ターボでスポーツツーリスモ

今回試乗するのは、ポルシェ・パナメーラ・ターボ・スポーツツーリスモ。モデル名からもお分かりいただける通り「ターボ」であり「スポーツツーリスモ」である点が、このクルマのふたつの特徴となる。

まずターボである点。4リッターV型8気筒ツインターボは、550psと770Nmを湧出する。これはパナメーラのラインナップで最大の数値を誇る。駆動方式は4WD。8速ATを介す。

0-100km/h加速のタイムが3.8秒、最高速が304km/hというのがこの車の公表値だ。

数値で分かる　このグレード

ボディサイズは全長×全幅×全高＝5050×1940×1430mm。ホイールベースは2950mm。車重は2140kgとなる。

セダンとスポーツツーリスモの違いはボディ後端の形状。デザインはポルシェに在籍する日本人である山下周一氏が担当した。

スポーツツーリスモ（ワゴン）タイプになったとはいえ、ルーフラインはなだらかに後端に向かって落ちていく。スポーツカーメーカーが作るワゴンとしての落とし所は見事。

荷室容量はセダンよりも25リッター大きい520リッターになった。シートをすべて倒してしまえば1390リッターまで拡大する（セダン＋86リッター）。

リアシートは標準で3人がけ。オプションで左右独立シートになる。とはいえ3人がけタイプの中央席足元には、太いトンネルが走ることになるため、結局は2人がけが好ましい。

内外よくも悪くもパナメーラ

フロントのフォグライト周辺は上下に分割されるデザイン。これはターボモデルのみ。911ターボもそう。全体的にはパナメーラらしい上品なまとまりであるけれど、細かなところに最上級モデルであるという主張がある。

内装も標準モデルと大きく変わるところはないが、実務的でありながら、素材のチョイスはラグジュアリーである。豪奢、とまでいかないにしても、価格帯に見合う仕上がりだと思う。ただし横を見渡すと、例えばメルセデス・ベンツのSは、テクスチャーから曲面形状、照明まで、常に時代の先を行こうという意気を感じる。発表間近の新型に期待したい。

後部座席は身長172cmの筆者にとって狭いと感じることはなかった。ウインドウの上下長がコンパクトであるため、体がボディに包まれている感が大きい。私は落ち着く。

遮音も効いている。ショーファードリブンの使用を検討する向きにとっても、嫌になることはなさそうだ（Sクラスには負ける）。

同じ車でもこんなに違うのか

ハンドルを握って走り出すと、パナメーラ・ターボの骨太な感触に驚いた。

幸運なことにすべてのグレードをドライブできた筆者の比較対象は今回、パナメーラ4ならびにパナメーラGTSとなったわけだが、パナメーラ・ターボは明らかに手元と腰に伝わる感触がごっちりと骨太なのだ。

ハンドルが一回り太くなり、車体に隅々まで補強が入り、シートのクッションが詰まったようなガチッと感。耳に伝わってくる野太いサウンドもこれを助長させる。もう1つが、リア：315/35 ZR20のタイヤだろう。

ポルシェに乗っていつも驚くのが、同じモデルでもグレードによって、車体全体が全く別のキャラクターになる多彩さである。

結果、速い。アクセルを深く踏み込むと、野蛮なV8サウンドを響き渡らせながら、どこまでも前に突き進んでゆく。正直、切符を切られない速度域を保つ方が難しい。

ステアリングに遊びがなく、車が今、どのように傾き、どのタイヤにトルクが流れ込んでいるか、一挙手一投足が自分の体感として解像度高く感じられる。

パナメーラはもともと、かなりスポーツーカーよりのエグゼクティブカーであるけれど、特にパナメーラ・ターボは、パワーと安定感をかけ合わせたまさに最強カー、なのだ。

まさしく向かうところ敵なし

パナメーラ・ターボは、どこに目的を置くかによって、受け入れられ方が変わるだろう。

たとえば高齢のCEOが、運転手に任せて、日夜、移動するといった使い方だと、他のモデルに比べてハードコアな感は否めない。

ただそこはポルシェ。であれば、他に適したグレードがある。需要に対して、完璧なオルタナティヴを差し出してくれるのだ。

であればパナメーラ・ターボの存在意義は？

私の見解では、自らハンドルを握ることが多く、たまに家族を乗せる。そしてスポーツツーリスモの荷室増加分の恩恵を享受する人。

いやいやそんなの関係なく、「全部のせを見繕って」という人にもよいだろう。

公道を見渡せば向かうところ敵なし。現行ラインナップにターボとスポーツツーリスモの組み合わせが存在しないというのも、この車ならではの旨味だといえよう。