- ミニ / エースマンE(2025)
遊び心という文化
合理性だけを求めるなら、もっと正しいEVはあるかもしれない。それでもエースマンEに惹かれるのは、乗り物としての効率以上に、クルマと過ごす時間そのものを楽しませてくれるからだ。ミニは電動化の時代になっても、遊び心という文化を手放していなかった。

音のない時代の、音楽家たち
EVに乗ると、多くの場合は静かさや効率の話になる。
エースマンEも基本性能だけ見ればそうだ。
実際、何も設定せず走り出せば違和感は少ない。クリープもあり、回生ブレーキも自然で、直前まで乗っていたガソリン車から乗り換えても戸惑うことはない。
だが、ミニはそこで終わらなかった。
アクセルを踏み込むと聞こえてくる擬似サウンド。
どこかで聞いたことがある。子供の頃にテレビで見たSFの乗り物がワープするあの音だ。
もちろん、こうした演出は今やEVの世界では珍しいものではない。だが、MINIのそれは速さや迫力を強調するというより、運転する気分を盛り上げるためのものに感じられた。
EVは本来、音を失った乗り物である。
それでもミニは、そこに感情を残そうとした。
静寂の中に、あえて音楽を流すように。
シルバーという未来感
ミニといえば鮮やかなボディカラーを思い浮かべる人も多い。
しかし今回のメルティング・シルバーIIIは、それらとは異なる魅力を持っていた。
現代のミニは、かつてよりもデザインが整理されている。ヘッドライトやボディラインから余計な装飾を削ぎ落としながら、未来的な方向へ進化している。
そのため、このシルバーがよく似合う。光の当たり方によって表情を変えながらも、どこか工業製品のような美しさがある。
そして新世代ミニは内装の世界観そのものを選べるようになった。
この個体のクラシックトリムは、各部に配された淡いゴールドの加飾が特徴で、未来的なEVでありながらどこか温かみを感じさせる。
かわいいだけではない。かといって威圧感もない。
このエースマンは、ミニらしい親しみやすさを残しながら、新しい時代のデザインへ歩み始めているように見えた。
メーターひとつで景色が変わる
このクルマで最も印象的だったのは、走りそのものよりもエクスペリエンス・モードかもしれない。
ただのドライブモード選択機能ではなく、ボタンひとつで演出のテーマも切り替わる。
メーターデザイン、ヘッドアップディスプレイ、アンビエンスライトそしてサウンド。
すべてが連動して変化する。
例えば、Timelessというテーマはクラシックトリムとの相性が印象的だった。
淡いゴールドの加飾とクラシカルな表示デザインが重なると、不思議と古いMINIの記憶を呼び起こす。新しさと懐かしさが自然に同居していた。
一方のGo-Kartテーマは対照的だ。
メーターはよりアナログ的になり、サウンドもエンジンを思わせる演出へ変わる。
アクセルを戻せばエンジンブレーキのような音まで聞こえる。
もちろん本物ではない。
だが、本物かどうかはあまり重要ではなかった。大切なのは、運転手の気持ちが少しだけ盛り上がること。
中には本格的なオフローダーさながらに、車両の傾斜角を表示するテーマまで用意されている。実用性というより、思わず試してみたくなる遊び心だ。
エースマンには、そんな小さな遊びが無数に仕込まれている。
効率だけではないEV
回生ブレーキを強く設定すると、アクセルを戻した瞬間にしっかり減速する。
ただし、テスラのように停止まではしない。
最後はクリープで転がる。
EVメーカーの中には、ワンペダル操作を積極的に採用するブランドもある。
その方が効率的だし、先進的にも見える。
しかしミニはそこまで振り切らない。
従来のクルマに慣れた人でも自然に乗れる感覚を残している。
新しい技術を取り入れながらも、急激には変えない。
ガソリン車から乗り換えても違和感が少なかった理由は、まさにそこにある。
エースマンEは、未来を見せるクルマというより、未来へ移行するためのクルマなのだと思う。
EVだから選ぶのではない。ミニだから選ぶ。
そんな順番が成立していることが、このクルマの価値なのではないだろうか。

スペックや値段で優劣を決めるのではなく、ただ自分が面白いと思える車が好きで、日産エスカルゴから始まり、自分なりの愛車遍歴を重ねてきた。振り返ると、...
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