rpmで、クォンと3.4リッター自然吸気が咽び泣く。何度繰り返してもこの特定の状況でだ。なんとも言えない甘美な音。一般道で味わえる刹那の美しい旋律である。
確かに中〜高音域のサウンドは991.1が搭載する自然吸気エンジンに軍配が上がるが、今回のように一般道(京都の市街地)をメインとしたドライブであれば、991.2との差は気付きづらかった。スポーツエグゾーストをオプション選択していなければなおさらである。
どちらも楽しく官能的である。これだけは断言できる。
最後に1つ。リバースに入れる際の動作(=左にぐいっと倒して左前にインサートする)は、右ハンドル仕様では、力加減や感触ともに違和感を感じた。ここだけはどうしても書き加えておきたい。
やることが増える歓び
それぞれの違いが、MTという共通のツールのおかげで見いだせた。最後にMTならではの魅力はあるのか?である。
AT全盛の今、そもそもMT搭載車に乗るという行為そのものが特別なものであろう。普段の足車を伴う2台持ちも想定されるクルマだけに、休日だけMTということも有りうる。
アイドリングからのクラッチミート、シフトチェンジ時のクラッチミート、回転に耳を澄ませ慎重に操作…。リズムが掴めるまでに少し時間がかかるかも知れない。PDKの巧みな変速を体験すると、自分は何をしているのだろうと思うことさえあるだろう。
しかしタイミングをピタリと合わせれば、MTでしか得られない達成を味わえる。
やることが増えることで歓びも増す、という世の中、誠に面倒な(笑)人がいることを私は知っている。認めざるを得ない人もいるだろう。はっきりいって自己満足の世界である。
しかし自分の流儀で自分の信じる道をゆく。せっかくの趣味のクルマなのだから、操る歓びが増えてもいいではないか。その分だけ、面白さや醍醐味も増すというものだ。