ポルシェ・ボクスター(MR/6MT)/ポルシェ718ボクスターGTS(MR/6MT)真っ白なスニーカーを履いて

ポルシェ・ボクスター(MR/6MT)/ポルシェ718ボクスターGTS(MR/6MT)真っ白なスニーカーを履いて

ポルシェ・ボクスター(987型)とポルシェ718ボクスターGTS(982型)の比較試乗。同一車名、同一パッケージながら違いは極めて大きい。

ポルシェを取り巻く「酸いも甘いも」

ポルシェは1990年代前半、経営危機に陥っていた。というのは多くの方がご存知かもしれない。

この頃といえば、ポルシェは911しか造っていなかった。ミッドシップの914、FRの924や928を市場投入してきたけれど、ポルシェ=911という歴史に頼った一本足打法はリスクを伴い、結果、経営そのものを難しくした。

ここからは筆者個人の意見である。

過去の失敗にはふたつの理由があったと思う。ひとつは911以外のモデルそれぞれに「廉価」という言葉がつきまとった。

ある種、神格化されたポルシェ911を携える高級車ブランドに「廉価」という言葉はご法度だったのではあるまいか。

また911というアイコニックなモデルが連綿と継続してきた一方で、先述の冒険的モデルたちには、「代わりになるクルマ」が多くあったことも影響している。

念の為申し上げておくが、ミドシップやFRポルシェ自体に罪はない。

令和の今、それぞれに改めてトライしてみても、性能の高さ、巧みなパッケージングから学ばせられることは多い。

長い歴史を経て再評価されていることも、それを裏付けているのだから。

「一転機」 ポルシェ・ボクスター

危機的状況にあったポルシェが満を持して投入したのがポルシェ・ボクスターだった。価格帯やパッケージングだけを見ると「悪夢再来」と思えなくもないが、ポルシェ・ボクスターは成功した。

1993年のデトロイトショー。シルバーのボディに赤い内装を組み合わせた「ボクスター・コンセプト」がデビュー。

「ボクサー(=水平対向エンジン)」と「ロードスター(=二座のオープン)」を掛け合わせた造語から来るボクスターが注目を集めたのには、プライスタグ以外にふたつの理由があったと思う。

まず第一に、ユーノス・ロードスターの存在。発売初年に国内で9307台、翌年は9万3626台。世界的大ヒットとなった。

BMW Z3、メルセデス・ベンツSLK、MGF、フィアット・バルケッタが海外から続いた。ボクスターもである。

またデザインが新鮮であった点も理由のひとつだと考える。コンピューターグラフィックの進歩で、複雑な面構成が叶う。エッジやラインの彫り込みで個性を表現するのではなく、ぬめりあるふくよかなボディが新鮮な感覚で受け入れられたようだ。(ティドロップ型のヘッドライトには相変わらず賛否があるけれど)

987と718ボクスター どう違う?

ポルシェ・ボクスターは、986型から始まり、987型、981型、982型(718ボクスター=この記事では便宜上「718型」とする)へと世代交代してきた。911の世代交代に準ずる。

今回試乗するのは987型と718型の2モデル。前者は厳密には987型後期にあたるノーマルグレード。後者は「718ボクスター」と呼ばれるようになった世代。グレードは「GTS」。

まず外観を見比べると、やはり718ボクスターGTSのほうがアグレッシブだ。これは「GTS」というグレードによる所が大きい。GTSとは、更にその上のボクスター・スパイダーと、その下のSの良いところ取りのようなグレードである。具体的にはボクスター・スパイダーほどハードコアではなく、Sの快適性も程々に担保されているイメージだ。

とはいえ通常の718ボクスターも、いや981世代以降は、エッジーなボディエレメントが多用されている。

たとえばフロントノーズは見る者の印象を大きく左右しよう。987世代まではツルンとしたイルカの頭頂部を思い起こさせる意匠だったが、981以降は切り立っている。ボディサイドを前後に走る自信に満ち溢れた深いラインも、それより前の世代になかったディテールだ。

一方ヘッドライト上端からコックピットまで、そしてリアのフェンダーからテールライトまで続くボディの縦方向の盛り上がり、また真横から見たキャビンを中心に前後に等しく伸びるシルエットは、ボクスターらしい時代を超えたアイコニックな見た目の共通点だと言える。

ポルシェ・ボクスター2台の内装は、はっきりといって事務的である。とはいえ986型の初期などと比べると、動的質感は格段に上がっている。ボタンの押しごたえなどは、いわゆるドイツ車のそれ。チキチキと硬質感がある。

718型は、カレラGTからインスピレーションを得たであろう、前方のダッシュボードに向けて傾斜が高まる形状。カレラGTの運転経験者によると、シフトノブ上端の位置が高すぎて運転しづらいというが、718型はなかなかしっくり来る。

