国産SUVから次の一歩を踏み出すなら、世界的ブランドが手掛ける正統派SUVという選択肢がある。レンジローバー・ヴェラールは、日常を豊かに変えるきっかけを与えてくれる一台だ。
ステップアップするなら
SUVが自動車市場の主役と言っていい時代になった。
街を走れば、国産・輸入車を問わず、多彩なSUVが行き交う。日常の足から趣味の相棒まで、用途に合わせて選べる選択肢はかつてないほど広がった。
すでに国産SUVを所有していて、そろそろ次のステップに行きたいと考えるとき、思い浮かぶのはどんな車だろう。
順当に同じブランドの上位車種に行くのも悪くない。
使い慣れた操作系や走りの感覚はそのままに、装備は充実し、走破性や積載力も向上する。国産ならではの信頼性や、販売店・サービス拠点の多さも変わらず得られる。それは確かに安心感のある選び方だ。
しかし、同じ価格帯で輸入車――それも世界的ブランドが手掛ける本格志向のSUVに乗れるとしたらどうだろう。日常の景色や気分までも変えてしまう一台が、実は手の届くところにある。
今回試乗したレンジローバー・ヴェラールは、そんな“輸入車入門編”にふさわしい存在だ。
原点となったデザイン
駐車場に並ぶ車の中で、このヴェラールはひときわ目を引く。
ホワイトのボディは明るさの中にわずかな陰影を宿し、エッジの効いたサイドラインとブラックのアクセントが全体を引き締める。
21インチの大径ホイールが足元を支え、低めのルーフラインと相まって、SUVでありながら伸びやかなシルエットを描く。
ヴェラールは、レンジローバー・スポーツとイヴォークの間を埋める存在として2017年に登場した。しかし、単なるサイズの隙間を埋めるためだけのモデルではない。
格納式ドアハンドルや極限まで抑えたプレスラインなど、新しいレンジローバーのデザイン言語を初めて提示したモデルであり、ブランドの原点と未来を同時に映す存在だった。その思想は、のちに現行型のレンジローバーやレンジローバー・スポーツへと受け継がれていく。
さらに、この車の魅力は「他と被らない」ことにもある。様々なSUVが街にあふれる中で、ヴェラールは流通台数が少なく、特にこの仕様や色の組み合わせは出会う機会が限られる。
日常で同じ車とすれ違うことがほとんどなく、その希少性が所有感を高めてくれる。
品の良さも威厳も
走り出してすぐ、この個体の特性がはっきりと伝わってくる。エアサスペンションを備えるこの車は、通常モデルの引き締まった足回りに比べ、明らかにしなやかだ。
路面の継ぎ目や段差を越えるときの角の取れた動き、ゆったりとした姿勢変化。足元が柔らかくなったというより、動きの質が上がった感覚に近い。街中でも高速道路でも、常に落ち着いたリズムで進む。
キャビンに目を移せば、英国車らしい丁寧な仕立てが漂う。
インテリアデザインやレザーの手触り、ドアを閉めたときの深い音までもが、日常の中に穏やかな高揚感をもたらす。数字では測れない満足感が、こうした車の価値を支えている。
サイズ感もまた、この車の大きな武器だ。フルサイズのレンジローバーほど大きくなく、イヴォークほどコンパクトでもない。街中での取り回しや駐車場の出し入れに不安を感じさせず、それでいてSUVとしての威厳は十分。
横に並んだ車から視線を受けても、押しつけがましさはなく、自然と“いい車に乗っている”という印象を与える。
レンジローバーらしい余裕のある走りと品格、そして絶妙なサイズ感。これらが揃うことで、日々の移動がさりげない楽しみに変わる。
未知に触れる喜び
街中で信号待ちをしているとき、横に並んだ車からふと送られる視線。休日の帰り道、少し遠回りをして走りたくなる気分。
スペックや機能だけでは語れない豊かさが、日々の移動に静かに混ざり込んでくる。このヴェラールは、それを確かに感じさせる。
国産SUVからのステップアップは、多くの場合、同ブランド内の上位モデルや国産大型SUVに行き着く。それは安全で、失敗の少ない道筋だ。だが、その延長線上では未知に触れる喜びは少ない。
ヴェラールは、その延長線では得られない価値を持つ。
所有する満足感、ブランドが背負う歴史、造形が生み出す高揚感。存在感は強い。それでいて過剰な威圧感はなく、軽やかで品のある立ち姿を持つ。この絶妙な中庸こそ、日常での使いやすさと所有欲の両立を叶えている。
さらに、この個体は走行わずか2.5万kmという好条件を備える。年式相応にこなれた価格になりつつも、内外装や機関の状態は良好で安心感がある。
順当な一歩をやめ、あえて別の扉を開く。その先にあるのは、確かに豊かになった日常。
世界的ブランドがもたらす体験は、乗る人の価値観までも変えてしまうだろう。ヴェラールは、その入り口としてふさわしい。
SPEC
ランドローバー・レンジローバーヴェラールRダイナミック SE
- 年式
- 2018年式
- 全長
- 4,820mm
- 全幅
- 1,935mm
- 全高
- 1,685mm
- ホイールベース
- 2,874mm
- 車重
- 2,000kg
- パワートレイン
- 2.0リッター直列4気筒ターボ
- エンジン最高出力
- 300ps/5,500rpm
- エンジン最大トルク
- 400Nm/1,500-4,500rpm
河野浩之 Hiroyuki Kono
18歳で免許を取ったその日から、好奇心と探究心のおもむくままに車を次々と乗り継いできた。あらゆる立場の車に乗ってきたからこそわかる、その奥深さ。どんな車にも、それを選んだ理由があり、「この1台のために頑張れる」と思える瞬間が確かにあった。車を心のサプリメントに──そんな思いを掲げ、RESENSEを創業。性能だけでは語り尽くせない、車という文化や歴史を紐解き、物語として未来へつなげていきたい。