荷物を積むだけじゃもったいない。フィアット・デュカトL3H3は、広い荷室と快適な走りで、仕事にも遊びにも応えるトランスポーター。使い方を考えるだけでワクワクしてくる自由な一台だ。
INDEX
とにかく“なんでも”載る
「なんでも載せられる」。
この言葉がこれほど似合うクルマは、そう多くない。
フィアット・デュカトの「L3H3」というグレード名は、ロングホイールベース(L3)とハイルーフ(H3)を意味する。
数字が示す通り、荷室の広さは想像を軽く超えてくる。天井高は2メートルを超え、大人が立ったまま動けるほどの余裕。
大型家具でも、ロングフォークのチョッパーバイクでも、「入るかどうか」ではなく「どこに置こうか」を考える段階の広さだ。
広いだけでなく、形がまっすぐなのもいい。無駄のないスクエアな壁とフラットな床。車内のどこを見ても、使う人がどうレイアウトしても困らないようにできている。
ヨーロッパでは、モーターホームやフードトラックのベースとしてよく使われる理由がよくわかる。
最近では日本でも、キャンプや車中泊を目的にこのサイズのバンを探す人が増えている。ただ広いだけでなく、「空間としてのポテンシャル」があるのがデュカトの魅力だ。
使い方次第で、仕事にも遊びにも化ける。道具というよりステージのような存在だ。
セミボンネット構造が生む安心感
日本の商用バンといえば、トヨタ・ハイエースや日産・キャラバンのように、エンジンが運転席の下にあるキャブオーバー型(ワンボックス)が主流だ。
一方、デュカトはエンジンを車体前方に積むセミボンネット型。この構造の違いが、走りの印象も安全性も大きく変えている。
まず衝突安全性。
「日本人は仕事のために命を賭けるのか」――欧米人の目には、日本のワンボックスが少し危うく映るという話を聞いたことがある。荷室長と都市部での取り回しを優先した結果が、いまのワンボックススタイルだ。
それに対してセミボンネット型は、前方にクラッシャブルゾーンを確保できるため、万が一の際のダメージを大幅に軽減できる。ヨーロッパでは商用車にも厳しい安全基準が課せられており、デュカトもそれをクリアしている。
日本と欧米、仕事に対する価値観の違いが、そのまま設計思想に現れていて面白い。
さらに、エンジンがキャビンの外にあるおかげで、熱気や騒音が運転席に伝わりにくい。真夏でも足元が熱くならず、走行中のノイズも少ない。
キャブオーバー型ではどうしても我慢が必要な部分だが、デュカトはそこが自然に解消されている。
安全で、快適で、疲れにくい。それだけで、長距離ドライブがまったく違うものになる。
長距離でも疲れにくい
大柄なボディなのに、走り出してすぐに「軽い」と感じる。それは車重ではなく、動きの軽快さのことだ。
デュカトは前輪駆動(FF)を採用しており、リアにプロペラシャフトを持たないぶん床が低く、車体全体の重心が下がっている。これが乗り心地の良さに大きく効いている。
段差を越えてもバネの動きがゆっくりで、突き上げ感が少ない。ボディが大きいのに、しなやかに動く。
ヨーロッパの高速道路では、商用バンでも時速130kmで巡航するのが当たり前だ。そのためサスペンションはしっかりとした減衰力を持ち、ステアリングの遊びも少なく、直進安定性が高い。
長距離を走っても疲れにくいのは、まさにこうしたヨーロッパの設計らしさだ。
エンジンは2.2リッターのクリーンディーゼルターボ。
低回転からトルクが厚く、加速もスムーズ。街中では静かに、高速では余裕を持って走る。商用車でここまで乗り心地が良く、動きに落ち着きがあるクルマは珍しい。
デュカトの走りには、日常を“旅の延長”にしてしまうような魅力がある。
装備も今どき
運転席に座ると、トラックのようにアイポイントが高く、前方視界も良好で見晴らしがいい。それでも操作まわりは、最新のSUVかと思うほどモダンだ。
デジタルメーターに大型タッチパネルディスプレイ、Apple CarPlayやAndroid Autoにも対応する。
スマートキー、オートライト、クルーズコントロール。どれもトランスポーターというより、レジャー車やファミリーカーの装備だ。バックカメラやデジタルインナーミラーはもちろん、助手席側の死角をカバーするサイドモニターも標準装備。
ボディサイズは大きいが、運転中の不安は少ない。視点が高く見通しが良いので、むしろ街中でも運転しやすいと感じる人は多いだろう。
シートも硬めで長時間運転しても疲れにくい。欧州車らしく、腰と太ももをしっかり支えてくれる形状だ。色もポップで気分があがる。
ハンドルやスイッチ類の操作感もきっちりしていて、全体の作り込みに好感が持てる。
こうした「ちゃんとした使いやすさ」があるから、仕事にもレジャーにも自然と馴染む。
道具のようでいて、どこか遊びの相手のような存在だ。
積むという行為が楽しみに
フィアット・デュカトは、“はたらく車”のイメージをいい意味で裏切ってくれる。
広くて、静かで、走りがしっかりしている。そして、荷物を積むことが単なる作業ではなく楽しみになる。
日本のワンボックスとは構造も走りの性格もまったく違う。どちらが優れているという話ではなく、デュカトは、人が気持ちよく移動するためのトランスポーターという発想で作られている。
それが結果的に、荷物を運ぶにも遊びに行くにも心地よい空間を生み出している。
休日にサーフボードを積んで海へ行くのもいい。
自転車を載せて遠征に出るのもいい。
車中泊仕様にして旅に出てもいい。
この車なら、どんな使い方をしても自然に馴染む。
「積む」という行為を、もっと自由に。そんな気分にさせてくれる一台だ。
SPEC
フィアット・デュカト L3H3
- 年式
- 2024年
- 全長
- 5,990mm
- 全幅
- 2,050mm
- 全高
- 2,760mm
- ホイールベース
- 4,035mm
- パワートレイン
- 2.2リッター直列4気筒ディーゼルターボ
- トランスミッション
- 9速AT
- エンジン最高出力
- 140ps/3,500rpm
- エンジン最大トルク
- 350Nm/1,400–2,500rpm

中園昌志 Masashi Nakazono
スペックや値段で優劣を決めるのではなく、ただ自分が面白いと思える車が好きで、日産エスカルゴから始まり、自分なりの愛車遍歴を重ねてきた。振り返ると、それぞれの車が、そのときの出来事や気持ちと結びついて記憶に残っている。新聞記者として文章と格闘し、ウェブ制作の現場でブランディングやマーケティングに向き合ってきた日々。そうした視点を活かしながら、ステータスや肩書きにとらわれず車を楽しむ仲間が増えていくきっかけを作りたい。そして、個性的な車たちとの出会いを、自分自身も楽しんでいきたい。

















