- ホンダ / シビックシャトル ビーグル(1995)
何も捨てずに街へ出よう
SUVが街に溢れる今、ひときわ異彩を放つ1995年式のホンダ・シビックシャトル ビーグル。大きなフォグランプにバンパーガード、鮮やかなツートーンカラー。アウトドアへの冒険心も、日常の快適さも、運転する楽しさも。何ひとつ諦めることなく、今でも軽やかに街を走れる一台だ。

山へ行くつもりだったのに
ホンダ・シビックシャトル ビーグル。1994年、RVブームの真っ只中に登場した、シビックシャトルのアウトドア仕様である。
大きな丸型フォグランプに、無骨なバンパーガード。ルーフレールを載せた背の高いボディは、いかにも野山が似合いそうだ。
ならば撮影も山や森の中で。そう考えて走り出したのだが、道中、ちょっとした出来事があった。
交通量の多い駅前の交差点。信号待ちをしていると、横断歩道を渡る親子連れの男の子が、こちらを指差して母親に何かを盛んに訴えている。
「あのクルマ、見て!」そんな声が聞こえてきそうな勢いだ。
そういえば、走っている間も妙に視線を感じる。若い人から年配の人まで、思いのほか多くの人がこちらを見ているのだ。
高級車でもスーパーカーでもない。30年以上前の国産ワゴンである。それなのに、こんなに目立つとは。
いや、考えてみれば当然かもしれない。
今どき、こんな大きなフォグランプやバンパーガードを付けたクルマはそうそう走っていない。ミラノレッドとアーバングレーのツートーンも、現代のSUVとは明らかに違う趣だ。
RVという言葉を知らない世代には、むしろ新鮮に映るのだろう。
つまり、このクルマは実に「おいしい」。
山や森が似合うのはもちろんだが、令和のビーグルは、案外街の真ん中にこそ似合うのかもしれない。
シビック流、アウトドアの解釈
ビーグルのベースは、1987年登場の2代目シビックシャトル。いわゆるグランドシビックと同じ世代のモデルだ。
通常のシビックが1991年に次世代へ移行した後も、シャトルは生産を継続。1994年、RV人気の高まりを受けて追加されたのがビーグルである。
当時のRVといえば、三菱・パジェロやトヨタ・ハイラックスサーフなど、本格的な四輪駆動車が人気を集めていた。
しかし、ホンダのアプローチは少し違った。
シビックシャトルの使いやすさはそのままに、リアルタイム4WDとアウトドアを意識した装備を組み合わせる。
本格的なオフロード車を小さくするのではなく、乗用車の行動範囲を広げようという発想だ。
アウトドアを楽しむために、普段の使い勝手を犠牲にする必要はない。日常の快適さも、休日の冒険心も、ひとつのクルマで満たしてしまおうというわけだ。
実に欲張りで、いかにもホンダらしい。
全長は約4.2m。コンパクトなボディに大きなフォグランプとバンパーガードという組み合わせは、どこかアンバランスにも見える。
だが、その少々大袈裟な装いがいい。
ミラノレッドの鮮やかさを、ボディ下部のアーバングレーが程よく引き締める。ルーフレールや専用ホイールも含め、アウトドアへの憧れを隠そうともしない。
洗練された現代のクロスオーバーとは違う、素直な遊び心がある。
RVになっても譲らないホンダの血筋
走り出すと、これまた意外な一面を見せる。
搭載されるのは、1.6リッター直列4気筒エンジン。最高出力120ps、最大トルク142Nm。
数字だけ見れば平凡だが、車両重量は1150kg。非力さを感じるどころか、実に軽快に走る。
特に気持ちいいのが、エンジンの吹け上がりだ。
スペック表を見ると、最高出力を発生するのは6300rpm、最大トルクも5500rpm。回転を上げて楽しめる、いかにもホンダらしい性格である。
そこに5速MTが組み合わされるのだから、面白くないはずがない。
ギアを選び、アクセルを踏み込み、エンジンを回す。何気ない操作が、そのまま運転の楽しさにつながっていく。
しかも足まわりは、当時のシビックと同じく前後ダブルウィッシュボーン式。
アウトドア仕様だからといって、走りをおろそかにしていない。
荷物を積めることも、悪天候に対応できることも大切。けれど、運転そのものが楽しいことだって、譲れない。
バンパーガードを付けた背の高いワゴンが、こんなにも小気味よく走るとは。
見た目はすっかりRVでも、中身はちゃんとホンダの血筋なのである。
普通だったことが贅沢になる
室内もまた、見た目以上に充実している。
背の高いルーフのおかげで、コンパクトな外寸からは想像できないほど室内は広々。前後席とも頭上に余裕があり、荷物だってしっかり積める。
しかもオートエアコンにパワーウィンドウ、電動調整式ドアミラーまで備わる。
30年以上前のクルマと身構えていたのに、妙にハイテクなのが可笑しい。エアコンもきちんと効いている。
古いクルマに乗るなら、多少の不便は受け入れるもの。そんな先入観があったが、このビーグルに関しては、少なくとも日常的な快適さを大きく我慢する必要はなさそうだ。
そして今回の個体で嬉しいのが、室内に残る当時の雰囲気だ。
前後席には布製のシートカバーが残されている。さすがに使用感はあるものの、大きな破れもなく、長年大切に扱われてきたことがうかがえる。
ダッシュボードやステアリング、純正オーディオデッキ、ドアのファブリック内張りも、なかなか瑞々しい。
何もかも新品のように仕立て直すのとは違う。使われてきた年月を隠さず、それでいて清潔感がある。この自然な佇まいがいい。
そもそもビーグルは、高級車でも特別なスポーツカーでもなかった。
毎日の足として使い、荷物を積み、休日には少し遠くへ出かける。そんな、ごく普通の暮らしのために生まれたクルマだ。
それが30年を経て、街中で子どもが思わず指を差すほどの存在になった。
最新のSUVなら、もっと快適で、速くて、便利なものはいくらでもある。
けれど、こんなに愉快な気分にさせてくれるかどうかは、また別の話。
かつての実用車を、今は趣味で選ぶ。
そのちょっとした贅沢を、ビーグルは実に気負いなく楽しませてくれる。

スペックや値段で優劣を決めるのではなく、ただ自分が面白いと思える車が好きで、日産エスカルゴから始まり、自分なりの愛車遍歴を重ねてきた。振り返ると、...
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