さて、通常2台を比較する場合、1台にじっくりと向き合った後、もう1台に乗り換えるということが多いが、今回は同じ道を何度も乗り換えることで観察した。

718ボクスターGTSに乗る。アルカンターラ巻きステアリングが、おのずと心地よい緊張をもたらす。

標準モードで走らせる限り、排気音は静か。室内に入ってくる音は、排気音<エンジンのメカニカル音。4.0リッター水平対向6気筒のミーンといった高音が心地よい。なおこのユニットは、718スパイダー/ケイマンGT4と同世代である。

乗り心地もよい。ドライバーズシートからボンネットをみると、結構小刻みにヒョコヒョコと上下動しているけれど、室内は平穏。シートのゆとりある形状/柔らかさのおかげもあるのだろうと感じた。

本格的に走らせると刺激が強いであろうことは想像できたので、物足りないものの987型ボクスターに乗り換えることにした。結果、興味深い気付きがあった。

987型のドアを閉める感触、ドアミラーに写る景色、すべてが全く違うクルマのように感じた。ドアの感触は軽く、ドアミラーに写るリアフェンダーは718型よりも遥かに控えめなのである。

クラッチを踏んだ感触も異なる。むろん10年前の6.9万km走った車体だから個体差はあるかもしれないが987型はひとつひとつの動作に重厚感がある。

また718型だと、クラッチペダルを踏み始めた初期にやや重みがあり、中盤からはスコンと軽くなる一方で、987型は奥に行き着くまで等しく重い。これはシフトフィールにも共通しており、718型は「バネ感」、987型は「ゴリっと感」といおうか、それぞれ大きく異なった。

スピードを高めた先に見えるものは

そこからスピードをあげていく。今回の試乗コースはタイトなコーナーが連続し、かつ傾斜をともなう山坂道を選んだ。

718型はフールプルーフ型であると感じた。舵角は最小限のままコーナー中腹から一定のアクセル踏力を与えても、制御をほどほどに介入させることで破綻を防ぐ。よほどのことがないとスピンしないだろうなと安心感をもたらしてくれる。

987型はといえば、油断しているとリアが流れやすい。718型と比べると、かなりフットワークは身軽。言い換えるとドライバーに委ねられる領域が大きい。

987型から718型に乗り換えると、その安心感にもたれかかる感覚が心地よい。スポーツモード時の絶妙なオートブリッパーも「このクルマは自分の脳力以上になにか上手なことをしてくれるぞ」という、機械に裏付けられた自信を与える。

718型から987型の順であれば、長袖から半袖のTシャツに着替えたような身軽な感覚になる。同時に自然と体に力が入り車体挙動に注意深く耳を傾けるはずだ。

同じ「ラン」というエクササイズをしているのに、987型は山の空気も小さな虫も、鮮烈な日差しを受け入れる感覚。

新しい後期型は、どちらかというとジムのランニングマシンの上にいるような、外界からの介在がない心地よさを覚える。

しかしいずれも有酸素運動で、汗をかく運動であることに変わりないのだけど。

同じ「ボクスター」こうも違うのか

2台を交互に乗り換えることで、同じ「ボクスター」という車名なのに、かくも違うものかと改めて感心した。

それは世代による違いも大きいけれど、グレードの違いによる差も大きい。

同時に感心するのは、乗った感覚の大いなる違いとともに、根底に通づるフットワークが驚くほど共通している点。

クルマを操る、という純粋な行為を全面肯定し、そして全力で背中を押してくれながらも、快適性、そしてステータス性まで担保してくれるクルマは他にない。

真っ白なスニーカーを手にして、さあどこへ出かけよう? と考えるだけでも楽しい。そのうえスニーカーさえあれば、どこでも走り、楽しむことができる。

触れる度に、新鮮な気持ちになれる理由が、2世代にわたる試乗を通じてわかった。あとはあなた好みの問題である。

SPEC

ポルシェ・ボクスター

年式
2011年
全長
4340mm
全幅
1800mm
全高
1290mm
ホイールベース
2420mm
トレッド(前)
1490mm
トレッド(後)
1540mm
車重
1370kg
パワートレイン
2.9リッター水平対向6気筒
トランスミッション
6速MT
エンジン最高出力
255ps
エンジン最大トルク
290Nm/6000rpm
サスペンション(前)
ストラット
サスペンション(後)
ストラット
タイヤ(前)
205/55ZR17
タイヤ(後)
235/50ZR17

ポルシェ718ボクスターGTS

年式
2021年
全長
4390mm
全幅
1800mm
全高
1270mm
ホイールベース
2480mm
トレッド(前)
1530mm
トレッド(後)
1540m
車重
1440kg
パワートレイン
4.0リッター水平対向6気筒
トランスミッション
6速MT
エンジン最高出力
400ps
エンジン最大トルク
420Nm/6500rpm
サスペンション(前)
ストラット
サスペンション(後)
ストラット
タイヤ(前)
235/35ZR20
タイヤ(後)
235/35ZR20
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