雨に濡れ荒れた路面でも、姿勢は一切乱れない。ツインターボの刺激を内に秘めながら、前に出るのは余裕と安定感。頂点を走り続けていた時代のスバルが磨き上げた答えが、このレガシィB4 RSKリミテッドⅡだ。
雨の工業地帯という最適解
試乗した日は、偶然にも雨だった。
早朝の工業地帯。交通量は少なく、路面はところどころ荒れ、長い直線も確保できる。コンディションとしては決して良好とは言えないが、だからこそこのクルマの本質が見えやすい。
スバルの4WDセダンを試すなら、むしろ歓迎すべき環境だ。
走り出してすぐに感じるのは、路面状況に左右されない落ち着きだ。
水を含んだアスファルトでも、タイヤが神経質に逃げる気配はなく、アクセルを踏み足しても姿勢が乱れない。速度を上げても、怖さより先に「余裕」がくる。この感覚は、晴天時のワインディングよりも、こうした条件下でこそ際立つ。
RSKリミテッドⅡは、スペック上は260psを誇るツインターボのスポーツセダンだが、少なくともこの状況では速さを誇示しようとしない。
荒れた路面、雨、直線とコーナーが混在する工業地帯。そのすべてを、淡々と、しかし確実にこなしていく。
このクルマにとって、悪条件は試練ではなく、得意分野なのだと分かる。
ウズウズさせるコクピット
ドアを開け、シートに身を沈める。
まず驚かされるのは、内装の張りだ。20年以上前のクルマとは思えない。ホールド感の強いハーフレザーシートは、へたりをほとんど感じさせず、シフトレバーやステアリングにもガタつきはない。
それもそのはず、オドメーターは6,000km台。
RSKというグレードの性格上、酷使された個体が多い中でこれは異例と言っていい。
メーターはヘッドライトオフの状態でもはっきりと発光し、コクピットとしての高揚感を演出する。
手に触れる純正MOMOステアリングはがっしりとしており、「SPORT SHIFT」と刻まれたシフトスイッチが、このクルマがただの快適セダンではないことを主張する。
「早くマニュアルモードで走らせたい」そんな気持ちを自然と呼び起こす。
ツインターボとSPORT SHIFT
この3代目レガシィB4 RSKに搭載されるのは、2リッター水平対向4気筒2ステージツインターボエンジン。
低回転域では扱いやすさを重視し、高回転域では一気に過給が立ち上がる、当時のスバルらしい凝ったメカニズムだ。
雨の路面でも、アクセル操作に対する反応は唐突ではない。
踏み始めは穏やかで、トルクが必要な場面ではしっかりと応える。NAのようにリニアとは言えないが、過給の入り方に唐突さはなく、ペースは作りやすい。
マニュアルモードに切り替えると、メーターパネル中央上部にシフト位置を示すインジゲーターが浮かび上がる。
4速ATという数字だけ見れば古さは否めないが、ステアリングのスイッチで操作する感覚と、この演出が、運転を一気にスポーティなものへ引き寄せる。
そして、常に感じるのは、やはり姿勢の安定感だ。
段差や凹凸を踏んでも、ボディは大きく揺さぶられない。足まわりはやや硬めで、跳ねる場面もあるが、その動きは小さく収まり、直進性は高い。
速さよりも、破綻しないことを最優先にした作り。その思想が、雨の工業地帯ではっきりと体感できる。
スバルが生み出した答え
この「ビクともしない」感覚の正体は、言うまでもなくスバルがラリーで培ってきた技術の延長線にある。
3代目レガシィが登場した1998年は、スバルがWRCでマニュファクチャラーズタイトル3連覇を達成した直後。
勝つためのノウハウは、すでにスバルの中に蓄積されていた。
低重心の水平対向エンジン、常に路面を掴んでいるかのような4WD、そしてそれらを受け止めるボディ剛性。
それは、ラリーで勝つための装備が、日常で破綻しないための基礎としてこのレガシィに落とし込まれている。
RSKリミテッドⅡは、ツインターボという刺激的な要素を持ちながら、決して荒々しいクルマではない。
むしろ、当時のスバルが最も勢いに乗っていた時代の“余裕”が、そのまま形になったような存在だ。そしてこの個体は良好なコンディションによって、その時代の空気を今に伝えている。
速さだけでは語れない。
このクルマは、頂点を走り続けていた時代のスバルが生み出した、迷いのない答えだ。

中園昌志 Masashi Nakazono
スペックや値段で優劣を決めるのではなく、ただ自分が面白いと思える車が好きで、日産エスカルゴから始まり、自分なりの愛車遍歴を重ねてきた。振り返ると、それぞれの車が、そのときの出来事や気持ちと結びついて記憶に残っている。新聞記者として文章と格闘し、ウェブ制作の現場でブランディングやマーケティングに向き合ってきた日々。そうした視点を活かしながら、ステータスや肩書きにとらわれず車を楽しむ仲間が増えていくきっかけを作りたい。そして、個性的な車たちとの出会いを、自分自身も楽しんでいきたい。

























