ルノー・カングー(FF/4AT)「もっと楽しい」の模範解答

鮮やかなレモンイエローに低走行、珍しいハッチバックとサンルーフ。20年を経てもなお、暮らしを明るくしてくれるフランス車の相棒、それが初代ルノー・カングーだ。

鮮やかなレモンイエローに低走行、珍しいハッチバックとサンルーフ。20年を経てもなお、暮らしを明るくしてくれるフランス車の相棒、それが初代ルノー・カングーだ。

ブランドコンセプト

古いクルマに触れるとき、説明書やカタログをめくるのは密かな楽しみのひとつだ。

ページのデザインや言い回しに、その時代の空気が閉じ込められている。運が良ければ、歴代オーナーが大切に残してくれた当時の販促物に出会えることもあり、そんな瞬間には思わず感謝の気持ちが湧いてくる。

今回この初代カングーに触れるにあたり、もちろん説明書を開いた。

ルノー・カングー(FF/4AT)「もっと楽しい」の模範解答

インクの匂いがかすかに残る、綺麗なままのページには「ようこそルノー車へ」の文字。自分が買ったわけではないのに、歓迎されているようで思わず頬が緩む。

別の冊子には「レ・ヴォアチュール・ア・ヴィーヴル」(Les voitures à vivre)と記されていた。ルノーが掲げてきたブランドコンセプトで、直訳すれば「生活のためのクルマ」。

それをルノー・ジャポンは「ルノーだからもっと楽しい」とローカライズして打ち出した。

「ドライブをもっと楽しく、生活をもっと豊かに。人とクルマとの良い関係づくりを」――そんな哲学を一言に凝縮した、秀逸なコピーライティングだ。

ルノー・カングー(FF/4AT)「もっと楽しい」の模範解答

その言葉にふさわしく、このカングーにも生活を明るくする工夫が詰まっている。

いま見ても愛嬌を失わないデザイン。大きな荷室に加え、頭上にはオーバーヘッド収納。さらにパノラミックルーフが開放感とちょっとした非日常感をもたらしてくれる。

本国では郵便車や商用車として働く一方で、家族の送迎や週末のレジャーにも自然に馴染む。

カングーはまさに「もっと楽しい」という言葉をもっとも体現しているクルマかもしれない。

ルノー・カングー(FF/4AT)「もっと楽しい」の模範解答

カングーと言えば

カングーと言えば、この色を思い浮かべる人も多いだろう。鮮やかなレモンイエローは、モデルのイメージを決定づけたカラーだ。

この色以外は想像しづらいほど、カングーという存在と結びついている。もちろん、他のカラーにも魅力はあるけれど、このレモンイエローこそが「カングーに乗っている」という実感をいちばん与えてくれる。

街に佇むだけで周囲の景色に差し色を添える。

日常の風景にささやかな楽しさを持ち込むその存在感は、ただの実用車にとどまらないカングーらしさを物語っている。

ルノー・カングー(FF/4AT)「もっと楽しい」の模範解答

2000年代の国産車に、これほどポップで堂々としたイエローはほとんどなかった気がする。無難な色が選ばれる日常の足に、ここまで鮮烈な彩りを与えるのはフランス車ならではの感性だ。

今回の個体は走行距離2.8万kmと低走行。20年近く経った今も、レモンイエローの明るさはみずみずしく残っている。ただ状態が良いという以上に、この鮮やかな黄色にいまも乗れること自体が、何よりのよろこびだ。

ルノー・カングー(FF/4AT)「もっと楽しい」の模範解答

ハッチバックが新鮮に

カングーのリアゲートと言えば、当然のように観音開きのダブルバックドアを思い浮かべる。日本で流通した大半がその仕様であり、「カングーらしさ」として定着しているからだ。

だからこそ実車に触れるときも、その光景を疑わなかった。馴染みのない仕組みにワクワクしながら後ろへ回り込むと、そこにあったのは一枚ドアのハッチバック。意外さに思わず息をのむ。

