- ポルシェ / 911(2003)
素材からいいクルマ
ポルシェの911というモデルは、初めての一台にも、何十台乗り継いだ先にも、変わらず欲しくなる不思議な吸引力があります。

豊富なグレードとオプションを取捨選択し、自分だけの911に仕立てる楽しさ。
その組み合わせ次第で、同じ911でもまったく違う乗り味になる懐の深さ。
近年はフル装備が主流になり、オーダー時点である程度の装備が推奨されることも増えました。
そんな流れの中で、今回の主役の996カレラはあえての「素のポルシェ」。
このクルマは2003年式の後期型です。
996は2002年モデルの改良で排気量を3.4リッターから3.6リッターへ拡大し、最高出力も300psから320psへ向上しました。
バルブタイミングとバルブリフトを制御するVarioCam Plusを採用し、3.6リッター水平対向6気筒は最高出力320ps/最大トルク370Nmを後輪へ送り出します。
そして6速マニュアル、左ハンドル。
ドイツ生まれの911を、設計の基準に近いレイアウトで味わえる組み合わせです。
6MTと左ハンドル、そして必要以上に装備を加えていない仕様を見ると、911そのものを味わうために選ばれたようにも思えてきます。
装備も必要以上に盛られておらず、潔いほどシンプルな一台です。
この個体を前にすると、911の本質は、すでにここで完成しているように感じられます。
低く構えたスポーツカーらしい佇まい。乗り込めば、身体を低い位置へ収める着座感と、ブラックレザーに包まれた簡潔な空間があります。
キーを捻れば、水平対向6気筒の乾いたサウンドが薄い膜を破るように立ち上がり、6MTやステアリングの操作感は節度ある重みで応えます。
街中を流すだけでも、路面や車体の動きが伝わります。
そして、エアコンがあり、トランクがあり、必要なら後席も使える。
それら日常の便利さを、スポーツカーの姿を崩さず成立させているところにも911らしさがあります。
頭では知っているはずの911というクルマが、素の仕様だとより鮮明に体感として迫ってきます。
いい料理は素材から。
クルマも同じで、996の素のカレラはそのことを静かに教えてくれます。
盛り付けや調味料で魅力を足すのではなく、素材そのものの輪郭を味わう楽しさ。
911というモデルがなぜ半世紀以上愛され続けるのか
その答えの一部が、この素の996には宿っています。

絵本よりも中古車情報誌を隅々まで読み込んでいた幼い頃。それ以来、ずっとクルマに魅せられてきた。高校生の時に初めたInstagram「hinacars」では6年間で200...
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