静けさと力強さをあわせ持つ、レンジローバー スポーツPHEV。フルEVモデル登場を前に、未来の気配を、いま体感する一台だ。
電動との相性の良さ
初めてロールス・ロイスのEV(スペクター)に乗ったときの感覚が、ふとよみがえった。
巨体が無音のまま、しかし確かな重みとトルク感を伴って動き出すあの感覚。それと極めてよく似た滑るような推進力を、このレンジローバー スポーツPHEVに感じたのだ。
けれど、似ていたのは加速感だけではない。音がないことによる静けさや、動きのなかに感じる品の良さ、そうした部分にも、スペクターと通じるものがあった。
あらためて思う。高級車とEVはやはり相性がいい。
レンジローバーが「砂漠のロールス・ロイス」と呼ばれる理由は、単なる乗り心地の良さではない。あらゆる路面状況を想定して設計された堅牢な足まわりと、圧倒的な静粛性、そして包み込むような室内の快適さ。
そのすべてが、電動化によってさらに昇華されている。
走り出してすぐに気づくのは、エンジン音がないことだけではない。静けさと視点の高さがもたらす新しい特別感だ。
EV走行で街を流す。
レンジローバー特有の高いアイポイントから見下ろす景色は、どこか現実味が薄く感じられる。窓を開ければ容赦なく飛び込んでくるであろう街の喧騒も、この車内には届かない。
この車の中だけ、まるで別の世界にいるようだ。
無音のまま現実を見渡すような、不思議な浮遊感。これまでに感じたどんな高級車とも違う、新しい感覚がそこにはあった。
ただの過渡期ではない完成度
このスポーツPHEVは、2018年にレンジローバー ヴォーグと並んで、ランドローバーが本格的に電動化へ踏み出した最初のモデルだ。
2リッター直噴ターボエンジンにモーターを組み合わせたプラグインハイブリッドで、システム出力は404ps。数字の上ではV8の代替にも見えるが、実際に乗ってみると、それ以上に完成された別物という印象を受ける。
ゼロ回転から最大トルクが立ち上がるモーターの特性が、この車の走りにもはっきりと現れている。信号待ちからのスタートや市街地での低速走行では、2トンを超える車体が驚くほど軽やかに動き出す。
アクセルをわずかに踏むだけでしっかりと前に出ていき、必要に応じてエンジンが加勢すれば、そこからさらに自然に速度が乗っていく。
この巨体にこそ、電動モーターの力強いトルクがよく合う。重さをものともしない即応性と、流れるような加速。その一連の動きが、レンジローバーらしい滑らかさと余裕を保ちながら成立しているのが印象的だった。
EVのように静かで、ガソリン車のように伸びる。モーターとエンジン、双方の美味しいところを同時に味わえるこの感覚は、フルEVでは、きっと得られなくなるものだろう。
PHEVがフルEVモデルに向けた“過渡期”であるのは確かだ。けれど、それは決して未完成という意味ではない。
この車のように、その“あいだ”にしか宿らないバランスを、しっかりと形にしているモデルもある。
未来の先取り
まもなく、レンジローバー初のフルEVが登場する。ジャガー・ランドローバーは、2024年に完全電動レンジローバーを発表し、2025年以降の市販を予定している。
現行型をベースに、EVを含む複数のパワートレインに対応する次世代プラットフォームを採用し、航続距離はWLTP基準で600km超、デュアルモーターによるAWD構成が想定されている。
「史上もっとも静かなレンジローバーになる」とも予告されており、120万km以上の走行テストを経て、発表が目前に迫っている。
このレンジローバー スポーツPHEVにいま乗るということは、その未来をほんの少しだけ先取りするという体験でもある。
電気で走るレンジローバー。その原体験を、自分の手で確かめられる数少ない選択肢が、まさにこの車だ。
鮮やかな赤いボディと、赤と黒でまとめられたインテリア──視覚的にも強く印象に残るこの一台は、未来のラグジュアリーSUV像を予感させるだけの説得力を備えていた。
そして実際に走り出せば、音も振動も排したその走りの中に、次の時代の匂いが漂っていた。
SPEC
ランドローバー・レンジローバー スポーツ HSEダイナミック P400e(PHEV)
- 年式
- 2019年式
- 全長
- 4,880mm
- 全幅
- 1,985mm
- 全高
- 1,800mm
- ホイールベース
- 2,923mm
- 車重
- 約2,530kg
- パワートレイン
- 2.0リッター直列4気筒ターボ+電動モーター(PHEV)
- トランスミッション
- 8速AT
- システム最高出力
- 404ps
河野浩之 Hiroyuki Kono
18歳で免許を取ったその日から、好奇心と探究心のおもむくままに車を次々と乗り継いできた。あらゆる立場の車に乗ってきたからこそわかる、その奥深さ。どんな車にも、それを選んだ理由があり、「この1台のために頑張れる」と思える瞬間が確かにあった。車を心のサプリメントに──そんな思いを掲げ、RESENSEを創業。性能だけでは語り尽くせない、車という文化や歴史を紐解き、物語として未来へつなげていきたい。