ランドローバーは、ただのSUVメーカーではない。舗装路が整備される以前から、どこへでも人を送り届けるための4WDを作り続けてきたブランドである。そのランドローバーの中核を担ってきたのがレンジローバーだ。名門メーカーがこぞってSUVを出した時代、本家が示した答えは何だったのか。
原型から受け継ぐ思想
SUVの原型を辿れば、その一つは1948年に登場したランドローバー・シリーズⅠに行き着く。
第二次世界大戦後、舗装されていない砂漠や沼地、農地や荒野を確実に走破するための道具として生まれた。人と物資を確実に運ぶために、シンプルで堅牢な4輪駆動方式を採用し、足回りを強化し、いかに地面へ確実に力を伝えるかを追求してきた。その思想は、70年以上を経た今も変わらない。
レンジローバーは、その技術を基盤にしながら、かなり早い段階で“快適性”という価値を重ねたプレミアムSUVを生産してきたブランドだ。悪路を走れるだけでなく、長距離を優雅に移動できる存在へと進化させた。
そしてこのレンジローバースポーツは、そこにさらに“運動性能”という要素をプラスしている。
強靭な心臓
エンジンをかけると、低く厚みのあるV8サウンドで目を覚ます。走り出せば、唸るようなサウンドがその存在を主張する心臓だ。
搭載されるのは5.0リッター直噴V型8気筒スーパーチャージドユニット。最高出力510ps、最大トルク63.7kgmを発生する。6速ATを介して4輪へと伝わる力は、約2.5トンの車体を軽々と押し出す。
この車をドライブした日は、雪がちらつくコンディションだった。だが不安はない。
スノーモードやぬかるんだ路面用の走行モードを備えたテレインレスポンスが、しっかりと路面状況に応じて最適化してくれる。
そしてレンジローバー特有の「コマンドポジション」。視線の高さがもたらす安心感は、単なるSUV的演出ではない。
オフロード思想を土台に持つブランドだからこその設計思想が、こうした悪条件下でこそ効いてくる。
シティ派快速モデルでありながら、根底には揺るぎない4WDの哲学がある。
複数の表情
このクルマは、紛れもないSUVだが複数の顔を持っている。その一つが、スーパーチャージャー搭載モデルとしての軽快な走り。
だが同時に、この個体は眺めるだけでも楽しい。
光の当たり方によって紫がかって見えるバリ・ブルーメタリック。
晴天下では鮮やかに、曇天では深みを帯びる。その変化が面白い。街を流していても、同じ色味のブルーに出会うことはほとんどないだろう。
ドアを開けるとアイボリーレザーが迎える。外装の強いブルーとのコントラストが鮮明だ。
触れる部分の質感はしっとりとしており、直線基調のダッシュボードデザインにはレンジローバーらしい無駄のない哲学が感じられる。
さらにアダプティブダイナミクスシステムが走行状況に応じて減衰を制御し、重厚なボディを落ち着かせる。サイドステップやサンルーフといった装備も含め、実用性と華やかさが共存している。
SUVとしての積載性や利便性を備え、ファミリーカーとしても使える。一方で、510psの余裕あるパフォーマンスを持つ。
悪路走破のDNA、プレミアムの質感、スーパーチャージドV8の加速。
レンジローバースポーツ5.0 V8 スーパーチャージドは、SUVという枠組みにもう一つ価値を重ねた存在だ。
単に“何でもできる”のではない。用途を越えて楽しませる力がある。
一台で何度も美味しいクルマだった。

永井陽向 Hinata Nagai
絵本よりも中古車情報誌を隅々まで読み込んでいた幼い頃。それ以来、ずっとクルマに魅せられてきた。高校生の時に初めたInstagram「hinacars」では6年間で2000台以上の写真と解説を投稿。最新モデルから名車と呼ばれるクラシック、そして誰も気に留めないような隠れた一台まで。日々クルマとの新しい出会いがあり、そのたびに胸が高鳴る。その“ワクワク”を、クルマオタクとしての視点で丁寧に言葉へ落とし込みながら、読者のクルマ人生をより豊かにしていきたいと考えている。

























