カーマインレッドに包まれたカイエンGTS。SUVでありながら、ポルシェらしい走りと存在感を両立する。20年の進化を経て、“真っ赤なポルシェ”は新しいかたちで息づいている。
カーマインレッド
「緑の中を走り抜けてく真紅なポルシェ 」――。昭和の時代に山口百恵のあの歌に描かれた情景が、いまでもどこかで続いている気がする。
昔からポルシェには、赤がよく似合う。スピードや力強さを、言葉にしなくても伝える色だ。
このカイエンGTSを彩る「カーマインレッド」は、930型911の時代に数年だけ設定されていたカラーで、近年ポルシェのカラーパレットに復活している。
ガーズレッドよりも少し深く、真紅と呼ぶにふさわしい落ち着いたトーン。鮮やかさの中に陰影があり、光の加減で印象を変える。
赤い車は、その華やかさゆえに目立つ覚悟を問われ、敬遠する人も少なくない。だが、スポーツモデルという特別な存在には、この色がしっくりと似合う。
力強さと品のバランスを保ちながら、走りの緊張感を視覚で伝える──そんな“ポルシェらしい赤”が、いま再びカイエンGTSのボディに息づいている。
派手さではなく、自然体でスポーティ。その佇まいこそ、昔から変わらない“ポルシェに似合う赤”だ。
あれから20年
初代カイエンが登場した2002年、世界は少しざわついた。「SUVのポルシェ?」「911の名を汚す」とまで言われた。
ポルシェにとっても、チャレンジというより“賭け”に近いプロジェクト。当時のカイエンは、どうにかして“ポルシェらしく”見せようと懸命だった。
フェンダーの形、メーターの配置、アクセルの踏み応え──そのすべてに、ポルシェの、もっと言えば911の“影”を映そうとしていた。
そのある種のぎこちなさには、真剣な努力の痕跡がある。今となっては、それこそが初代カイエンの魅力だ。
だが、20年の時間が流れ、いまのカイエンは、もはや“ポルシェのSUV”という形容を必要としない。
911の模倣ではなく、SUVというフォーマットの中で、ポルシェ的な走りとデザインを自らの言葉で語るようになった。
そうして生まれたのが、いまのカイエンという確かなキャラクターだ。
世代が進んだインテリア
この現行後期型カイエンに乗り込むと、まず目に入るのはインテリアの設計が一新されたことだ。
メーターパネルは完全デジタル化され、中央のタコメーターも液晶上に再現されている。
センターには大型タッチディスプレイ、助手席側にはパッセンジャーディスプレイが新設され、運転席・センター・助手席の3画面構成となった。シフトセレクターも、従来のフロアタイプからステアリング右横のインパネ式電子シフターに変更。
これによりセンターコンソールは大きく整理され、空調パネルと収納がフラットに配置されている。スイッチ類もタイカンで採用されたデザインを踏襲しており、全体に水平基調のすっきりとした印象を与える。
こうした変更点は単なるマイナーチェンジの域を超えている。
UI(操作系)やディスプレイ構成、シフト位置の考え方まで含め、ポルシェ全体の「新世代インテリア」へと統一された感がある。
実際に座ると、先代よりも視界が開け、物理スイッチの少ない環境でも直感的に操作できる。後期型と呼ぶより、ひとつ上の世代に入れ替わったと言ったほうが近い。
カイエンという個性
そして、この赤いカイエンGTSは、完成度の高さを豊富なオプションの数々がさらに引き上げている。
スポーツクロノ、PDCC、リアアクスルステア、18wayシート、パッセンジャーディスプレイ、ソフトクローズドア──まさに“全部入り”と呼べる仕様だ。
新車時の価格は、オプションを含めれば2000万円を超えていたはず。それがいま、走行9000kmというコンディションで、1500万円前後という現実的な距離に降りてきた。
装備や状態、そして仕立ての完成度。そのすべてが高い次元で整っている。
カーマインレッドのボディは、陽の角度で表情を変える。昼は鮮やかで、夜はしっとりと艶を帯びる。SUVのたくましさを保ちながら、スポーツモデルとしての緊張感を失わない。
初代カイエンが夢見た「ポルシェのSUV」という理想は、20年の歳月を経て、「カイエンという個性」へと育った。
このGTSは、ポルシェであることを保ちながら、カイエンとしての自信をそのまま纏っている。
ブランドの中心から少し距離を置きながら、確かな存在感を放つ。
ポルシェであり、同時にカイエンでもある──この赤は、その成熟を語っている。
SPEC
ポルシェ・カイエン GTS
- 年式
- 2024年式
- 全長
- 4,940mm
- 全幅
- 1,995mm
- 全高
- 1,675mm
- ホイールベース
- 2,895mm
- 車重
- 約2,250kg
- パワートレイン
- 4.0リッターV型8気筒ツインターボ
- トランスミッション
- 8速ティプトロニックS
- エンジン最高出力
- 470ps(346kW)/6,000rpm
- エンジン最大トルク
- 600Nm(61.2kgm)/2,000–4,500rpm

河野浩之 Hiroyuki Kono
18歳で免許を取ったその日から、好奇心と探究心のおもむくままに車を次々と乗り継いできた。あらゆる立場の車に乗ってきたからこそわかる、その奥深さ。どんな車にも、それを選んだ理由があり、「この1台のために頑張れる」と思える瞬間が確かにあった。車を心のサプリメントに──そんな思いを掲げ、RESENSEを創業。性能だけでは語り尽くせない、車という文化や歴史を紐解き、物語として未来へつなげていきたい。





















