目標なんてなかった

「私のことに興味を持ってくださる方なんていらっしゃるでしょうか…。」。少し下を向きながら、レセンスのゼネラルマネジャー、濵田正隆さんは静かに語り始めた。

「もともと目標なんてなかった人間です。小学校の頃の将来の夢は『ニート』でしたから（笑）」少し恥ずかしそうに、そう言った。「実際、3年間ニートもしましたしね。就職活動で10社、不合格だったこともあります」

人生の転機は24歳。地域で有名な老舗輸入車販売店の求人を見た時だった。しかし、直感を信じて応募するも、にべもなく不合格だった。

「大企業で働ける経歴なんて何ひとつとしてありませんでしたから。ペーパーテストも0点、論文も2行書いて限界でした。驚かれるかもしれませんが、私、その時、車の知識をまるで持ち合わせていませんでしたしね」

気付けば地元でつるんでいた悪友も会社で中堅。肩書がつく者もいた。もがいた。諦めずに入社希望を伝え続けた。1人の先輩社員の目にとまり、6か月で結果が出なかったら不採用、という試用期間が始まった。結果とはすなわち、「車を売れるか売れないか」だ。

3週間目に、国産車に乗り、作業服を着た来店者がいた。他社員が目もくれぬ中、猛ダッシュでお出迎えした。来店車は、赤いメルセデス・ベンツCクラス・クーペを指さした。

「忘れもしません。赤いジュピターレッドでしたね。ありったけの知識を振り絞り、ご説明しました」（濵田さん）

「じゃ、これ買います」「え……」

「こんなかんじでしたね。契約手続きの仕方さえ習っていませんでしたから」

誰よりも丁寧に接客し、誰よりも見に来てくれる車を綺麗にした。専門用語を自分がわからなかったため、お客様に伝える際にも徹底して噛み砕いた。

2か月目に2台目を販売し、4か月で10台。試用期間は2か月前倒しで終わった。参考までに月3〜4台ペースの販売は、4〜5年目の販売員の成績だ。

ここが自分の居場所

そこから、この仕事が楽しくなったという。ここが自分の居場所だ！と初めて思った。

「人に製品の良さを伝える楽しさのほかに、数ある競合のなかから、自社が販売するブランドを選んでくれた嬉しさもありました。」

「そしてなにより、『濵田さんから買いたい』と言って頂けることが嬉しくて嬉しくてたまりませんでした」

商談に苦労したことはない。濵田さんはそう言い切る。細かな表現で悩む時はあるけれど、「買ってもらわないと、買わせないと。」と思ったことは一度もないそうだ。

「真剣にお客様のお話に耳を傾けると、小さなノイズから本当に求めているものが分かって来ます。それを踏まえて、別のご提案を差し上げたり、さらに深くご説明したり…。シンプルにそれだけです。」

コーディネーターに

オファーを受けて一大決心。レセンスにジョインし、最初に感じたのは、以前販売していたブランド以外にも、こんなに多くも魅力的な車が存在するのか、という驚きだった。

また、レセンスに訪れるお客様の車への愛、深い知識にも驚いた。

「お客様から教えて頂くことも多いくらいです。」と濵田さんは謙虚に語る。

これまでと同様に、静かにお客様のニーズに耳を傾け、丁寧に説明する。

「大きく変わったことは、カラーや仕様に拘り抜いた一点物の車を、コーディネートする感覚です。個性ある車たちを、ぴたりとはまるお客様にご紹介させて頂いています。」

これまでとは全く異なる感覚のようだ。

今後の目標は？

「『レセンス』というブランドが、日々確立されているという手応えがあります。リピートのお客様が増え、認知も進んできました。」

「レセンスほど面白い車ばかりのお店はありません。我々が掲げる『アートを愉しむように、車を愉しむ。』という文脈を、1人でも多くの方に知って頂きたいです。」

濵田正隆さんは穏やかに、そっとそう語った。