マクラーレン720Sパフォーマンス(MR/7AT)クールな情熱

マクラーレン720Sパフォーマンス(MR/7AT)クールな情熱

マクラーレン720Sパフォーマンスの試乗記。同社の他のラインナップを明らかにしつつ、ライバルとも比較。エンジンフィールや乗り心地などに着目。今、魅力的に感じる理由を探る。

全部が似て見えるマクラーレン

マクラーレン、すべて同じクルマに見えませんか? 同社の車を目の前にして、そう思う(言う)人は多い。

まずは今、マクラーレンはどんな車をラインナップしているのかを整理しよう。

マクラーレンの現行製品は、3つのラインナップに分かれている。「GT」「スーパーカーズ」「アルティメット」。セールスの中核をなすのが「GT」と「スーパーカーズ」だ。

「GT」にはマクラーレンGTが属す。「スーパーカーズ」には現在
・アルトゥーラ
・720S
・765LT
が名を連ね、アルトゥーラ以外には、クーペ/スパイダーの2タイプが揃う。

アルトゥーラは発表されたばかりのハイパフォーマンス・ハイブリッド。

765LTは、モデル名の通り765psを叩き出す、720Sベースのマシン。LTはマクラーレン史で避けては通れぬ「ロングテール」の略。

いずれもMP4-12C(エムピーフォートゥエルブシー)に端を発するマクラーレン第二章のプロダクト群にあたる。

そして今回の主役、720Sである。

えぐられ、膨らみ、断ち切られ

マクラーレン720Sを目の前にして驚かされるのは、複雑怪奇なボディ形状だ。

えぐられ、膨らみ、断ち切られ。人間がスケッチし、ミニチュアモデルを手で削って生まれたかつての車の形状とは全く異なる。隅々まで複雑な数値とCADによって生まれたかのような、冷たいサイボーグのような形状が人を緊張させる。

デザイナーはちなみにロバート・メルヴィル。ロイヤル・カレッジ・オブ・アートで博士号を取得したエリートは、37歳の若さで同社のチーフデザイナーまで上り詰め、ポートフォリオには570シリーズ、そしてこの720Sが並んでいる。

好む好まざるにかかわらず720Sのそれはミッドシップスーパーカーとしての定石を固く守りつつ、しかしマクラーレン独特のデザインを確立している。 特徴的なディヘドラル・ドアを上に跳ね上げ、従来モデルより低くなったサイドシルを跨いでコックピットに収まった。

運転に緊張を与えるインテリア

スイッチの配置は直感的ではない。エンジンをONにする操作からして迷う。

一方のドライビングポジションは、恐らくどんな人にでもしっくりとくるものにアジャストできるであろう調整幅。

走らせる、という行為に対しては、愚直に突き詰めていることが細部から感じられる(ステアリング形状、スイッチの角度、ペダル類の位置やパドルの感触など)

だから直感的ではないスイッチの数々も、あるいは敢えてそうすることで、特有の緊張感を演出しているのかもしれない。

視界の良さも720Sの特長。エンジンマウント位置を下げ、Cピラーを細くした結果、ぺったりと低く幅広なスーパーカーに乗る時に感じる、斜め後ろ方向の視界の心もとなさとは無縁。屋根(ディヘドラルドアの上部)からも明るい光が差し込まれ、またリアガラスの面積も多く、開放感さえ感じるのであった。 エンジンONで、可倒式のメータークラスターがむくりと起き上がる。

背後から聞こえるエグゾーストノートは、ターボエンジンとは思えないくらい透明度が高く、ニュートラル状態でアクセルを踏み込むと、これまたターボエンジンらしからぬ鋭い回転感を披露した。切れ味鋭い包丁で、束になった野菜にザクッと刃を落とす感触とでもいおうか。

走り出すと「やっぱり」である。それは乗り心地の当たりの良さだった。

乗り心地は硬い でも柔らかい

数々のメディアが「乗り心地が良い」と書いているようだが、レセンス編集部としてはこれに反対の姿勢を示す。

というのも「乗り心地が良い」と書くと、たとえば扁平率が高く、サスペンションのストロークが大きい、ふわりとした車を想像しかねないからである。

マクラーレン720Sの乗り心地は硬い。でも当たりがやわらかい。

路面のうねりや凹凸をはっきりと臀部に伝えてくるものの、その当たりが、信じられない程にまろやかなのだ。

これはカーボンで構成される「モノケージII」によるものだと推測する。バスタブ構成ではなく、その上のAピラー、ルーフ中央、そしてCピラーまで一体となるシェルの極めて高い剛性のお陰で、下からの入力に対して、ガタピシと衝撃を伝達することがないゆえなのである。 アクセルを踏み込むと、後方から低〜中音域の和音がたおやかに盛り上がる。マクラーレン=ターボV8のくぐもったサウンドを想像していたとしたらもったいない。次第に中〜高音域手前の周波数が混ざり、鋭いと言うに差し支えない、キレのあるサウンドになる。

4.0リッターV型8気筒ツインターボエンジンは、最高出力720ps/最大トルク770Nmを湧出。0-100km/h加速は2.9秒、0-200km/h加速は7.8秒。

参考までに、フェラーリF8トリブートが搭載する3.9リッターV型8気筒ツインターボエンジンは、最高出力720ps/最大トルク770Nmと同値。いわゆるガチンコ勝負と言っていいだろう。

もうひとつ、印象的だったのが制動フィールである。高い速度域からガンとブレーキを踏み込み、少しずつブレーキを離していき前後の姿勢を整える。こういった繊細な動きを多用する際、効きの唐突さ、足の裏に伝わる情報量が命取りになるけれど、720Sはそれがない。

なおこのカーボンブレーキ、100-0km/h=30m、200-0km/h=118m。曙(あけぼの)ブレーキを誇らしくも思う。

なぜ今、乗っておきたいのか?

1992年〜1998年。たったの64台しか世に送り出されなかった伝説のマクラーレンF1(昨年のペブルビーチ・オークションの落札額は22憶円にのぼった)

メルセデス・ベンツとのコラボレーションによって生まれたメルセデス・ベンツSLRマクラーレン(2004年)

直近のニュースとしては、約182億円にてメルセデス・ベンツ300SLRウーレンハウト・クーペが落札された。

ロードカーだけではない。

休止や合併、独立を経た企業としてのマクラーレン(マクラーレン・カーズならびにマクラーレン・オートモーティブ)、レーシング・チームとしてのマクラーレンなど、決して長い歴史とはいえぬ同社をとりまく環境は、話題に事欠かない

720Sを中心とした現行ラインナップも、ことピュアなICE搭載車として、数年後、数十年後に振り返ることになるだろう。

マイルス・デイビスがご機嫌に吹き鳴らす「オール・ブルース」を生で聴くことは二度と敵わない。そんな気持ちで今、マクラーレン720Sに触れてみるのも手だ。

SPEC

マクラーレン720Sパフォーマンス

年式
2018年
全長
4545mm
全幅
1930mm
全高
1195mm
車重
1430kg
パワートレイン
4.0リッターV型8気筒ツインターボ
トランスミッション
7速AT
エンジン最高出力
720ps/7500rpm
エンジン最大トルク
770Nm/5500rpm
サスペンション(前)
ダブルウィッシュボーン
サスペンション(後)
ダブルウィッシュボーン
タイヤ(前)
245/35 R19
タイヤ(後)
305/30 R20
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