- メルセデス・ベンツ / 280SL(1969)
歴史的価値も、走る喜びも
280SL。半世紀以上を経た現在でも、その美しさが目を惹く一台です。 1963年のジュネーブ・ショーでその姿をアンベールした時の衝撃は、60年以上経った今も変わりません。 W113型SLは、今も変わらぬ佇まいで人々を魅了し続けています。

このモデルは、2代目SLとして開発されました。
SLはSport Leicht(シュポルト・ライヒト)、ドイツ語で“軽量スポーツカー”を意味する言葉の頭文字から名付けられたクラスです。
初代はガルウィングが特徴の300SLで、レースの世界でもトップクラスの性能を誇ったモデルです。
クーペは1954年から57年まで生産され、クーペ終了後は300SLロードスターと190SLがラインナップがラインナップを支えました。
こうした歴史から、SLは“オープンモデルの名車”というイメージが確実に根付いていきます。
W113には、ルーフ形状から取られた世界共通の愛称があります。
それが「パゴダ・ルーフ」です。
ドイツ車でありながら、どこか東洋的な響きを持つ愛称です。
これは、ルーフ中央をわずかに凹ませることで、十分なヘッドクリアランスと高い剛性を両立した独特のデザインが、日本建築の“軒反り”のような屋根に似ていることからそう呼ばれるようになったと言われています。
このデザインを担当したのはフランス人のポール・ブラック氏です。
いわゆるタテベン期のメルセデスを多く手がけ、その後BMWでは初代6シリーズなど名車の流れを作り、プジョーでもデザイン部門を率いた人物。欧州自動車史を語るうえで欠かせないデザイナーの一人です。
初代から続く性能へのこだわりも健在で、開発時にはサーキットテストが行われました。
2.3リッターの初期型でさえ、排気量的に格上のフェラーリに迫る記録を持っています。
今回の280SLは、1968年に2回目のマイナーチェンジを経て登場した完成版とも言えるモデルです。
2.8リッターの直6SOHCエンジンに機械式燃料噴射装置を備え、最高出力170ps、最大トルク240Nmを発生します。
その走りを監修したのはルドルフ・ウーレンハウト氏。
技術担当重役でありながらレーシングドライバーより速く走ると語られ、自ら設計したレーシングカーを自らテストする技術者です。先の記録も彼がステアリングを握ったとされています。
軽快なハンドリングは偶然生まれたものではなく、開発陣の明確な意思によって磨き上げられたものです。
そしてW113がクラシックカーとして選ばれやすい理由は、性能やデザインだけではありません。オートマチックやパワステを備え、誰でも楽に走らせることができる懐の深さがある点も見逃せません。
今回の個体も、その魅力を素直に味わえるオートマチック仕様です。
座り心地の良いシート、屋根を開けて風を楽しむ余裕。このクルマには、SLらしい時間が流れています。
カラーは上品なベージュグレー。内装は赤いレザーに、ステアリングとシフトレバーのホワイトが差し色として映えます。メッキが多く使われている点もゴージャスです。
驚くべきは走行距離が1万km台ということです。
長らく走っていない個体ではなく、近年も整備が行われていた記録簿が残る生きた一台。
歴史的価値だけではなく、今も走る歓びを味わえる一台。その両方を備えているからこそ、280SLは今なお世界中で愛され続けています。

絵本よりも中古車情報誌を隅々まで読み込んでいた幼い頃。それ以来、ずっとクルマに魅せられてきた。高校生の時に初めたInstagram「hinacars」では6年間で200...
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