• フォルクスワーゲン / ザ・ビートル フェンダー エディション(2013)

知ってる人にも、知らない人にも

フェンダーの名を冠したザ・ビートル。ギターを弾く人なら思わず反応する組み合わせだが、魅力はその名前だけではない。サンバーストのダッシュパネルに専用サウンドシステム。知っていればもう少し楽しくて、知らなくても洒落ている──そんな一台だ。

フォルクスワーゲン・ザ・ビートル フェンダー エディション(2013)知ってる人にも、知らない人にも

いたるところに

何を隠そう、わたくしはギターという楽器を嗜んでいる。しかも30年近く、フェンダーのギターを使い続けている。

ところが、このクルマのことは恥ずかしながら知らなかった。

フォルクスワーゲンに「フェンダーサウンド」というプレミアムサウンドシステムが存在することは知っていた。しかし、オーディオだけではなくクルマ丸ごとフェンダーにしてしまった「フェンダーエディション」なるものがあったとは。

ならば面白い。まずは答えを見ずに、30年選手の目でフェンダーらしいところを探してみよう。

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最初はボディカラーである。

この黒いボディを見て、真っ先に頭に浮かんだのはエリック・クラプトンの愛機「ブラッキー」だ。

もちろん、この色がブラッキーをモチーフにしたという話ではない。ただ、黒いボディに白のピックガードを合わせたストラトキャスターは、クラプトンに限らず多くのミュージシャンが手にしてきた。世界で最も知られたエレクトリックギターのひとつである、ストラトキャスターを象徴する姿と言っていいだろう。

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そしてドアを開けると、今度はかなり分かりやすい。

ダッシュパネルいっぱいに、黒から飴色へと移ろうサンバーストカラーが広がっている。中心部には木目も見える。

ギターに興味がない人なら「ちょっと変わったウッド調パネル」に見えるかもしれない。しかし、ギターを見慣れた人なら、この色の移り変わりには覚えがあるはずだ。

サンバーストは、フェンダーのみならずギターに古くから使い続けてきた代表的なフィニッシュのひとつ。派手な装飾というより、楽器として見慣れた配色がそのまま横長のダッシュパネルになったよう。

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さらにドアミラーの付け根を見ると、小さなツイーターに例の筆記体のロゴ。

フェンダーというとエレクトリックギターのイメージが強いが、創業者レオ・フェンダーの原点はラジオなどの修理業である。1940年代初頭から、アンプやPA機器も手がけ、やがてギターの製造へと進んでいった。

そしてギターと並んで、フェンダーはアンプの世界にも数々の名機を残している。楽器だけでなく、その音をどう鳴らすかまで長年追い続けているメーカーなのだ。

車内で実際に鳴らしてみると、これがなかなか贅沢である。

音量を上げてもただ賑やかになるのではなく、低音にはしっかり量感があり、高音も埋もれない。ザ・ビートルという比較的コンパクトな空間いっぱいに、想像していた以上に厚みのある音が広がる。

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やはりこの車、「フェンダー」のロゴだけ借りてきたコラボレーションではなさそうだ。

ほかにもある。

シートのファブリックや専用とおぼしきホイール、クロームのドアミラー。どれがフェンダー由来なのかはまではわからないが、全体に漂うのは少しポップで、少しアメリカンな雰囲気だ。

では、答え合わせをしてみよう。

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思った以上に丸ごとフェンダー

ザ・ビートル フェンダーエディションは2013年、フォルクスワーゲンの日本正規輸入60周年を記念して600台限定で発売されたモデルである。

そして答えを見てみると、思っていた以上に本気だった。

ダッシュパネルは、やはりフェンダーの伝統的なギターを意識した「サンバースト」デザイン。外にはクローム仕上げのドアミラーとフェンダーエンブレム、足元には専用デザインの18インチアルミホイールが与えられ、頭上には電動パノラマスライディングルーフまで備わる。

