プジョー206RC 3ドア(FF/5MT)クルマを頑張って走らせたい人達は集合

潔く左ハンドルの3ペダルのみ。パフォーマンスはドライバーが引き出すものと主張する206RC。WRCの血統「アナログ世代最終のホットハッチ」という結論ここにあり。

潔く左ハンドルの3ペダルのみ。パフォーマンスはドライバーが引き出すものと主張する206RC。WRCの血統「アナログ世代最終のホットハッチ」という結論ここにあり。

イタフラホットハッチ

目を疑った。オドメーターは1.5万km。

もちろん内外装のコンディションが、この年代のホットハッチにしては随分マトモだなと思っていたけれど、ここまで低走行だとは。もっとも同時に思ったことは、「ひょっとしてそんなに面白くないモデルだったっけ」という懸念だった。

昔のイタフラ系ホットハッチといえば、とにかくガレージに放っておくわけにはいかないという誘惑に満ちたモデルが多かった。ずーっと乗っていたいモデルばかり。

見た目は時のベーシックカーだというのに、運転好きの気持ちをとにかく上手に盛り上げる。そんなイメージだったから、小走行の個体をみるにつけ「誘惑が下手だった?」と思ってしまうのだ。

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それでもキレイなコンディション、特に内装、であることは悪いハナシじゃない。重いハンドルと軽いクラッチペダルに少々戸惑いつつ、ゆっくりと走り出す。

206RC。一世を風靡した205GTIに比べると、WRCのように勇ましいネーミングの割には自分のなかでの印象は薄い。なぜだろうと街中を流しながら考えていた。一つ思いだしたのは、この頃プジョーがすごく人気だったことだ。

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205や106、そして306でマニアックな人気に火がつき、その勢いが206にも伝播した。205の後継であったのに、スタイリングがいきなりポップでユニークになったことも見逃せない。

ファッショナブルな人が206の登場に反応していたような記憶もある。女性人気も高かった。

クルマ好きには少なからずへそ曲がりなところがある。知る人ぞ知るモデルが、まずまず知られるようになると途端に熱が冷めてしまうのだ。

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その潔い組み合わせは

206はそんなモデルだった。シンプルで2ボックスとしては気をてらわないカタチだった106や306に比べて、206は攻めていた。攻めすぎていたのだ。

美しい406と比べても、品のなさが目立った。調子の悪い時には応援するくせに、調子に乗ると突き放すのがクルマ好きのサガというもので、私は当時ピニンファリーナの406クーペにハマっていたから、206の目立ったスタイルなど論外だった。

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ところが久しぶりにじっくり見てみると、もはやこれでもベーシックなデザインに見えてくるから、その後の21世紀デザインはつくづく派手になったものだと思う。

206でさえ、シンプルに見える。つり目などは「きっしょ」と言うべきで、世の中が後から206に追いついた。

左ハンドルの3ペダルマニュアルのみ。その潔い組み合わせは日本へやってくる輸入車が失って久しいもの。好みの回転域をキープしながら走っているとだんだんやる気が出てきた。

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180psの四発エンジンがなかなか良い仕事をする。高回転域までストレスなく回り、ギアボックスとの相性も良く、とにかくギアチェンジが面白い。

そしてサウンド。決して華やかでも轟音でもないけれど、メカニカルな運動によく連動した音とでも言おうか。

もちろん今でも十分に実用的な力を出す。扱いづらさはなく、マニュアルミッションを多少ズボラに操作しても許してくれる。乗りやすさを担保したパワートレインでもあったのだが...

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ドライバーが引き出す

ホットハッチだなぁ、と改めて思ったのは、高いレベルのパフォーマンスを引き出すには腕力が必要だという点だった。

車体は軽いが、その大半は前でハンドルもかなり重い。要するにフロントシートから前だけで頑張って走らせるという感覚がつきまとう。

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もちろん、ワインディングロードに導けば、いささか軽いお尻であっても気持ちよく追従し、粘りのあるコーナリングを楽しむことができるのだが、それだって右に左にと続くと腕の力を消耗する。

なるほどこれはラリー・チャンピオン=RCと名乗るにふさわしい。マシンのみならずドライバーにも高性能を求めているのだ。

今の時代、ハイパフォーマンスは無条件にクルマの方から提供されている。ドライバーはクルマを信じて操作すればよく、場合によってはクルマがほとんど仕事をするくせにドライバーにはそう思わせない罪作りなスポーツカーだって存在する(いや、多い)。

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206RCは違う。パフォーマンスというものはドライバーが引き出すものであると、静かに主張する。

言い換えればドライバーの腕によってそのマシンの評価が定まる。遅い人であれば遅いなりの。プロならばプロなりの。

そう考えた時、このクルマは20世紀的なホットハッチの最後であったことに思い至った。この後のホットハッチは、現代のスーパーカーと同様に、扱いやすい速さを身につけていく。

すっかりそんな世界に慣れた身に、だから206RCの重いステアリングが、やけに苦々しく思えてしまったのだった。クルマにではない。クルマの進化にである。

文:西川淳(Jun Nishikawa)

SPEC

プジョー206RC

年式
2003年式
全長
3835mm
全幅
1675mm
全高
1440mm
ホイールベース
2442mm
車重
1100kg
パワートレイン
2リッター直列4気筒
トランスミッション
5速MT
エンジン最高出力
177ps/7000rpm
エンジン最大トルク
202Nm/4750rpm
タイヤ(前)
205/40ZR17
タイヤ(後)
205/40ZR17
  • 西川淳 Nishikawa Jun

    マッチボックスを握りしめた4歳の時にボクの人生は決まったようなものだ。以来、ミニカー、プラモ、ラジコン、スーパーカーブームを経て実車へと至った。とはいえ「車いのち」じゃない。車好きならボクより凄い人がいっぱいいらっしゃる。ボクはそんな車好きが好きなのだ。だから特定のモデルについて書くときには、新車だろうが中古車だろうが、車好きの目線をできるだけ大事にしたい。

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