街中でFFを目にしたとき、「あぁFFか」と「あの人ほかにどんなクルマ持っているんだろう」では、クルマとカーライフに対する造詣深さが一瞬で露呈するかもしれない。
欧米ではまるで逆
レーシングカーじゃあるまいし、便利な方が良いに決まっている。そう言っていたかどうかは知らないけれど、かのエンツォ・フェラーリは4シーターの跳ね馬を愛用していた。なんなら4ドアの開発を画策したことも。
翻って今、プロサングエというSUVスタイルの4ドアモデルが存在する。プロジェクトを当初から応援していたのが息子のピエロ(副会長)だった。
一方で、日本ではどういうわけか4シーター跳ね馬の人気がない。蔑まれているとさえ言える。
最近でこそ相場も上がったけれど、それは2シーターが何倍にも高騰した煽りを受けただけのことで、4座の価値を認めたわけじゃない。仕方なく求めているだけ。
日本には真のフェラリスチが少ないのではないか。そう思わざるを得ないのは、長らく4シーターのみならず、V12をフロントに積んだ2シータークーペでさえ人気がなかったからだ。
日本のフェラーリ人気は308やBB、テスタロッサといったスーパーカー世代のミドシップモデルに痰を発しているからかも知れない。
欧米ではまるで逆。日本でもトップレベルのフェラーリユーザーは違う。皆さん、実用車として4シーターの跳ね馬を使いこなしている。
例えばフェラーリオンリーのサーキットイベントなどでパドックを見渡して、4シーターモデルのいかにもテーラーメードな個体を見つけたら、そこは間違いなく超VIPカスタマーの居場所である。
イタリアのイベントでも駐車場で目立っているのは4シーターだ。彼らは何百kmを厭わず実用フェラーリをかっ飛ばす。レーシングやスペチアーレ、ヴィンテージといったコレクションは豪華なトランポでひと足さきにイベント会場へと向かっている。
跳ね馬の上級編だ
というわけで、4シーターに乗るということはある意味“跳ね馬の上級編”であるかも知れない。
数々の乗馬経験はもとより、ガレージに他の跳ね馬の存在を仄めかすからだ。そこが面白い。筆者も400iや612スカリエッティといった4シーターを楽しんだくちだ。
プロサングエが登場した今、背の低い4シーターとして456GT以降のモデルに注目してみるのも面白い。
とはいえ456はネオクラ領域に入りつつある。スタイリッシュな612もいいけれど、今むしろ注目すべきは“ブサかわいい”FFではないだろうか。
ちなみに456と612は千万円以下でも見つかる今となっては“貴重”な跳ね馬だ。
フェラーリFFではない。FF=フェラーリ・フォー。跳ね馬初の4WDで、シューティングブレークスタイル。ビッグマイナーチェンジ版のGTC4ルッソはルーフラインを少し落としてスタイルに日和ったから、FFのカタチの方が今となっては粋(いき)だ。
FFには強烈な思い出があった。デビュー当時、同門の599やそのほか豪華なGTカーをかき集めて一斉テストに供した時のこと。599は相変わらずフロントがナーバスでぶっ飛ばすまでに少々慣れを要した。この頃までのフェラーリはたいていそういうものだった。左右に動きたがって落ち着きがなかったのだ。
ところが。FFは違った。いきなりスロットル全開にできた。そんな跳ね馬はそれまでなかった。思えばこの頃からマラネッロはまっすぐ走ることにも目覚めたように思う。
V12エンジンの存在
久々となるFFのテストドライブをするため、京都・北山の店までプロサングエで向かった。4シーターで4WDの跳ね馬、最初と最新を乗り比べてみたかったからだ。
先に白状しておくと、背の高いプロサングエの方がスポーツカーとしての完成度は上だろう。最新のサスペンションシステムが凄すぎる。
一方でFFには、プロサングエが“凄すぎ”になるために失った“何か”が残っているように思う。澱だが味になる。
例えばV12エンジンの存在感だ。スターターボタンを押した刹那、“ギャオウワォオオゥ”と目覚め、発進すれば低速域からざらっと心地よいエンジンの回転フィールを右足の裏に感じることができる。
速度が上げるにつれて、例の“クォーン”音がたなびくし、シフト時のサウンドも猛々しい。キレイに回りつつも、どこか荒々しさが残っている。
初期のDCTも最新用に比べると粘りつよい印象があって、それがかえって12気筒エンジンの大きさを感覚として伝えてくれる。大排気量エンジンに乗っている、というワイルドさとでも言おうか。
要するにパワートレインの存在が前面に出て、そこがFFの個性になっている。記憶ではGTC4ルッソになるとそれが少し薄まる。FFで始まったパワートレインが煮詰まって、完成度も上がったからだろう。
FFにはすでにかすかなクラシック感も漂っている。けれども同時にモダンな跳ね馬の始まりでもある。その昔、スーパーカーとスーパースポーツとの橋渡し役となったF40の例を挙げるまでもなく、境界線上のクルマというものはいつだって、“味わい深い”ものなのだ。
文:西川淳(Jun Nishikawa)
SPEC
フェラーリ・フォー
- 年式
- 2013年式
- 全長
- 4907mm
- 全幅
- 1953mm
- 全高
- 1379mm
- ホイールベース
- 2990mm
- 車重
- 1880kg
- パワートレイン
- 6.3リッターV型12気筒
- トランスミッション
- 7速AT
- エンジン最高出力
- 660ps/8000rpm
- エンジン最大トルク
- 683Nm/6000rpm
- タイヤ(前)
- 245/35ZR20
- タイヤ(後)
- 295/35ZR20