ベントレー「EXP15」のスタイリングは、20世紀初頭のグランドツアラーにインスパイアされ、それを21世紀にふさわしい形で再解釈している。
クラシックなプロポーション
全長5メートルの外装モデルは、直立した象徴的なグリル、ロングノーズのボンネット、後方に配置されたキャビンというクラシックなプロポーションを採用している。
これは、1930年製のベントレー「スピード・シックス・ガーニー・ナッティング・スポーツマン・クーペ」のオマージュであり、「ブルートレイン・レース」で知られる逸話とも深く結びついている。
このレースでは、当時のベントレー会長でありベントレーボーイズの一員でもあったウルフ・バーナート氏が、南仏カンヌを出発した高級列車「ル・トラン・ブルー」よりも先にロンドンに到着したという壮大な記録を打ち立てた。
EXP15は、現代的なエクステリアサーフェス処理、先進的なライティングディテール、アクティブエアロパーツなどを組み合わせることで、2025年におけるベントレーのコンセプトカーとして、過去と未来のクラフツマンシップの美学を巧みに融合させている。
販売を目的としたモデルではないが、このコンセプトカーは、ブランド初となる完全電動自動車へと向かうデザインの進化を示す重要なステップとなる。
キャビンにおいても、先進的なデザインアプローチが貫かれ、設計には仮想現実(VR)ソフトウェアが用いられ、多様な構成や仕上がりを視覚的・体験的に確認できるようになっている。
この手法により、ラグジュアリーなシートや翼のような造形のダッシュボード、ステアリングホイール、各種スイッチやダイヤルといった物理的なインテリア要素に加え、運転者の気分や目的に応じて自然に現れたり静かに背景へと溶け込んだりするデジタル要素が、空間全体と滑らかに調和し、魅惑的でインテリジェントな空間を創出している。
設計において特筆すべきは、従来の4シート・5シート、4ドア・5ドア構成とは一線を画す、3シート・3ドアというユニークなパッケージングだ。
この独自のレイアウトは、選ばれたユーザーに特別なドライビング体験を提供するだけでなく、荷物やペットのために設計された、工夫を凝らした収納スペースを車内に組み込み、快適性と機能性を両立している。
さらに、リアのブートスペース(トランク)は停車時にピクニックシートとして活用できる設計となっており、移動とレジャーをひとつの体験として楽しむことが可能。
インテリアにおける素材選定にも、ベントレーならではの美意識が反映されており、伝統やクラフツマンシップ、サステナブルを大切にしながらも、未来的で先進的であることを追求した。
例えば、250年以上の歴史を持ち、有刺植物を防ぐ布の発明でも知られる英国フォックス・ブラザーズ社による100%ウールのファブリックが、インテリアにダムソン・オンブレ(濃淡グラデーション)効果をもたらし、軽量な3Dプリント製チタンパーツと美しく調和。
さらに、ユーザーエクスペリエンス(UX)も極めて重要な要素で、車内空間は、操作性、快適性、そして感情に響くディテールまでが、繊細に調和している。
移動するだけの空間ではなく、乗員一人ひとりの感情や感覚に寄り添う体験が、このEXP15には備わっている。
21世紀型グランドツアラー
EXP15は、大胆なスタイリングだけでなく、21世紀のグランドツアラーの在り方を見据えたパワートレインの可能性についても示唆。
開発チームは、サステナブルと快適性を両立させながら、長い航続距離と高速充電性能を兼ね備えた、完全電動・四輪駆動のパワートレインを構想している。
それは、現代のベントレーに求められる洗練された移動体験に応えるもので、EXP15はあくまでデザインコンセプトであり、技術仕様やプラットフォームなどの詳細は現時点で公開されていないが、デザイン面において、1930年の「スピードシックス・ガーニー・ナッティング・スポーツマン・クーペ」は、EXP15の創造的出発点として確かに存在している。
しかし、EXP15はそのクラシックモデルを再現したり模倣したりするものではなく、外観はまったく異なり、単なるヴィンテージ風ではなく、現代と未来の感性で再解釈されたラグジュアリーデザインが貫かれている。
EXP15は、2026年に登場予定のベントレー初の小型完全電動量産モデルとは異なるコンセプトカーだが、一部のデザインが、さりげなくEXP15のエクステリアに取り入れられている。
また、インテリア面においてもEXP15は、将来の量産モデルに活かせるような先進的なデジタル技術やユーザー体験のアイデアを提示する。
つまりこの車は、見た目のデザインを提案するだけの存在ではなく、未来のベントレーがどんな価値や体験をユーザーに提供しようとしているのか、そのビジョンや考え方を具現化したモデルなのだ。