荒れ地を走るために設計されたクルマ。けれど、その力を実感できるのは、意外にも都市のアスファルト。ランボルギーニが初めて世に送り出した“オールテレイン・スーパーカー”は、思いがけない付き合いやすさを持っていた。
INDEX
このクルマは何者?
黒光りするボディに、グラマラスなフェンダーライン。鋭いフロントマスクに低く構えたシルエット──見た目はどう見てもスーパーカー。それも、ランボルギーニそのものだ。
けれど、よく見ると、ルーフにキャリアバーが載っている。オーバーフェンダーにはマットブラックのプロテクター、リアには甲殻類の背中のようなエアスクープを背負い、実用装備であるはずのパーツが、どれも造形としての個性を主張している。街角に停まっている姿を見かければ、きっと誰もが一度は目を止めるだろう。
これは、2024年式のランボルギーニ・ウラカンステラート。イタリア語で「未舗装路」を意味する「Sterrato」という名の通り、ラリーカーのような装備を持った、ちょっと変わり種のランボルギーニだ。
アウトドア向け?いや、そうとも限らない。アスファルトの街にこそ似合ってしまうこの姿に、スーパーカーというジャンルの固定観念がほどけていく。
乗り心地がいいスーパーカー
スーパーカーといえば、地面すれすれの低い車高に、大径ホイールと薄いタイヤ──そんな“お作法”がある程度決まっている世界だ。言ってしまえば、それがカッコよさのテンプレでもある。
でもこのウラカンステラートは、そのあたりをまるごと無視してくる。
履いているのは、控えめな19インチホイールに厚みのあるタイヤ。しかも最低地上高はノーマルのウラカンより44mmも高く、見た目だけでなく実用面でも確かな恩恵がある。段差を気にせず、縁石におびえず、気軽に路肩へ寄せられる。駐車場で気を張る必要がないスーパーカーなんて、これまであっただろうか。
その足まわりがもたらす乗り心地も快適だ。扁平率の高いタイヤが衝撃を吸収し、サスペンションの設定も絶妙。街中を流している限りでは、スーパーカーであることを一瞬忘れそうになる。
内装に目を移せば、アルカンターラがしっかりと張り巡らされ、ドライブモードには「RALLY」なる専用項目まで用意されている。見た目のインパクトだけで終わらせない、本気の仕様変更が隅々にまで息づいている。
これだけ大胆な装備を持ちながら、走り出せばしっかりランボルギーニ。V10の咆哮、クイックな応答性、ステアリングの正確さ──何も失っていないのに、余裕が加わっている。道路の凸凹やちょっとした段差に、そこまで神経質にならずに向き合えるスーパーカー。それが、このウラカンステラートという一台だ。
街中にこそ向いている
「ステラート(Sterrato)」というネーミングが示す通り、本来は未舗装路や荒野を走破するための提案だ。だが、実際にこのクルマで砂利道や山道を走ることができるオーナーは、世界中でもほんの一握りだろう。
だけど、その走破性がいちばん活きるのは、実は街なのかもしれない。
ひび割れたアスファルト、急な段差、車止めの高い駐車場と、都市の道路は一見整備されているようで、実はスーパーカーにとっては罠が多い。段差にひやっとした経験のある人なら、ウラカンステラートの頼もしさがすぐにわかるはずだ。
しかもそれだけじゃない。ふと思い立って、郊外の森や川辺まで足を伸ばすとき。多くのスーパーカーなら躊躇するような場所でも、「まあステラートなら大丈夫か」と思えてしまう。段差も舗装の荒れも神経質になる必要はない。だからこそ、この一台は、走る場所の選択肢をぐっと広げてくれる。
ルーフレールとキャリアバーも、ウラカンという車種にとっては致命的に足りない積載性を、まさかこの形で補ってくるとは。ファッションの外しアイテムみたいな装備だけど、実はかなり合理的だ。
見た目はとびきりランボルギーニなのに、ほんの少し気を抜ける余白がある。そんな安心して付き合える感覚を、ウラカンステラートは差し出してくる。
10年分の熟成
ランボルギーニ・ウラカンは、2014年にガヤルドの後継としてデビューした。V10をミッドシップに積むこのモデルは、以降10年にわたって様々な派生型を生み出してきた。
四輪駆動のLP610-4に始まり、後輪駆動モデル、ハードコア仕様のペルフォルマンテ、テクノロジーを進化させたEVO、さらにはSTOまで、バリエーションの広がりとともにウラカンというクルマは年々、熟成されてきた。
初期のウラカンは、速さこそあれど、どこか硬質で荒削りな印象もあった。挙動にナイーブな部分が残り、スーパーカーらしい“気難しさ”を漂わせていたのも事実だ。だが年月とともに、ハードもソフトもブラッシュアップされ、ウラカンはより洗練された、完成度の高いモデルへと進化していった。
そして登場したのが、このウラカンステラート。初登場から10年を超えた今、あえてスーパーカーの定石を外してきたこのモデルには、積み重ねてきた時間がもたらす柔軟性と余裕がにじんでいる。シリーズの異端でありながら、その完成度はむしろ、ランボルギーニの現在地をよく物語っている。
制約を超えた先に
大胆なデザイン、純粋なパフォーマンス、そして、予想を裏切る挑戦心。そんなランボルギーニの本質が、このクルマには凝縮されていた。
スーパーカーは常に制約の中にある。地上高、視認性、使い勝手、そして注目の視線。どれもが所有者に覚悟を強いる。だがこのウラカンステラートは、その距離感を少しだけ変えてくれる。
もちろん、中身はあくまでランボルギーニ。すべてを気楽にというわけにはいかない。それでもこのクルマには、スーパーカーとの距離をほんの少し縮めてくれる力がある。
この1台に触れたことで、「スーパーカーはこうあるべき」という価値観が、少しだけ書き換えられた気がする。
SPEC
ランボルギーニ・ウラカンステラート
- 年式
- 2024年式
- 全長
- 4525mm
- 全幅
- 1956mm
- 全高
- 1248mm
- ホイールベース
- 2620mm
- トレッド(前)
- 1668mm
- トレッド(後)
- 1620mm
- 車重
- 1470kg
- パワートレイン
- 5.2リッターV型10気筒
- トランスミッション
- 7速DCT
- エンジン最高出力
- 610ps/8000rpm
- エンジン最大トルク
- 560Nm/6500rpm
- サスペンション(前)
- ダブルウィッシュボーン+専用ダンパー
- サスペンション(後)
- ダブルウィッシュボーン+専用ダンパー
河野浩之 Hiroyuki Kono
18歳で免許を取ったその日から、好奇心と探究心のおもむくままに車を次々と乗り継いできた。あらゆる立場の車に乗ってきたからこそわかる、その奥深さ。どんな車にも、それを選んだ理由があり、「この1台のために頑張れる」と思える瞬間が確かにあった。車を心のサプリメントに──そんな思いを掲げ、RESENSEを創業。性能だけでは語り尽くせない、車という文化や歴史を紐解き、物語として未来へつなげていきたい。