クルマ好きであれば、誰しもが一度は頭の中で“理想の一台”を思い描いたことがあるのではないでしょうか。
このクルマも、そうした発想から生まれたかのような存在です。高級車のフロントマスクに、泥仕事もこなせる荷台を備えたピックアップトラック。まさに絵に描いた餅が、そのまま現実に飛び出してきたような一台です。
実物を前にして強く感じるのは、この妄想を実際に手にできるのは世界で一人だけだということ。
同じものが欲しいと思っても、絶対に手に入らない一点モノです。
そして、この個体はすでに完成しているという点も大きな魅力でしょう。いざ自分で作ろうとすれば、現実に引き戻される要素がいくつも押し寄せてきます。
ショップ探しから始まり、ボディ製作に何年かかるのか、手間や費用はどれほどなのか……。その過程をすべて飛び越えられるのは、純粋に価値のあることです。
ボディを大胆にカットするカスタムでは、機能面を犠牲にするケースも少なくありません。
しかしこの個体は、アンテナの移設をはじめ細部まで丁寧に作り込まれており、Sクラス本来のインフォテインメント系も問題なく機能しています。
ベースにS350を選んでいる点も現実的です。3.5LのV6は、V8と比べて極端に見劣りするわけではなく、日常的に使うことを考えれば、むしろ扱いやすいバランスといえるでしょう。
肝心の荷台は、サスペンションの取り付け位置の関係で完全なフラットではありませんが、既存のウッドを活かすのも良し、大きく作り替えて用途に合わせるのも一つの選択です。
さらに、公認取得済みという点も見逃せません。テールライトやバンパーも、ただ機能すればいいという発想ではなく、あえてGクラスのパーツを採用しているあたりに、製作者のこだわりと意地を感じます。
どこへ行っても視線を集めるこのスタイルも、ひとつの価値です。細部まで思想が通ったこの一台に、もはや比較対象は存在しません。
まさに、妄想が現実になった一台です。

永井陽向 Hinata Nagai
絵本よりも中古車情報誌を隅々まで読み込んでいた幼い頃。それ以来、ずっとクルマに魅せられてきた。高校生の時に初めたInstagram「hinacars」では6年間で2000台以上の写真と解説を投稿。最新モデルから名車と呼ばれるクラシック、そして誰も気に留めないような隠れた一台まで。日々クルマとの新しい出会いがあり、そのたびに胸が高鳴る。その“ワクワク”を、クルマオタクとしての視点で丁寧に言葉へ落とし込みながら、読者のクルマ人生をより豊かにしていきたいと考えている。














