ダイハツ・シャレード デ・トマソ ビアンカ(FF/5MT)小さなじゃじゃ馬

軽さと高回転NAがつくる荒削りな躍動感。まっすぐ走ることすら気まぐれな小さなじゃじゃ馬に触れると、今のダイハツからは想像できない熱量が立ち上がる。

軽さと高回転NAがつくる荒削りな躍動感。まっすぐ走ることすら気まぐれな小さなじゃじゃ馬に触れると、今のダイハツからは想像できない熱量が立ち上がる。

ヤンチャなダイハツ

なんだろう。このクルマ、まっすぐ走らない。

路面が荒れていたせいもあるだろうが、それにしても“直進しようとする気”が薄い。理由がわかるまで少し時間が必要だった。

このクルマ、ハンドルが正面に戻ってこないのだ。

それが持ち味なのか、車高調の影響なのか。「ダイレクトな操作感」と言えば聞こえはいいが、運転していると「お前の腕で曲がってみせろ」とでも言われているような感覚になる。

ダイハツ・シャレード デ・トマソ ビアンカ(FF/5MT)小さなじゃじゃ馬

エンジンもそれに呼応するように、軽く踏んだだけで高回転へスッと吹け上がる。遮音とは無縁の音質が車内に入り込み、落ち着きとは別の方向にテンションを上げてくる。

今のダイハツの、かわいくて親しみやすいラインアップを見慣れていると、このヤンチャさが同じメーカーから生まれたとは想像しづらい。

ダイハツ・シャレード デ・トマソ ビアンカ(FF/5MT)小さなじゃじゃ馬

元気で軽快

「デ・トマソ」と聞くと、クルマ好きであればパンテーラやグアラといったスーパーカーの姿が思い浮かぶかもしれない。そのデ・トマソがシャレードの開発に関わり、ダイハツはこの1.6リッター高回転NAを“デ・トマソ専用”として用意した。

乗る前は、同時代のプジョー106 S16のような、欧州のコンパクトスポーツを想像していた。だが走り出してすぐ、その予想は裏切られた。

106のいわゆる猫足と言われるしなやかさなど微塵もなく、路面の凹凸を遠慮なく拾い上げてくる(車高調の影響も大きいだろうが)。

ダイハツ・シャレード デ・トマソ ビアンカ(FF/5MT)小さなじゃじゃ馬

それでもエンジンは「もっと回せ」と背中を押してくる。トルクが薄いはずの2000回転前後でも、アクセルを踏むと軽い車体は予想以上に前へ出る。14万kmを超える走行距離にもかかわらず、この元気さと軽快さだ。

戻ってこないステアリング、容赦ない足まわり、そして高回転を求めるエンジン。こちらが操っているのか、試されているのか分からなくなる瞬間がある。

「じゃじゃ馬」という言葉は大排気量・大出力スポーツカーのためにある言葉のように思っていたが、このわずか115馬力の小さなクルマは、その表現がよく当てはまる。

ダイハツ・シャレード デ・トマソ ビアンカ(FF/5MT)小さなじゃじゃ馬

丁寧な整備履歴

この個体は「デ・トマソ」の中でも“ビアンカ”が付く特別仕様。ホワイトとシルバーのツートンに、サイドの「DETOMASO BIANCA」デカール。

フロントにはPIAAのイエローフォグが、ラリーカーのようなムードを醸し出している。車高調や社外マフラーなど、フルノーマルではないものの、ノーマルの雰囲気を損なわずに加えられたカスタムには当時らしい空気が宿っており、今となってはそれも味わい深い。

ダイハツ・シャレード デ・トマソ ビアンカ(FF/5MT)小さなじゃじゃ馬

室内に目を移すと、メーターパネルには創業者アレッサンドロ・デ・トマソの祖国アルゼンチン国旗を模したエンブレム。簡素な仕立ての室内にあって、ナルディの黒革と赤いステッチをまとったステアリングだけが明らかに質感が高く、その“場違いな上質さ”がかえって印象に残る。

30年前の車で、14万kmを走っているとは思えないほど、室内には瑞々しさが残る。それも当然で、この個体には平成9年から令和4年まで、ほぼ毎年の整備記録簿が23枚残っている。その丁寧な整備履歴から、オーナーから大切に扱われていたことが伝わってくる。

ダイハツ・シャレード デ・トマソ ビアンカ(FF/5MT)小さなじゃじゃ馬

今のクルマにはない密度

このクルマに乗っていると、速さや快適さといった評価軸が、ふとどうでもよくなる瞬間がある。

たとえばハンドルが戻ってこないことも、足まわりが容赦なく路面を拾うことも、今の基準で見れば欠点だろう。けれど、それらは“古さ”ではなく“生き方”とも重なる。思い通りに曲がらないなら、どう操ればいいかを自分の身体が探り始める。エンジンがもっと回したいと言うなら、応えてみたくなる。

このやり取りの密度が、今のクルマにはないものだ。

ダイハツ・シャレード デ・トマソ ビアンカ(FF/5MT)小さなじゃじゃ馬

シャレード デ・トマソ ビアンカは、軽さ・小ささ・高回転NAという古典的な素材を、真面目すぎるほど真っ直ぐに調理した1台だ。その結果として生まれたのが、このクセの強さであり、反応の濃さだ。

整備記録が丁寧に積み重ねられた個体だけが持つ、張りと元気もある。時代をまたいで受け継がれてきたものが、初めてのドライブでもしっかりと感じ取れる。

ダイハツ・シャレード デ・トマソ ビアンカ(FF/5MT)小さなじゃじゃ馬

派手さも、効率も、便利さもない。ただ、小さなエンジンと軽いボディに宿った、まっすぐな熱量だけが残っている。

そして、その熱量に触れたとき、このビアンカはただの古いコンパクトカーではなく、走ることの原点を思い出させてくれる。

ダイハツ・シャレード デ・トマソ ビアンカ(FF/5MT)小さなじゃじゃ馬

SPEC

ダイハツ・シャレード 1.6デ・トマソ ビアンカ

年式
1995年式
全長
3,740mm
全幅
1,620mm
全高
1,385mm
ホイールベース
2,390mm
車重
約920kg
パワートレイン
1.6リッター直列4気筒
トランスミッション
5速MT
エンジン最高出力
115ps/6,300rpm
エンジン最大トルク
135Nm/5,000rpm
  • 中園昌志 Masashi Nakazono

    スペックや値段で優劣を決めるのではなく、ただ自分が面白いと思える車が好きで、日産エスカルゴから始まり、自分なりの愛車遍歴を重ねてきた。振り返ると、それぞれの車が、そのときの出来事や気持ちと結びついて記憶に残っている。新聞記者として文章と格闘し、ウェブ制作の現場でブランディングやマーケティングに向き合ってきた日々。そうした視点を活かしながら、ステータスや肩書きにとらわれず車を楽しむ仲間が増えていくきっかけを作りたい。そして、個性的な車たちとの出会いを、自分自身も楽しんでいきたい。

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