アルファロメオ・スパイダー2.0ツインスパーク(FF/5MT)アルファか、アルファ以外か

鮮やかな黄色いスパイダー。幌も内装も、機関もすべてが整ったこの一台は、ツインスパークの直4が持つ本質的な魅力をいま改めて教えてくれる。理屈じゃない。これがアルファだ。

鮮やかな黄色いスパイダー。幌も内装も、機関もすべてが整ったこの一台は、ツインスパークの直4が持つ本質的な魅力をいま改めて教えてくれる。理屈じゃない。これがアルファだ。

過去の評価からの解放

試乗を終えた今でも、あのツインスパークの音が耳に残っている。

ツインスパークならではの乾いた音色が、幌越しに空へ抜けていく。決して図太くはない。でも、しっかりと芯があって、雑味がなくて、どこか穏やかに昂ぶるような、そんな音だ。

アルファロメオ・スパイダー2.0ツインスパーク(FF/5MT)アルファか、アルファ以外か

2000年式アルファロメオ・スパイダー。この916スパイダーというモデルにおいて、より注目を集めていたのはV6搭載モデルだった。そのぶん、この2リッター直4は、どこか“地味”な存在と見なされてきた節がある。

けれど、今あらためてステアリングを握ってみると、そんな過去の評価が、いかに相対的なものでしかなかったかがよくわかる。

このツインスパークの吹け上がりとサウンド、それを受け止める軽快な車体のリズム。それは、まさに「アルファロメオにしかない高揚感」だった。

アルファロメオ・スパイダー2.0ツインスパーク(FF/5MT)アルファか、アルファ以外か

アルファロメオという文化

アルファロメオを愛する人は、少し独特だ。

一度惚れ込んだら、他のどんなクルマに浮気せず、アルファのみを何台も乗り継ぐ人もいれば、たった1台を乗り続ける人もいる。スペックや合理性ではなく、もっと感情に近い場所でクルマとつながっている──そんな人たちが多い印象がある。

今回のスパイダーも、きっとそういう人たちの手を渡ってきたのだろう。

そんなストーリーを思わず想像してしまうほど、状態が良い。機関も、電動ホロも、内外装も、年月を感じさせないほど、すべてが整っている。

アルファロメオ・スパイダー2.0ツインスパーク(FF/5MT)アルファか、アルファ以外か

アルファロメオという名前が持つイメージ──華やかさ、情熱、そしてどこか繊細な一面。それゆえに、時間とともに疲れが見えてしまう個体も少なくない。

だが、この個体にはそんな影がまったくない。走り出した瞬間から伝わる軽やかさと、細部に宿る丁寧な手入れの跡。

すべてが、これまでのオーナーの想いを物語っていた。

アルファロメオ・スパイダー2.0ツインスパーク(FF/5MT)アルファか、アルファ以外か

これほどまでに調子が良く、美しく保たれたアルファロメオに出会う機会は、そう多くない。

それを「受け継ぐ」ということには、たんにクルマを買うという以上の意味がある。アルファロメオという文化を、自分の人生に迎え入れるということなのだ。

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V6の影に隠れていた時代から

かつてこのスパイダーには、もうひとつの主役がいた。

それが、3.0リッターのV6モデル。まるでコンパクトなフェラーリのよう──そんな比喩すら飛び出すほど、あのブッソV6は官能的だった。

そのあまりの魅力に、ツインスパークを搭載した直4モデルはどうしても“地味な存在”と見なされがちだった。

もちろん、悪いわけではない。むしろ軽快なハンドリングや軽さを活かした走りは、このモデルならではの美点だった。

アルファロメオ・スパイダー2.0ツインスパーク(FF/5MT)アルファか、アルファ以外か

けれど当時は、どうしても「V6じゃないと」という声が目立っていたのも事実だ。実際、あの頃、街角でよく見かけたツインスパークの音は、どこか軽くて印象が薄かった記憶がある。

それが今ではどうだろう。時を経た今、あの頃の“フェラーリのようなV6”という肩書きも、遠い記憶になった。

スペックや評判に惑わされることなく、ただ目の前のクルマと向き合える今だからこそ、この2.0リッター直4の素直な音や、軽やかな吹け上がりが、純粋に魅力的だと感じられる。

このスパイダーの魅力は、数値では測れない。

そしてそれは、V6であっても、ツインスパークであっても、変わらないのだ。

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定番を外した遊び心

アルファロメオといえば赤──そんな固定観念を軽やかに裏切ってくれるのが、この個体のカラーだ。

「ゾウ・イエロー・メタリック」と名付けられたその色は、イタリアのオープンスポーツカーらしい陽気さと遊び心にあふれている。スパイダーの小さなボディと相まって、軽やかな印象を与えてくれる。

そして、そのボディに組み合わされるネイビーの幌。定番のブラックではなく、あえての青幌。そこに、控えめながら個性を貫く美学がある。

アルファロメオ・スパイダー2.0ツインスパーク(FF/5MT)アルファか、アルファ以外か

ブラックのレザーシートが備わるこの個体は、当時オプション装備だったインテリアパッケージが選ばれていた可能性が高い。細部の素材感や使用感からも、丁寧に扱われてきたことが伝わってくる。

ドライバーズシートに座ると、ステアリング、シフトノブ、各スイッチの並びが、手に吸い付くような位置にあることに気づく。

それは単なる「設計」ではなく、走りそのものに没入させるための意図された配置だ。

感性を重んじるイタリア車らしく、この小さな空間にも、ドライバーを高揚させるための哲学が貫かれている。

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理屈じゃない──それがアルファ

現代のどこまでも制御されたエンジン音と違って、このツインスパークのサウンドは、機械が本能で奏でるような音に近い。鳴るべきところで鳴っていて、聴くたびに体の芯に届く。

この個体に乗って感じるのは、スペックの話でも、装備の充実度でもない。

もっと根源的な「好きかどうか」だ。

アルファロメオ・スパイダー2.0ツインスパーク(FF/5MT)アルファか、アルファ以外か

アルファロメオを愛する人たちは、きっとみんなその感覚を知っている。

それがうまく言語化できなくても、乗ればわかる。エンジンをかけ、1速に入れ、クラッチをつなぎ、ハンドルを切ったときに湧き上がる高揚感。

アルファロメオ・スパイダー2.0ツインスパーク(FF/5MT)アルファか、アルファ以外か

それは「アルファか、アルファ以外か」とさえ言われるほどに、独自の世界を持っている。

この黄色いスパイダーは、そんな世界観をまっすぐに体現していた。

そしてその魅力を、いまも変わらず伝えてくれる。

アルファロメオ・スパイダー2.0ツインスパーク(FF/5MT)アルファか、アルファ以外か

SPEC

アルファロメオ・スパイダー 2.0 ツインスパーク

年式
2000年式
全長
4290mm
全幅
1780mm
全高
1315mm
ホイールベース
2540mm
車重
1320kg
パワートレイン
2.0リッター 直列4気筒 DOHC ツインスパーク
トランスミッション
5速MT
エンジン最高出力
150ps/6200rpm
エンジン最大トルク
181Nm/3500rpm
  • 河野浩之 Hiroyuki Kono

    18歳で免許を取ったその日から、好奇心と探究心のおもむくままに車を次々と乗り継いできた。あらゆる立場の車に乗ってきたからこそわかる、その奥深さ。どんな車にも、それを選んだ理由があり、「この1台のために頑張れる」と思える瞬間が確かにあった。車を心のサプリメントに──そんな思いを掲げ、RESENSEを創業。性能だけでは語り尽くせない、車という文化や歴史を紐解き、物語として未来へつなげていきたい。

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