フェラーリ308GTBクアトロバルボーレ(MR/5MT)今や「ピッコロ」ではない

今や「ピッコロフェラーリ」という言葉は死語に近いものかもしれない。不思議なことに日本のV8人気は意外なほど高いことは周知の通りだ。さて祖先を知る旅へ出かけよう。

今や「ピッコロフェラーリ」という言葉は死語に近いものかもしれない。不思議なことに日本のV8人気は意外なほど高いことは周知の通りだ。さて祖先を知る旅へ出かけよう。

ピュアロードカー初

昔は「ピッコロ(小さな)フェラーリ」などとよく言ったものだ。

マラネッロ産ロードカーといえばその昔12気筒が基本だった。60年代以降になってロードカービジネスが盛んになると、入門モデルが必要になってくる。

そしてディーノが出た。ただし跳ね馬エンブレムなしで。

フェラーリ308GTBクアトロバルボーレ(MR/5MT)今や「ピッコロ」ではない

ピュアロードカー初の非12発モデル。だから“小さな”と言った。今となってはもはやピッコロなどではない。

その系譜=V8ミドシップからのまたしてもV6先祖がえり、ただしPHEVで、がマラネッロのメインストリームになって久しい。いずれにしてもディーノに端を発する“ピッコロ・フェラーリ”がマラネッロ&トリノの経営と思惑を支えてきた。

おかげで跳ね馬ロードカーの民主化は進み、世界で最も有名で成功したスポーツカーブランドにさえなった。

フェラーリ308GTBクアトロバルボーレ(MR/5MT)今や「ピッコロ」ではない

相変わらず夢のクルマではあるけれど、夢のまた夢というほどの夢ではない。実現可能な夢だろう。

子供心にも「308シリーズなら将来買えるかも」と期待を持たせてくれたものだった。社会人になってからは買うと真剣に思い始めていた。20世紀のバブルが弾けた後は安かったのだ。

結局、ボクは小さい頃から夢だったベルリネッタボクサーを買ったけれど、それは単に日本で売っていた328あたりと比べてほとんど値段が変わらなかったからだ。跳ね馬ライフは308で始まる。それが常識だったし、結論を先走れば今もまだボクらの年代にとってはそうかも知れない。

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スーパーカーを身近に

スーパーカーを身近に感じさせてくれたV8ミドシップ。その系譜は73年デビューのディーノ308gt4に始まる。

2+2のミドシップスポーツカー。ポルシェ911がマーケットを賑わせていたからだ。75年にはいよいよディーノ246gtの後継として308GTBが登場する。

ここでようやく跳ね馬エンブレムを使う決断が(おそらくはフィアットが主導して)下されたことが後々の成功を生むことに。

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その後はご存じの通り、328から348、F355、そして360へと進化。

特に2ペダルを得たF355からは大ヒットとなり、現在もその人気は続く。

そして360までなんと四半世紀以上にわたって、フランコ・ロッキ率いる70年代のエンジン開発チームが生み出したディーノV8が連綿と使われてきたのだった。

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改めて308GTシリーズを振り返っておこう。大きく分けて3つのシリーズがある。キャブレター時代、インジェクション時代、クワトロバルボーレ(4バルブ)時代である。キャブレター時代はさらに初期型ファイバーボディとのちのスチールボディに分けられる。

クラシックモデルとして最も価値の高いとされているのが初期型ファイバーボディ“ヴェトロレジーナ”だ。その次が同じキャブレターのスチールボディ、そして今回の主役であるクワトロバルボーレとなる。

2バルブのインジェクション時代は不遇のモデルだ。環境性能を得る代わりに大幅なパワーダウンを余儀なくされた。

けれども今となっては20世紀の跳ね馬のパワーなどたかが知れているとも言えるので、美しいスタイリングを愛で、ワインディングロードを流して楽しむ程度なら、お買い得なインジェクションモデルは格好の選択肢になりうる。

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全てのノイズを楽しむ

さて、いよいよ本題の308GTBクワトロバルボーレである。インジェクション化によって丸められた牙を4バルブ化でふたたび鋭く研いできた。

個人的には扱いに気難しさの残るキャブレター時代よりも好ましいと思っている。

なんと言っても美しい時代のピニンファリーナデザインはそのままで、始動はラクチン、それでいて動かす瞬間からワインディングロードでのお楽しみまでクラシックフェラーリそのものだ。

フェラーリ308GTBクアトロバルボーレ(MR/5MT)今や「ピッコロ」ではない

まずはメカニカルノイズの全てを味わってほしいと思う。クルマの発する全ての音に聞き耳を立てることが、クラシックモデルを楽しむための第一歩であると同時に、問題の発生をいち早く知るコツでもあるからだ。

全てのノイズを楽しむ努力さえ惜しまなければ、クラシックカーライフは跳ね馬に限らず大抵上手くいく。

厳密に区切られたシフトベースと、そこから屹立するシフトレバーこそ、クラシックフェラーリの楽しみの原点である。この操作から全てが始まる。

手足でマシンと繋がることが要求され、文字通り一体となって走れた時に、最高のハッピーが全身に降り注ぐ。

フェラーリ308GTBクアトロバルボーレ(MR/5MT)今や「ピッコロ」ではない

くぐもったエグゾーストサウンドよりもさまざまなメカニカルノイズの方が勇ましく思えた。

クォーンではない。キーンが多い。あと、かちゃかちゃガシャガシャ。4バルブが忙しなく動いている様子が目に浮かぶようだ。

アクセルコントロールで荷重移動をしっかりやりくりすれば、思いの外意のままにコーナーをクリアする。ジル/ビルニューブばりの腕力と勇気があればスピンターンも可能だが、試さない方がいいだろう。

SPEC

フェラーリ308GTBクアトロバルボーレ

年式
1985年
全長
4230mm
全幅
1720mm
全高
1120mm
ホイールベース
2340mm
車重
1275 kg(乾燥重量)
パワートレイン
3リッターV型8気筒
トランスミッション
5速MT
エンジン最高出力
243ps/7000rpm
エンジン最大トルク
260Nm/5000rpm
タイヤ(前)
205/55 VR16
タイヤ(後)
225/50 VR16
  • 西川淳 Nishikawa Jun

    マッチボックスを握りしめた4歳の時にボクの人生は決まったようなものだ。以来、ミニカー、プラモ、ラジコン、スーパーカーブームを経て実車へと至った。とはいえ「車いのち」じゃない。車好きならボクより凄い人がいっぱいいらっしゃる。ボクはそんな車好きが好きなのだ。だから特定のモデルについて書くときには、新車だろうが中古車だろうが、車好きの目線をできるだけ大事にしたい。

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