定番のGクラスらしさから少し離れて、それでも確かな存在感を放つ1台。華美を避けた佇まいと、日常になじむしなやかさ。見せびらかすためではなく、自分の感覚にフィットする。そんなGクラスと過ごす時間に、確かな心地よさを感じた。
INDEX
控えめな佇まい
Gクラスは、見た目で語られることが多い。だがこの1台には、見慣れたGクラスとは少し違うやわらかな雰囲気を感じた。
AMG仕様でもなければ、サンルーフもない。ホイールは控えめな18インチ。ボディカラーは、ブリリアントブルー。黒でも白でもない、“Gらしさ”から少し離れた選択だった。
それでも、このGクラスには確かな存在感があった。誰かに見せるためじゃなく、自分の気分を裏切らないために。派手さはなくても、触れていたくなる。そう思わせる、穏やかで誠実な佇まいだった。
映えより、潔さを選ぶ
このG350dは、AMGライン非装着の個体だ。バンパーのアルミパーツがなく、フェンダーもスリム。ホイールは18インチ。いまどきのGクラスにしては控えめだが、それがかえってこのクルマらしいバランスを生んでいた。装飾をそぎ落としたその姿には、どこかかつてのGクラスを思わせるクラシカルな印象を抱いた。
内装にも、華美な装飾はない。エアコンの吹き出し口やスイッチ類には艶を抑えたシルバーとブラックで構成され、視覚的にうるささを感じさせない。
パネルやトリムに使われているのは、艶を抑えたナチュラルウッド。AMGラインでよく見られるピアノラッカー仕上げとは対照的で、華やかさよりも、しっとりとした落ち着きを感じさせる仕上げだ。ブラウンのレザーシートともマッチしている。
「見た目で魅せる」ことを意図せず、飾り立てることなく、ごく淡々と仕立てられている。その潔さが、このクルマが本来持つ無骨さを引き立てていた。
正解じゃないけれど
このG350dを語るうえで欠かせないのが、ブリリアントブルーのボディカラーだ。澄んだ空というよりは、深く静まった湖面のような青は、光の角度によって少しずつ表情を変える。日差しの下ではやわらかく輝き、陰りのなかでは深く静まる。そのわずかな変化が、乗る側の気分にも不思議と重なってくる。
Gクラスといえば、黒か白。オブシディアンブラックやポーラーホワイトといった定番色が選ばれることが多い。けれどこの青は、そうした“正解”とは少し距離を置いた存在だ。
だからこそ、この色を選ぶ人には、確かな意思があると思う。誰かの評価ではなく、自分の感性で選ぶ。リセールでも流行でもない、“好きだから”という気持ちだけが、その決め手になっている。
派手さではなく、気持ちよさ。注目ではなく、自分らしさ。この色には、そうした静かなこだわりが感じられる。
想像を裏切るしなやかさ
早朝の静けさのなか、ゆっくりと走り出す。その瞬間、ゴツゴツとした硬質さを想像していたGクラスとは違う、しなやかで上質な乗り味に思わず驚かされた。20インチを履いたGクラスの印象を想像していた身としては、18インチタイヤがもたらす穏やかな当たりの柔らかさに、少し意表を突かれた。
搭載されているのは、3.0L直列6気筒ディーゼルターボエンジン。286ps/600Nmというスペックは、数字以上に「上品な力強さ」を感じさせる。車体は2500kgあるが、発進は軽やかで、スッと前に出る。
アクセルを深く踏まずとも、背中を押されるように自然に加速する感覚が印象的だ。9速ATの変速も滑らかで、シフトアップのタイミングすら意識させない。フルサイズSUVであることを忘れてしまいそうなほど、振る舞いは端正である。
このG350dは、Gクラスの伝統的な無骨さを残しつつ、現代的な快適性を手に入れている。そのバランスが、日常使いにも適した魅力を生み出している。
我慢のいらないGクラス
この世代のGクラスは、走行性能だけでなく、日常の快適さという点でも大きく進化していた。かつてのGクラスは、どこか「少し我慢してでも乗りたいクルマ」だった。見た目の魅力や雰囲気は抜群だが、乗り心地や使い勝手には折り合いが必要だったのだ。
だが今のGクラスには、その我慢がいらない。むしろ、「毎日このクルマに乗れるなんて」と思えるほど、日常と馴染む。サスペンションはしなやかに動き、段差を穏やかにいなし、車内に不快な衝撃を伝えない。静かすぎず、ざわつかず。まるで信頼できる人が、ちょうどよい距離感で隣に座っているようだ。
操作系にもストレスがない。タッチスクリーンやステアリング周りのボタン配置は整理されていて、迷わず手が伸ばせる。モニターの画質や音響システムの出力も過不足ない。本革シートも適度な張りがあり、姿勢を安定させながらも、長時間座っていても疲れにくい仕上がりだ。
いまやこの快適性は、同社のGLSやレンジローバーと肩を並べるレベルにある。“武骨なラグジュアリー”が、ようやく本当の使いやすさと出会った──そんな実感をもたらしてくれる。
「これでいい」ではなく「これがいい」
Gクラスに求められるような派手さも、威圧感もない。見た目にも、乗り味にも、Gクラスにありがちな“強さの主張”がない、どこかやわらかな雰囲気が漂っている。
誰かの価値観で測られることを拒むような、穏やかな佇まい。このG350dは、スペックや装備では語れない魅力を持っている。流行やリセールといったわかりやすい価値から少し距離を置いて、ただ「これが好き」と思える人にこそ、すっと馴染む。
「これでいい」ではなく、「これがいい」。そう思わせてくれる理由が、この一台には確かにあった。
SPEC
G350d
- 年式
- 2020年式
- 全長
- 4660mm
- 全幅
- 1930mm
- 全高
- 1975mm
- ホイールベース
- 2890mm
- 車重
- 2500kg
- パワートレイン
- 3リッター直列6気筒ディーゼルターボ
- トランスミッション
- 電子制御9速AT
- エンジン最高出力
- 286ps/3400〜4600rpm
- エンジン最大トルク
- 600Nm/1200〜3200rpm
河野浩之 Hiroyuki Kono
18歳で免許を取ったその日から、好奇心と探究心のおもむくままに車を次々と乗り継いできた。あらゆる立場の車に乗ってきたからこそわかる、その奥深さ。どんな車にも、それを選んだ理由があり、「この1台のために頑張れる」と思える瞬間が確かにあった。車を心のサプリメントに──そんな思いを掲げ、RESENSEを創業。性能だけでは語り尽くせない、車という文化や歴史を紐解き、物語として未来へつなげていきたい。