- ポルシェ / 911 ターボ ゲンバラ エアロ(2002)
あなたは車が好きですか?
ポルシェ911ターボ・ゲンバラ・エアロに乗って訪ねたのは凍てつく峠道。車のインプレッションから一歩離れて、純粋に、車に運転に向き合うドライブにでかけた。

自分と車に向き合う
ふだん、なかなかRESENSEの裏側を明かすことはない。明かさないようにしている、といってもいいかもしれない。読者の皆々様には、車とその魅力が伝わることこそが第一義であるから、という考えである。
われわれRESENSEチームは、月のうち数日、集中的に車を取材し、記事にする。取材時は、早朝から深夜まで。むろん車好きなメンバーしかいないけれど、車がたんに取材対象でしかなくなるときがないといえば嘘になる。
車の魅力を伝えるわたしたちがまず、車を楽しめているか。これは非常に重要なのだ。
だからわれわれはあえて取材をストップし、純粋なドライブに行く時がある。これが日々のデトックスになり、そして自分と車に(あらためて)向き合う貴重な時間になるのだ。
今回われわれは朝5時に集まった。周囲はまだ暗い。朝というより、夜の延長戦。出発前にコーヒーを淹れ、それぞれポットに詰めた。カメラも便利カメラではなく、ライカに持ち替えた。夜があける気配はまだない。
目指すはヤマなのだ
コールドスタートしたポルシェ911、タイプ996は、キンキンに冷えたガラスの空気を金槌で叩き壊すように高めのアイドリングで吠えたいた。
行き先は決めていない。マスト事項はワインディング。水温を意識しながらゆっくりと走り始めた。給油する頃には少し明るくなった。
高らかなアイドリングも落ち着いた。国道から逸れ、目指すはヤマ。それだけだ。
ゲンバラ製のエアロで武装したポルシェ911ターボ(タイプ996)は、乗るまでは好戦的な車なのだろうと想像していたけれど、その実、ジェントルだった。
それはタイプ996、という世代全体のジェントルさであり、ティプトロニックのもたらす、甘く、なめらかな、そしてちょっとゆるい変速マナーによるものだと思う。
加速するとワンテンポ遅れて、そして尻を沈ませながらドドドっと前に進む。4WDとはいえ、現代ポルシェと異なり、フロントは少しの心もとなさとともに前進する。絶対的スピードは現代ポルシェと圧倒的な差だけれど、スリルの面ではこっちが圧勝。
生命の危機を安全なコックピットの中でうっすらと感じる。「ターボ」。こうでなくちゃと思いながら加速を楽しむ。
車に乗るためだけに
目指した山は雪だった。マイナス2℃。影の路面はうっすらと白い。
ギアシフトを左に倒せばマニュアルモードになる。極力低いギアを保ちながらコーナーからコーナーへ。重たいリアが暴れぬように姿勢を作る。まっすぐ入る。舵角、最小限。ていねいにアクセルを踏む。
911の運転は淡々としている。修行僧のように、淡々と。きちんとツボを押さえれば、あるいはとても安全なスポーツカーだといえるかもしれない。
それからこの個体のジェントルさにも少しずつ惹かれていった。硬すぎず、煩すぎず、派手すぎず。スタイルを重視しつつも破綻を嫌ったセッティングに、かつてのオーナーの車に対する想いを想像したりするのは楽しい。
山頂は真っ白だった。たしかなフットプリントを残しながら、安全に歩を進めた。
淹れたコーヒーを飲み忘れていたことに気づいた。アクセルを踏み、ハンドルを切ることに没頭しすぎていた。ちょっと休憩をしようと思ったけれど、零下、じっとしていられなかった。温泉を探した。脱衣所は凍てつき、露天風呂は冷たかった。笑ってやりすごせたのは、復路が待ちきれなかったからだ。
帰り着いたころには、街はいつもの、そしてふつうの日常が始まっていた。いっぽうの僕たちは満ち足りた気持ちだった。
ちょっと古い革の、どこか懐かしい香りに満ちた車内の空気を胸いっぱいに吸って吐いた。車に乗るためだけに、車に乗った。もう次のドライブのことを考えていた。
これだから車はやめられないのだ。