ポルシェ・ボクスターは、単にエントリーモデルではなく独自の価値を持って生まれたモデルです。
名前の由来は水平対向エンジンを表す「ボクサー」(Boxer)と、オープンカーを表す「ロードスター」(Roadster)を掛け合わせた造語。
水平対向エンジンとオープンモデルという組み合わせはポルシェの原点である356を思い起こさせます。
今回のモデルは、その時代のとあるスペシャルモデルの名前を冠した1台です。
その名も、ボクスターS 550スパイダーエディション。
1953年のル・マン24時間にプロトタイプを出走させて1500ccクラス優勝を収めたのち、同年のパリ・サロンで正式デビューしたのが550スパイダーというモデル。
後に、サーキットだけでなくロードモデルも発売され、その刺激的な走りと美しいスタイルで人気を博したモデルです。
現存車は極めて希少で、現在では非常に高額で取引される存在です。レプリカが数多く製作されていることからも、その特別さがうかがえます。
そんなモデルの誕生50周年を記念して作られたのが、この550スパイダーエディションです。
デビューした1953年にちなみ世界限定1953台。そのうち61台が日本へ輸入されたといわれています。
特別装備が盛りだくさんの気合の入ったこの限定車は、限定以前に思わず気になる色使い。
ボクスターといえばシルバーは鉄板カラーですが、このクルマはGTシルバーメタリック。少し濁ったような暗いシルバーです。
オプションサイズのホイールには、同色と通常のシルバーのツートンで特別な塗り分けがなされたというのも、通常のボクスターとの違いが分かりやすいです。
この個体のソフトトップは、純正のココアブラウンから黒に変更されていますが、暗めのカラーにとても合います。また、リアのバッチも純正とは異なっています。
このクルマは、左ハンドルのティプトロニック仕様。黒いレザーシートやホールド感のいいシートはこのクルマのキャラクターにマッチしています。
インテリアでは各部にシルバーパネルが配され、センターコンソールには「453 / 1953」を示すシリアルナンバープレートが備わります。
限定車であることを、乗り込むたびに実感させる演出です。
スポーツカーでありながらトランクも前後各130Lのスペースを用意。フロントは深く取られておりスーツケースも楽に入ります。
ベースのモデルはボクスターSとなるので、高性能な3.2リッター水平対向6気筒エンジンを搭載しています。
最大出力は、ノーマルより6ps増の266psで最大トルクは310Nmとなっています。
さらに、車高がノーマルより10mm低めにセッティングされていたり、ブレーキの径を大きくしていたりと、よりドライブが楽しくなるような細かなチューニングが施されています。
986ボクスターというモデルには限定車がほぼない中、内外装が通常オーダーでは出来ない、このクルマのみの部分もあるのでその違いを楽しめる魅力があります。
また、このモデルは986ボクスターの最終型というのも魅力のひとつで、熟成された中身も同時に味わうことができます。
この個体は、6万kmのオドメーターが指し示す通り、定期的にドライブされてきた1台。
綺麗な内外装含めて、しっかりと愛されてきたことがわかります。
初代986の熟成した限定車。これからも、長く付き合える1台なのではないでしょうか。

永井陽向 Hinata Nagai
絵本よりも中古車情報誌を隅々まで読み込んでいた幼い頃。それ以来、ずっとクルマに魅せられてきた。高校生の時に初めたInstagram「hinacars」では6年間で2000台以上の写真と解説を投稿。最新モデルから名車と呼ばれるクラシック、そして誰も気に留めないような隠れた一台まで。日々クルマとの新しい出会いがあり、そのたびに胸が高鳴る。その“ワクワク”を、クルマオタクとしての視点で丁寧に言葉へ落とし込みながら、読者のクルマ人生をより豊かにしていきたいと考えている。

















