• ホンダ / ビート 660

時を重ねて完成した「鼓動」

軽スポーツという言葉だけでは語り尽くせない魅力が、ホンダ・ビートにはある。64psを絞り出す自然吸気エンジンを高らかに回し、ミッドシップならではの一体感を味わう。その楽しさは、30年以上という時間を経た今だからこそ、より鮮明に心へ響いてくる。

ホンダ・ビート 660(1993)時を重ねて完成した「鼓動」

速さではない楽しさ

これほどまでに車名と、その車の性格が一致している車はあるだろうか。

「Beat(ビート)」という名前の由来は、「鼓動」。

人の心を高鳴らせるリズム、躍動感、そして生命力を意味する言葉だ。

ホンダ・ビート 660(1993)時を重ねて完成した「鼓動」

ビートは、1991年に幕を開けた軽スポーツカー黄金期を代表する一台だった。

ライバルにはスズキ・カプチーノ、そしてマツダ・AZ-1。

どちらもターボエンジンを搭載し、小さなボディへ力強い加速を与えていた。

一方のビートは、ホンダらしく自然吸気エンジンを選んだ。

ホンダ・ビート 660(1993)時を重ねて完成した「鼓動」

656ccの直列3気筒MTRECエンジンは、最高出力64psを発揮するものの、、その魅力は絶対的な速さではない。

7000rpmを超えてなお気持ちよく吹け上がる高回転型エンジンと、ドライバーの意思へ素直に応える軽快なレスポンス。

速さではなく、回す楽しさを選んだのである。

ホンダ・ビート 660(1993)時を重ねて完成した「鼓動」

操る喜び

そして興味深いのは、ホンダ自身がこの車を「スポーツカー」とは呼ばなかったことだ。

当時ホンダはビートを「まったく新しいシティ・トランスポーター」と表現した。

移動をもっと楽しくする乗り物。

そんな新しい価値観を提案したかったのだろう。

ホンダ・ビート 660(1993)時を重ねて完成した「鼓動」

当時は、その性能を物足りないと思った人も少なくなかったかもしれない。

しかし30年以上という時間を経た今、この車へ乗ると全く違う景色が見えてくる。

660ccという小さなエンジン。
自然吸気ならではの素直なレスポンス。
耳元から聞こえる乾いた吸排気音。
そしてミッドシップならではの一体感。

アクセルを踏み込むたびに、車全体が意思を持った生き物のように鼓動を打ち始める。

ホンダ・ビート 660(1993)時を重ねて完成した「鼓動」

現代の高性能スポーツカーのような圧倒的な速さはない。

しかし、それ以上に濃密な「操っている」という喜びがある。

これほどまでにドライバーの鼓動と車の鼓動が重なり合う車は、そう多くはない。

ホンダ・ビート 660(1993)時を重ねて完成した「鼓動」

今だからこそ伝わる想い

だからこそ今、改めて思う。

開発陣が「Beat」という名前へ込めた想いは、発売当時よりも30年以上経った今の方が、ずっと強く伝わってくる。

時代は速さを求め、効率を求め、性能を求めてきた。

その中でビートだけは、一貫して「運転する楽しさ」という原点を守り続けていた。

ホンダ・ビート 660(1993)時を重ねて完成した「鼓動」

名車とは、デビューした瞬間に完成するものではない。

時代が移り、人々の価値観が変わることで、その本当の魅力が浮かび上がる車もある。

ビートは、まさにそんな一台である。

ホンダ・ビート 660(1993)時を重ねて完成した「鼓動」

30年という歳月が、この小さなホンダに「鼓動」という名前の意味を与え続けてきた。

だから今こそ、この車は名車と呼ぶにふさわしいのである。

ホンダ・ビート 660(1993)時を重ねて完成した「鼓動」
Written By
HIROYUKI KONO

18歳で免許を取ったその日から、好奇心と探究心のおもむくままに車を次々と乗り継いできた。あらゆる立場の車に乗ってきたからこそわかる、その奥深さ。どん...

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