普通ならハッチバックの方が見慣れていて、両開きのリアゲートこそが珍しいはずだ。

けれどカングーに限っては事情が逆転する。観音開きが当然という思い込みがあるからこそ、一枚ドアのハッチバックに出会うと、むしろそちらのほうが新鮮に映るのだ。

ルノー・カングー(FF/4AT)「もっと楽しい」の模範解答

ダブルバックドアのほうがカングーらしい遊び心を感じさせるのは確かだ。

けれど、ハッチバックにも独自の魅力がある。大きく跳ね上げればちょっとした屋根代わりになり、アウトドアではバックドアテントを取り付けることもできそうだ。

大きな一枚ドアの利点は荷物の積み降ろしだけではない。広い窓のおかげで後方の見切りがよく、車庫入れや狭い路地でも扱いやすい。

荷室の上には、後部座席の天井にかけて左右に並ぶオーバーヘッドコンソール。扉は2つに分かれているが、中はひと続きになっていて、工夫次第でさまざまな荷物をしまえる。大きな荷室と合わせて、日常の買い物からレジャーまで柔軟に使いこなせる空間だ。

ルノー・カングー(FF/4AT)「もっと楽しい」の模範解答

現代のミニバンのように電動ではないが、軽々と開け閉めできる両側スライドドアも健在。

そして、後席の天井は大きくスライド開口するパノラミックサンルーフ。前席上部はフランス車らしいガラスルーフが、日中は光を取り込み、夜には星空を映し出す。

実用と遊び心、その両方を求めるカングーらしさが、この仕様からもうかがえる。

ルノー・カングー(FF/4AT)「もっと楽しい」の模範解答

日常も、非日常も

1.6リッター直列4気筒エンジンに4速ATという組み合わせは、最新の基準からすれば控えめだ。だが、街中では必要十分な力を発揮し、低速から素直にトルクが立ち上がる。アクセルを深く踏み込む必要もなく、自然体で走れる気楽さがある。

大きなフロントガラス越しに広がる、見晴らしの良さも印象的だ。ワンボックスかトラックに乗っているような視界感覚で、開放感もたっぷりある。

ルノー・カングー(FF/4AT)「もっと楽しい」の模範解答

サスペンションは柔軟で、路面の凹凸をしなやかにいなす。車体の大きさ以上にゆとりを感じさせ、スピードを出さずとも心地よい。

厚みのあるシートがその感覚を後押しする。沈み込むのではなく、しっかりと身体を支えながら長時間座っても疲れにくい――これもまたフランス車特有の快適さだ。

ステアリングは商用車由来らしく大ぶりで少し重い。しかしそれもカングーの素性を感じさせ、むしろ味わいに思えてくる。

ルノー・カングー(FF/4AT)「もっと楽しい」の模範解答

最新のクルマと比べれば装備も、走りも素朴だが、だからといって不足を感じることはない。現代の目線で見ても過不足のない実用性に、独特のデザインと遊び心が重なる。

日常では気分を上げ、週末のひとときでは頼れる相棒。サンルーフを開けて見上げれば、いつもの街並みさえ非日常の景色に変わる。

「ルノーだからもっと楽しい」

日常の道をゆったり流していると、自然と思い当たる。ブランドが掲げてきたその言葉に対する模範解答が、このカングーなのだと。

そしてこれからも変わらず、暮らしを楽しくしてくれるに違いない。

ルノー・カングー(FF/4AT)「もっと楽しい」の模範解答

SPEC

ルノー・カングー 1.6

年式
2005年式
全長
4035mm
全幅
1675mm
全高
1810mm
ホイールベース
2600mm
車重
1270kg
パワートレイン
1.6リッター 直列4気筒
トランスミッション
4速AT
  • 中園昌志 Masashi Nakazono

    スペックや値段で優劣を決めるのではなく、ただ自分が面白いと思える車が好きで、日産エスカルゴから始まり、自分なりの愛車遍歴を重ねてきた。振り返ると、それぞれの車が、そのときの出来事や気持ちと結びついて記憶に残っている。新聞記者として文章と格闘し、ウェブ制作の現場でブランディングやマーケティングに向き合ってきた日々。そうした視点を活かしながら、ステータスや肩書きにとらわれず車を楽しむ仲間が増えていくきっかけを作りたい。そして、個性的な車たちとの出会いを、自分自身も楽しんでいきたい。

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