SVの名を冠しながら、声高に特別さを語ることはない。だが走り出した瞬間、その違いは静かに伝わってくる。ロングホイールベースがもたらす深い乗り味、丁寧に仕立てられた室内、そしてレンジローバーらしい穏やかな威厳。4代目の熟成が辿り着いた、一つの完成形がここにある。
バンデンプラの記憶
このレンジローバーは、ひと目で“特別”と分かるタイプのクルマではない。
SVという呼び名も、ロングホイールベースという仕様も、決して声高に主張してこない。
だが、乗った瞬間に分かる。これは、これまでのレンジローバーの延長線上にはない一台だ。
初代、いわゆるクラシックレンジローバーのバンデンプラを思い出した。
華美ではなく、ただ静かに、本質だけがそこにあったあの佇まい。
この4代目レンジローバーSVは、その記憶を、現代的な精度で呼び起こしてくる。
深い乗り味
これまで本当に多くのレンジローバーに触れてきた。
年式ごとの違いも、グレードごとの味付けも、把握しているつもりだった。
だからこそ、このSVに初めて触れたときの感覚は、今までで最も印象深いものだった。
想像と現実の乖離が、ここまで美しく重なったことはない。
4代目レンジローバーは、前期モデルでは意外にも硬さが残る印象があった。
後期になり、シートをはじめ随分とマイルドになったと感じていた。
だが、このロングホイールベースのSVは、その先にある。
ホイールベースが伸びたことで、入力の受け止め方が一変している。路面の情報は角を立てず、時間をかけて身体に伝わってくる。
それは柔らかいのではない。
深い。
自分の中にあった「レンジローバーとはこうあってほしい」という理想像に、最も近い乗り味だった。
レンジローバーらしさ
ここで、現行の5代目レンジローバーにも触れておきたい。
5代目は素晴らしい。先進性、静粛性、デジタルとの親和性。あらゆる点で、次の時代を明確に見据えたモデルだ。
だが、その思想はこの4代目SVとは異なる。
5代目が“未来へ向かうレンジローバー”だとすれば、この4代目SVは、時間を重ねて完成したレンジローバーだ。
新しさではなく、成熟の方向で辿り着いた静けさ。その違いは、優劣ではなく、価値観の選択に近い。
室内に身を置けば、きめ細やかな仕立てが自然と伝わってくる。
素材の質感。触れたときの温度。視界に入る情報の整理。
豪華であることを誇示せず、満ち足りた時間を当たり前のように提供する。
それこそが、レンジローバーが長年守ってきた美意識だ。
そして価格を考えると、この仕立て、この完成度に対して、不思議なほど現実的だと感じる。
派手なクルマの価格ではない。
むしろ、これほどレンジローバーらしい一台がこの位置にあること自体が、今となっては貴重だ。
このSVは、これからも色褪せることなく、静かに熟成を重ねていくだろう。
4代目レンジローバーSV。
それは、理想という言葉に、最も穏やかに近づいたレンジローバーだった。

河野浩之 Hiroyuki Kono
18歳で免許を取ったその日から、好奇心と探究心のおもむくままに車を次々と乗り継いできた。あらゆる立場の車に乗ってきたからこそわかる、その奥深さ。どんな車にも、それを選んだ理由があり、「この1台のために頑張れる」と思える瞬間が確かにあった。車を心のサプリメントに──そんな思いを掲げ、RESENSEを創業。性能だけでは語り尽くせない、車という文化や歴史を紐解き、物語として未来へつなげていきたい。


















