BMW傘下入りを前に誕生したB3。アルピナグリーンを纏いながら、従来像を覆すほどにスポーティな資質を備える。しなやかさと昂揚が同居するその走りは、独立メーカーとしてのアルピナが辿り着いたひとつの到達点である。
ひとつの区切りを前に
アルピナというブランドには、独特の時間が流れている。
BMWをベースにしながら、BMWとは異なる完成形を目指す。速さを競うのではなく、余裕と質感、そして大人の節度を重ねてきた。
その歩みは半世紀以上に及ぶ。
そして近年、アルピナはBMWグループの傘下に入ることを選んだ。それは衰退ではなく、ブランドを未来へ残すための決断だ。
だが同時に、“独立した自動車メーカーとしてのアルピナ”は、ひとつの区切りを迎えたとも言える。
このB3は、その転換点に立つモデルだ。
まるでM3のような
そう思って走り出したからこそ、最初の違和感は強烈だった。
「これは、本当にB3なのか?」
歴代アルピナは、どこまでも滑らかで、どこまでも上品だった。
速くても、尖らない。それがアルピナの美学だった。
だがこのB3は、驚くほどスポーティだ。
ハンドリングはクイックで、アクセルを踏み込めば、排気は明確なバブリングを伴って応える。
その挙動は、従来のB3というより、M3をアルピナが仕立て直したかのように感じられる。
思わず「B3ではなくBM3だ」と口にしたくなるほどだ。
もちろん、アルピナらしさが消えたわけではない。
路面をいなす足の動きには、確かなしなやかさがある。高速域の安定感も、いかにもアルピナらしい。
だが、突き上げは正直で、情報は濃い。
そこにあるのは、“優しさ一辺倒”ではないアルピナだ。
自由なアルピナ
これは、BMWグループ傘下に入る直前だからこそ許された、アルピナの自由度が最も高かった瞬間なのかもしれない。
何より印象的なのは、M3ほど肩肘を張らなくていいということだ。
限界性能を試すための緊張感はない。それでいて、ただ走らせているだけで楽しい。
ハンドルを切る。
アクセルを踏む。
クルマが素直に、気持ちよく応える。
速さではなく、運転する歓びが中心にある。この感覚は、アルピナが長年守ってきた価値観でもある。
歴史を語る上で
そして、クルマを降りた瞬間、空気はまた変わる。
そこに佇むのは、アルピナグリーンの落ち着いた佇まい。
派手さはない。だが、分かる人には一目で分かる。
走りではM3のように昂らせ、降りれば、いつものアルピナとして静かに振る舞う。
このギャップこそが、たまらなく魅力的だ。
BMWグループ傘下という現実を受け入れながら、それでもなお、アルピナとしての個性を最大限に注ぎ込んだ一台。
このB3は、単なる“最後のアルピナ”ではない。
アルピナが最も自由だった時代の、ひとつの到達点だ。速さも、品格も、楽しさも。
すべてを自然体で抱え込んだこのB3は、アルピナの歴史を語るうえで、確実に欠かせない存在になるだろう。

河野浩之 Hiroyuki Kono
18歳で免許を取ったその日から、好奇心と探究心のおもむくままに車を次々と乗り継いできた。あらゆる立場の車に乗ってきたからこそわかる、その奥深さ。どんな車にも、それを選んだ理由があり、「この1台のために頑張れる」と思える瞬間が確かにあった。車を心のサプリメントに──そんな思いを掲げ、RESENSEを創業。性能だけでは語り尽くせない、車という文化や歴史を紐解き、物語として未来へつなげていきたい。
















