日産シーマ4.1LX(FR/4AT)時間の中で育った価値

大切に扱われてきた時間は、古さを価値に変える。時を止めたかのような佇まいも、滑らかな走りも、すべてが過ごされた時間の証だ。このシーマには、その積み重ねがある。

大切に扱われてきた時間は、古さを価値に変える。時を止めたかのような佇まいも、滑らかな走りも、すべてが過ごされた時間の証だ。このシーマには、その積み重ねがある。

豊かさを感じる

1997年式、日産シーマ4.1LX。ピカピカのボディに映る空は、28年という歳月をまったく感じさせない。ワンオーナー、走行1.6万kmという奇跡的な個体が、時間を止めたかのように佇んでいた。

運転席のドアを開けると、目に飛び込んできたのは、花柄の絨毯マット。現代のセンスとは明らかに異なる、どこか時代を感じるデザインだが、不思議と車内の雰囲気に馴染んでいる。くたびれることなく毛並みを保ち、刺繍の立体感すら残っている。単なるインテリアパーツではない。生活の中で大切に扱われてきた証そのものである。

車内は静かで落ち着いている。シートには清潔なレースカバーが掛けられ、手垢も日焼けも見当たらない。スイッチ類の文字もくっきりと残っている。このクルマがどういう時間の過ごし方をしてきたかが、細部からにじみ出ている。

走らせても、「古いクルマ」であることに対する緊張感はない。むしろ、肩の力が抜けていくような、包み込まれるような安心感がある。エアサスペンションの柔らかな動き、路面をなめるような滑らかさ。現代のクルマでは味わえない、当時の国産高級サルーンならではの豊かさが、今も確かに息づいていた。

日産シーマ4.1LX(FR/4AT)時間の中で育った価値

日本独自を目指していた時代

1990年代の日本車メーカーは、各社それぞれの解釈で日本的な高級車を模索していた。それらはいずれも欧州の模倣ではなく、日本独自の高級車像を本気でかたちにしようとしていた。日本の文化や道路事情に根ざした高級車のあり方を、どう表現するかに心血を注いでいた。

そんななかで、シーマは少し異なる立ち位置をとっていた。1988年にデビューした初代モデル(Y31型)は、それまでの高級セダンの常識を軽やかに飛び越え、「シーマ現象」と呼ばれる社会現象まで巻き起こした。高級車でありながら、どこかパーソナルでスポーティ。運転すること自体に愉しさがある、オーナードリブンな高級車。

そして1997年に登場した3代目(Y33型)は、そんな個性を残しつつ、より洗練された高級感と快適性を備えた一台へと進化していた。欧州的な設計文法に寄せるのではなく、日本車としての価値観の延長線上にある上質を、どうかたちにするか。

あくまで日本車であることを前提に、贅沢を、快適さを、そして存在感を突き詰めていった。それが、このY33シーマというクルマの根底に流れる思想だった。

日産シーマ4.1LX(FR/4AT)時間の中で育った価値

煮詰まった完成度

このシーマに搭載される4.1リッターV8エンジンも、当時の日産が誇る技術の結晶だ。いまや4リッター超の大排気量は、一部の高級スポーツSUVか、欧州フラッグシップモデルにしか見られない。

アクセルを踏むと、車体はスムーズに加速し、エアサスが路面の凹凸をやわらかく受け流していく。ハンドルの切れ角は穏やかで、車体の重さに身を預けるような感覚が心地よい。プレジデントよりも柔らかく、セルシオよりも芯のある乗り心地と感じた。

このV8エンジンがもたらす滑らかさは、贅沢という言葉にまさにふさわしい。現代ではもはや少数派となった大排気量エンジンのフィーリングが、このシーマにはまだ自然体で残っている。

ハンドルを握りながら、思わず別のクルマのことが脳裏をかすめた。同じ時代のトヨタ車とは、やはり明確に違う。トヨタのクルマは、いい意味で均質だ。車種が変わっても、背後にある基準は統一されている。どこまでいってもトヨタの安心感がある。

一方、日産のクルマはモデルごとに個性が強い。このシーマも、そうした日産らしさが際立つ1台だろう。時代の空気や開発陣の熱量、設計思想のひとつひとつが、クルマの完成度を左右する。

良くも悪くも均質ではない。だが、それゆえに深く煮詰められたモデルには、独特の完成度と説得力がある。このY33シーマは、その好例と言える。

日産シーマ4.1LX(FR/4AT)時間の中で育った価値

41枚の記録簿が語ること

驚くべき点がもう一つ。このシーマには、41枚の整備記録簿が残されている。登録した1997年から2025年に至るまで、定期的なメンテナンスが欠かさず施されてきた。それも単なる法定点検の記録ではない。購入時から一貫して正規ディーラーに任され、必要に応じたメンテナンスが重ねられてきた履歴がはっきりと読み取れる。

特に目を引くのが、2014年以降の整備履歴だ。半年に一度のペースで点検整備を行なっており、年式的に劣化や不具合が出やすくなる頃からは、むしろ手をかける頻度が増している。ただ古いだけではなく、オーナーが時間をかけて丁寧に向き合われてきたクルマなのだということが、こうした記録からも伝わってくる。

そしてその記録は、28年前のクルマとは思えない、現車の美しさとして結実している。深い艶を放つダークブルーパールのボディ、曇りなきメッキモール、すり減りのないウッドパネル、そしてクッションの弾力を保ったシート——。維持のための記録が、静かな説得力としてここにある。

日産シーマ4.1LX(FR/4AT)時間の中で育った価値

大切に扱われてきたからこそ

古いクルマに価値を見出すとき、多くはデザインや時代背景、あるいは希少性を語る。しかしこのシーマのように、四半世紀以上にわたって美しい状態を保ち、いまも現役で走る個体には、それだけで揺るがない価値がある。

大切にされてきた時間は、ただの「古さ」を「信頼」に変える。

もしかすると、贅沢とはこういうことかもしれない。速さや装備ではなく、長く、豊かに過ごせること。このシーマは、その理想をかたちにしたような存在だ。

日産シーマ4.1LX(FR/4AT)時間の中で育った価値

SPEC

日産・シーマ 4.1 LX

年式
1997年式
全長
4985mm
全幅
1820mm
全高
1445mm
ホイールベース
2815mm
車重
1740kg
パワートレイン
4.1リッターV型8気筒
トランスミッション
4AT
エンジン最高出力
270ps/6000rpm
エンジン最大トルク
370Nm/4400rpm
メーカー
価格
店舗
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