- メルセデス・ベンツ / EQE350+(2023)
俊敏さを手に入れた現代版W124
EQS譲りの重厚な乗り味を持ちながら、街中では驚くほど身軽に振る舞うEQE350+。数日間の日常を共にして見えてきたのは、時代も動力源も異なるW124と、どこかで通じ合うメルセデスらしさだった。

日常を一緒に過ごしてみる
今回でEQEに触れるのは二度目になる。
前回の試乗では、EQSと基本骨格を共有しながら、絶妙なサイズに凝縮されたパッケージングの良さに感心した。
そして今回は、改めて数日間この車と一緒に過ごしてみた。
街中を走り、高速道路を走り、駐車場へ入れ、普段の生活の中で使ってみる。
すると前回とはまた違った、この車の本質のようなものが見えてきた。
結論から言ってしまおう。
これは、俊敏さを手に入れた現代版W124なのではないか。
一つずつ紐解いていこう。
重厚感と同居する扱いやすさ
W124に触れたことのある方なら、あの不思議な感覚をご存じだと思う。
決して巨大な高級車ではない。
しかし乗り込んで走り出すと、車格以上の落ち着きがある。
ボディーがどっしりと路面へ腰を据え、ひとつ上のクラスの車に乗っているような安心感を与えてくれる。
ところが、そんな重厚な乗り味とは裏腹に、街中へ入ると度肝を抜かれるほど小回りが利く。
大きく感じるのに、扱うと小さい。
重厚なのに、身のこなしは軽い。
この一見相反する感覚こそ、私の中にあるW124の記憶である。
そしてEQEに数日間乗っていて、その感覚を何度も思い出した。
以前の試乗記でも触れたように、EQEには上級モデルであるEQSと同じEVA2と呼ばれるEV専用プラットフォームが使われている。
つまり成り立ちそのものに、上級車の血が流れている。
EQSが持つゆったりとした室内空間や落ち着き、そしてメルセデスらしい重厚感を受け継ぎながら、その世界をひと回り扱いやすいサイズへ凝縮しているのだ。
だからだろう。
EQEにも、サイズから想像する以上のどっしりとした安定感がある。
そして、この感覚にEVという成り立ちが実によく効いている。
重量物であるバッテリーを床下へ搭載することで重心は低い。
さらにガソリン車よりも車重があることが、この車の場合はむしろ路面へ吸い付くような落ち着きや、乗り心地の厚みへつながっているように感じる。
重さを隠して軽快に見せようとするのではない。
重さを上質さへ変換している。
ここが実にメルセデスらしい。
プレーンな状態だからこそ
しかも今回改めて魅力に感じたのが、350+というグレードのプレーンさである。
必要にして十分以上の動力性能がありながら、過剰にスポーティでも、過剰に豪華でもない。
EVならではの静粛性と滑らかな加速、メルセデスらしい落ち着いた乗り味。
それぞれの要素が突出するのではなく、絶妙なところで調和している。
実はこのEQEへ乗る少し前、メルセデス・マイバッハのEQSにも試乗していた。
もちろん、あちらは凄い車である。
ありとあらゆる最新技術を使い、圧倒的な快適性をつくり上げている。
しかし、その直後にこのEQEへ乗ったことで、むしろこちらの素性の良さに気付かされた。
ハイテクデバイスをこれでもかと投入して快適性をつくり出すのではなく、もっとプレーンな状態ですでに気持ちがいい。
車としての基本的な成り立ちそのものに、心地よさがあるのだ。
リアアクスルによる俊敏性
そして何より驚かされるのが、旋回性能である。
これだけのボディーサイズがあるにもかかわらず、街中でその大きさをほとんど意識させない。
交差点を曲がる、狭い駐車場へ入る、Uターンする──そんな日常の何気ない場面で、この車は驚くほどクルリと向きを変える。
もともと「大きな車を小さく感じさせる」のはメルセデスのお家芸だが、リアアクスルステアリングが加わったEQEのそれは、もはや別次元である。
低速域では大きな車体を驚くほど俊敏に扱え、高速域では逆にどっしりと安定する。
ここで再び、W124を思い出す。
車格以上の落ち着きがある。
なのに、驚くほど小回りが利く。
そこへEVならではの低重心と静粛性、そして現代のリアアクスルステアリングによる俊敏性が加わった。
だから私は、この車を「俊敏さを手に入れた現代版W124」と表現したくなったのだ。
もちろんW124とEQEは、機械としてはまったく違う。
時代も、動力源も、設計思想も違う。
それでもメルセデスというメーカーが考える「日常で使う高級車」の根底には、どこか同じ思想が流れているように思えてならない。
本当の価値に気付かれるのは
そして皮肉なことに、EQブランドそのものは今、大きな転換期を迎えている。
W124のように世界中から圧倒的な支持を集めた存在とは言い難い。
中古車市場を見ても、その評価が十分についてきているとは思えない。
しかし、人気と名車であることは、必ずしも同じではない。
むしろ時間が経ち、世の中の評価軸が変わった時に初めて、「あの車は実はものすごく良かった」と気付かれる車がある。
中古車に日々触れていると、そんな瞬間に出会うことがある。
今回、数日間EQEと一緒に過ごして感じたのは、まさにそれだった。
こんな素晴らしい車が、まだ世の中に十分理解されていない。
そして、その魅力に今このタイミングで気付くことができた。
それはこの仕事をしていて、本当に良かったと思える瞬間でもある。
だからこそ、この車の良さを一人でも多くの人に伝えたい。
そしてできることなら、一度乗って体感してほしい。
名車というものは、必ずしもその時代に評価されるとは限らない。
EQEはもしかすると、少し時間が経ってからその本当の価値に気付かれる、そんな一台なのかもしれない。

















