ポルシェを買おう。と思ったのはいいが、駆動方式からグレード、オプションと嬉しい悲鳴のような複雑さがある。一つ一つ選ぶも良し、GTSで。と片づけるもこれまた良し。
一体どういう立ち位置
「GTS」の称号が初めて与えられたポルシェは904カレラGTSだ。
発売されたのは911のデビューイヤーでもある63年。但しこちらはホモロゲーションモデルで、主にモータースポーツ参戦を前提に販売されたモデルだ。
リアミッドに搭載されるエンジンは水平対向4気筒だが、後に911出自の6気筒や、F1由来の8気筒も搭載された。日本のオールドファンには、第二回日本グランプリから始まったスカイライン伝説の噛ませ犬となった...といえば、式場壮吉さんの顔を思い浮かべる方もいらっしゃるだろう。
その後、同じくホモロゲーションモデルとして924カレラGTSが、頂点的モデルとして928GTSが...と、時折りその名は限定的に復活してはいた。
GTSがカタロググレードとして恒常的なポジションを得たのは、恐らく初代カイエンの後期型に設定されたタイミングだと思う。その後、997後期型にもGTSが設定され、全てのモデルに展開、今やタイカンにもGTSの名が与えられている。
たとえば911でいえば、カレラにカレラS、ターボにターボS、GT3にGT3RS...と、数多あるグレードにおいて、GTSは一体どういう立ち位置になるわけ? と、そう思われる方もいらっしゃるだろう。
僕自身、実際、911を購入検討している方にそう訊ねられたこともある。
とりあえず、これ選んどけば間違いないって感じのグレード。自分の中でのGTS評はそんな感じだ。それは911に限らず、ボクスター&ケイマンでも、マカン&カイエンでもパナメーラでも変わらない。
ポルシェ選びは難しい
ご存知の通り、ポルシェ選びは簡単なことではない。
どのグレードにすべきか、何色にするのか、そして膨大なオプションの中から何を選ぶべきか...と、迷う要素はたくさんある。
その悩める時間こそが新車を買う醍醐味であることは重々理解しているが、中には考えるのが面倒くさいとか悩んでるような時間はないとか、世の中にはそんな方もいらっしゃるわけだ。
旅先で初めて行くラーメン屋...というワンチャンでどれを頼むべきか。お店的ベストかつ後悔のない選択肢は...と、つい全部入りや特製のボタンを押してしまう気持ちはよくわかる。自分の尺度でみればGTSはそういうものだろうか。
ところが、直近で発表された新しい911ではGTSが、電動ターボと駆動用モーターを組み合わせるT-ハイブリッドを搭載したグレードとして設定されている。
例によってシャシー関係や内装周りはほぼフルスペック、あとは内装をどのくらい盛るか、PCCBを奢るか、ADASはどうしよう...というくらいに悩みは狭まるが、パワートレインのスペシャル度が高まったぶん、値札も相当なことになっている。
もちろんポルシェのことだから、T-ハイブリッドは乗ればさすがと唸らされるものなのだろう。そう思う一方で、そこまでムキになることはないからシンプルに911らしさを味わいたいという向きもあるだろう。
ハラハラするスペック
今や992.1型とでも呼ぶべきだろうか、直近までの911カレラGTSが搭載するのは3リッター・フラット6ツインターボだ。
出力は911カレラの95ps増しの480ps。RRという911の本質と並べてみれば、これでもトゥーマッチかと思うほどの馬鹿力だ。
実際、911の中でもRRでこのくらいのパワーを与えられているのはGT3系くらいだが、最大トルクはGT3よりも100Nm厚い。雨の日にはご遠慮願いたい数字が並んでいる。
が、911カレラGTSはこのハラハラするようなスペックを綺麗に纏め上げている。
電子制御の介入や協調のキメの細かさはもとより、992.1型の素養として、シャシーの側でRRの悪癖がかなりのレベルまで封じ込められていることも一因に挙げられるだろう。
ちなみに雨の日は、ホイールハウス内に仕込まれたマイクがスプラッシュノイズを拾い、ウェットモードへの変更をドライバーに促すはずだ。これを選択するとPSMのみならず、PDKの変速マネジメントやエンジン出力マップも濡れた道向けに最適化される。そういうギミックを大真面目に作り上げてしまうのも、ポルシェのチャームポイントだ。
走る曲がる止まるに関していかに思い通りのゲインを引き出せるか。優れたスポーツカーはそれが出来るから優れた道具足り得るわけだ。
そういう気づきのある911と過ごす日常を、ターボほど意気込まず、でも色濃く味わわせてくれる。911カレラGTSはそんな居心地のいい場所なのではないだろうか。
文:渡辺敏史(Toshifumi Watanabe)
SPEC
ポルシェ911カレラGTSカブリオレ
- 年式
- 2022年式
- 全長
- 4530mm
- 全幅
- 1850mm
- 全高
- 1300mm
- ホイールベース
- 2450mm
- 車重
- 1690kg
- パワートレイン
- 水平対向6気筒3リッター+ターボ
- トランスミッション
- 8速AT
- エンジン最高出力
- 480ps/6500rpm
- エンジン最大トルク
- 570Nm/2300-5000rpm
- タイヤ(前)
- 245/35ZR20
- タイヤ(後)
- 305/30ZR21