- ホンダ / ビート 660
時を重ねて完成した「鼓動」
軽スポーツという言葉だけでは語り尽くせない魅力が、ホンダ・ビートにはある。64psを絞り出す自然吸気エンジンを高らかに回し、ミッドシップならではの一体感を味わう。その楽しさは、30年以上という時間を経た今だからこそ、より鮮明に心へ響いてくる。

速さではない楽しさ
これほどまでに車名と、その車の性格が一致している車はあるだろうか。
「Beat(ビート)」という名前の由来は、「鼓動」。
人の心を高鳴らせるリズム、躍動感、そして生命力を意味する言葉だ。
ビートは、1991年に幕を開けた軽スポーツカー黄金期を代表する一台だった。
ライバルにはスズキ・カプチーノ、そしてマツダ・AZ-1。
どちらもターボエンジンを搭載し、小さなボディへ力強い加速を与えていた。
一方のビートは、ホンダらしく自然吸気エンジンを選んだ。
656ccの直列3気筒MTRECエンジンは、最高出力64psを発揮するものの、、その魅力は絶対的な速さではない。
7000rpmを超えてなお気持ちよく吹け上がる高回転型エンジンと、ドライバーの意思へ素直に応える軽快なレスポンス。
速さではなく、回す楽しさを選んだのである。
操る喜び
そして興味深いのは、ホンダ自身がこの車を「スポーツカー」とは呼ばなかったことだ。
当時ホンダはビートを「まったく新しいシティ・トランスポーター」と表現した。
移動をもっと楽しくする乗り物。
そんな新しい価値観を提案したかったのだろう。
当時は、その性能を物足りないと思った人も少なくなかったかもしれない。
しかし30年以上という時間を経た今、この車へ乗ると全く違う景色が見えてくる。
660ccという小さなエンジン。
自然吸気ならではの素直なレスポンス。
耳元から聞こえる乾いた吸排気音。
そしてミッドシップならではの一体感。
アクセルを踏み込むたびに、車全体が意思を持った生き物のように鼓動を打ち始める。
現代の高性能スポーツカーのような圧倒的な速さはない。
しかし、それ以上に濃密な「操っている」という喜びがある。
これほどまでにドライバーの鼓動と車の鼓動が重なり合う車は、そう多くはない。
今だからこそ伝わる想い
だからこそ今、改めて思う。
開発陣が「Beat」という名前へ込めた想いは、発売当時よりも30年以上経った今の方が、ずっと強く伝わってくる。
時代は速さを求め、効率を求め、性能を求めてきた。
その中でビートだけは、一貫して「運転する楽しさ」という原点を守り続けていた。
名車とは、デビューした瞬間に完成するものではない。
時代が移り、人々の価値観が変わることで、その本当の魅力が浮かび上がる車もある。
ビートは、まさにそんな一台である。
30年という歳月が、この小さなホンダに「鼓動」という名前の意味を与え続けてきた。
だから今こそ、この車は名車と呼ぶにふさわしいのである。

18歳で免許を取ったその日から、好奇心と探究心のおもむくままに車を次々と乗り継いできた。あらゆる立場の車に乗ってきたからこそわかる、その奥深さ。どん...
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