メルセデス・ベンツS400d 4マティック(4WD/9AT)旗艦セダンの矜持

メルセデス・ベンツS400d 4マティック(4WD/9AT)旗艦セダンの矜持

メルセデス・ベンツはSクラスをもって、常に高いハードルを自ら作り、それを華麗に乗り越えてきた。新型になる度に「まだ伸びしろがあったのか」と唸ることになるのだ。

W223型のSクラスについて

満を持して2021年に登場した7代目メルセデス・ベンツSクラス(W223型)。技術的にも視覚的にも、今、何が出来るかということに徹底して向き合ったことが隅々と感じられる。

エクステリアのデザインにおける基本思想には「Sensual Purity(官能的純粋)」というキーワードが用いられているのが本世代の特徴。

ラインやエッジを極力排除し、代わりに曲面で陰影を生み出す手法が主。残ったラインで印象的なのはサイドウインドウのすぐ下。車高を低く見せる効果を狙った。格納型のドアノブを採用したのもメルセデス・ベンツとしては初めて。せり出たドアノブを引いた際の動作幅は小さく、若干の電子的な感触は近代的である。

テールライト上部、左右につながるクロームラインはボディを幅広く見せる狙いだという。

内装にもこのキーワードは引き継がれる。もっとも目立つのは12.3インチのメータークラスターと12.8インチの縦型OLED画面だろう。メータークラスターには、2つのカメラが仕込まれドライバーの視線を追跡する。結果、メーターは浮いて見える3D様式になっている。

全体を通してスムーズなデザインになり、各種スイッチも、一見、物理スイッチ風でありながら感圧式であったりと現代感を感じる。

とはいえ画面内に移設するコントローラーと、画面外に残したコントローラーの選択はよく練られており、そのあたりの勘所はやはりメルセデス・ベンツらしいなと感心する。

ディーゼルと四輪操舵は?

W223世代のSクラスは、W222世代に比べて全長は+55mmの5210mm、ホイールベースは+100mmの3105mmに達する。がW223に乗っていると後輪操舵(約60km/h以下は前輪と逆位相4.5°、約60km/h以上は同位相3°)のお陰で延長分ほどの苦痛は感じられない。

S400dが搭載するのは、3リッター直列6気筒ディーゼルエンジンだ。330psと700Nmを湧出する。ターボチャージャーは2ステージとなり可変タービン機構を採用。物自体も小さい。

「9Gトロニック」と呼ばれるオートマティックトランスミッションは、変速比幅が広い。だから矢継ぎ早に(しかしとろけるようになめらかに)変速が進んでゆく。

「ディーゼル・エンジンだ」ということを意識してもなお、室内の静粛性は高い。ほとんどディーゼルノックが侵入してこないと言っても誰も異論を唱える人はいないだろう。

二分した乗り心地への思い

乗り心地に関してはレセンス編集部の間で評価が二分した。大まかに先代(W222型)の方が良いという意見と、この世代(W223型)の方が良いという分かれ方である。

これに対して筆者なりの考え方は、両車、アプローチが異なるというもの。W222型の方は、最初から最後までふわりと衝撃を受け止め、感覚的に2〜3周期くらい経て衝撃を抑えるイメージ。一方、W223型は、あたりこそ少しばかり角が立つけれど、収束は限りなく短い。バネの伸び側からスッと引き戻すように収束する。

いわゆる「縦目」と呼ばれる世代のメルセデス・ベンツはまさにW222寄り(いやW222が縦目寄りという表現が正確か)で、なんなら常に浮遊しているような乗り心地だった。一方参考までにBEVでSクラス相当の「EQS」は、よりドライバーコンシャスな仕立てで、W223よりさらに情報を伝えつつも収束は速い。

誤解なきようお伝えすると、どれも「Sクラス感」はあるのだ(それはつまり極めて快適)。しかしコシと収まりの良さという意味ではW223型の方が現代的だと感じられる。

きちんと路面状況を伝えながらも乗り心地は担保するという相反する目的を高いレベルで両立したことの証左なのではないかと考える。

セダン屋の矜持が滲み出る

メルセデス・ベンツSクラスがモデルチェンジし、新車に乗るたびに、最初はちょっとの違和感がある。それは先代からの飛躍に対する驚きの感情とともに感じられるものだ。

しかし数kmも走れば、慣れる。馴染んでくるという表現の方が適切か。そして1世代前のモデルに乗ると、新型との差を感じる。

「あの時はこれ以上の伸びしろは無いと思っていたのに、あったんだ…」といった感情だ。

Sクラスはそうやって前進してきた。現状維持を目指しているのでは衰退する、という言葉があるけれど、Sクラスは自ら高いハードルを作り、それを毎度超えている製品だと感じる。

今、商いのことだけを考えれば、SUVの方が遥かに儲かる。しかしSクラスに乗っていると、スイッチ1つの感触をとっても、乗り心地をとっても「セダン屋の矜持」が滲み出ているように感じる。ああいいなあ。今回のテスト車のようにスモークレスの窓と明るい内装、粋なシャンパンゴールドのボディを組み合わせたファーストオーナーが余計羨ましくなってくる。

SPEC

メルセデス・ベンツS400d 4マティック

年式
2021年
全長
5210mm
全幅
1930mm
全高
1505mm
ホイールベース
3105mm
トレッド(前)
1650mm
トレッド(後)
1650mm
車重
2180kg
パワートレイン
2.9リッター直列6気筒ディーゼルターボ
トランスミッション
9速AT
エンジン最高出力
330ps/3600-4200rpm
エンジン最大トルク
700Nm/1200-3200rpm
サスペンション(前)
ダブルウィッシュボーン
サスペンション(後)
マルチリンク式
タイヤ(前)
255/40 R20
タイヤ(後)
285/35 R20
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