シートもファブリック&レザレットの専用品。そしてドアトリム下部とフロントスピーカー周辺には、赤、青、白から色を選べるアンビエントライトまで仕込まれている。

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極めつけは、もちろんフェンダーサウンドシステムだ。

10チャンネル、総出力400W。100Wのツインリバーブなら4台分だ。もちろんカーオーディオとギターアンプのワット数を単純比較はできないが、数字だけでもなかなか景気がいい。

前後4つのツイーターと4つのミッドレンジスピーカー、さらにラゲッジスペースには20cmのサブウーファーを収め、合計9スピーカーを専用に組み上げている。

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つまりこれは、ザ・ビートルにフェンダーのオーディオを載せてエンブレムを貼っただけの限定車ではない。

色、素材、光、音。

クルマに乗っている間に目や耳へ入ってくるものを使って、「フェンダー」というブランドの世界観を表現しようとしているのである。

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先取りした存在

2026年の現在から振り返ると、このクルマはさらに興味深く見えてくる。

フェンダーは現在、もはやギターやアンプだけを作っている会社ではない。もちろん、歴史的なアイコンとなった数々の楽器が、ブランドの中心であることに変わりはない。

しかし2015年にはナイキやディズニーなどでブランドビジネスに携わったアンディ・ムーニーがCEOに就任。その後はデジタルサービスなども含め、演奏者とフェンダーとの接点を大きく広げていった。

そして2023年、ブランド史上初、世界初となる旗艦店「FENDER FLAGSHIP TOKYO」をオープン。

地下1階から地上3階までの建物には楽器だけでなく、カフェやイベントスペースまで設けられた。同時に「ウェア・ザ・ミュージック」を掲げるファッションブランド「F IS FOR FENDER」も誕生している。

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ここまで来ると、フェンダーを単なる楽器メーカーと呼ぶだけでは足りない。

音楽を演奏する人だけではなく、聴く人、着る人、カルチャーとして楽しむ人まで含めたライフスタイルブランドへと、その領域を広げている。

その現在地から2013年のザ・ビートル フェンダーエディションを振り返ると、妙に腑に落ちるものがある。

このクルマが発売されたのは、そうした動きが本格化するより前だ。

それなのにフォルクスワーゲンはすでに、フェンダーを「ギターを作る会社」としてではなく、ひとつのスタイルとしてクルマに持ち込んでいたのである。

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知ってる人だけのものではない

ここまでフェンダーについて散々書いてきたが、このクルマを楽しむために楽器の知識は必要ない。

サンバーストを知らなくても、このダッシュパネルは十分に変わっている。フェンダーのアンプを鳴らしたことがなくても、400Wのサウンドシステムは楽しめる。ギターを一本も持っていなくても、このザ・ビートルは、普通の一台とは少し違って見えるはずだ。

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そもそもザ・ビートルもフェンダーも、詳しい人だけのものではない。

ギターを弾かない人でも、ストラトキャスターの形をどこかで見たことがある。クルマに詳しくない人でも、ザ・ビートルを見れば「ビートルだ」と分かる。

どちらも20世紀のポップカルチャーの中を長く走ってきた。音楽や映画、ファッションと結びつきながら、本来の用途を越えてその姿そのものが意味を持つようになった。

道具であると同時に、アイコンなのだ。

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だから、この2つを組み合わせるのに難しい説明はいらなかったのかもしれない。

フェンダーを知っていればもちろん楽しく、知らなくてもちょっと洒落たザ・ビートルとして欲しくなる。そんな限定車は案外少ない。

所有する楽しさとは、すべてを最初から知っていることではない。乗りながら、眺めながら、あとから意味を見つけていく。このザ・ビートルには、そんな楽しみも残されている。

Written By
MASASHI NAKAZONO

スペックや値段で優劣を決めるのではなく、ただ自分が面白いと思える車が好きで、日産エスカルゴから始まり、自分なりの愛車遍歴を重ねてきた。振り返ると、...

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