ベントレー・ミュルザンヌに乗れば、ベントレーが何を考え、ミュルザンヌに何を託したかがわかる。他のモデルではなく、このミュルザンヌのみが静かに語ってくれるのだ。
それまでにル・マンで6勝をあげたならば、その名前を使っても文句はでないだろう。それくらいの栄誉なのである。
2009年8月、カリフォルニア州モントレーでベントレー・ミュルザンヌは披露された。英国クルーの本社で設計から組み立てまで全てが行われるこの車が日本で披露されたのは2010年3月のこと。全てを受注生産とし、3380万円からのプライスタグが掲げられた。
2016年にはフェイスリフトが施された。その際ミュルザンヌ・スピードと呼ばれるスポーツグレードとEWB(日本未導入)も加わった。
しかし2020年ミュルザンヌの生産終了が発表された。同時にOHVのV8エンジンの歴史にも幕が降りた。2代目フライングスパーがミュルザンヌの領域もカバーすることになったのだ。
後部座席に座ってみる。臀部が当たる部分が窪む、ピンと張ったレザーシートが程よく反発する。運転しているときにはあまり目にできなかったウッドパネルやレザーにうっとりする。広い足元や頭上、遮音性のしっかり効いた窓。外の世界から完全に閉ざされた移動にくつろぐ。
自らハンドルを握るとき同様、ロールス・ロイスの雲の上をゆくようなふわふわ感とは異なるけれど、十分に乗り心地はよく、むしろベントレーとロールス・ロイスの思想の違いをハンドルを握ることで読み解いてゆく楽しみがあると私は捉えた。
10年前、ベントレーはミュルザンヌという特別モデルに何を託し、なぜ連綿と続いてきたパワートレインを鼻先に押し込んだのか。
そしてなぜル・マン24時間のコースからモデル名をもらってきたのか。
いささか懐古趣味と言われればそこまでかもしれないが、いや、今しか乗ることが出来ない車なのだと主張したい。濃密な時間であった。
SPEC
ベントレー・ミュルザンヌ
- 年式
- 2015年
- 全長
- 5575mm
- 全幅
- 1925mm
- 全高
- 1530mm
- ホイールベース
- 3270mm
- トレッド(前)
- 1620mm
- トレッド(後)
- 1650mm
- 車重
- 2710kg
- パワートレイン
- V型8気筒ツインターボ
- トランスミッション
- 8速AT
- エンジン最高出力
- 512pss/4200rpm
- エンジン最大トルク
- 1020Nm/1750rpm
- サスペンション(前)
- ダブルウィッシュボーン
- サスペンション(後)
- マルチリンク
- タイヤ(前)
- 265/45ZR20
- タイヤ(後)
- 265/45ZR20