- ジャガー / Iペイス SE(2020)
スポーツカーの血統
踏めばすぐに理解できる加速と、どこか整いきらない荒々しさ。ジャガーが電動化という答えに辿り着く前に生み出したIペイスは、過渡期だからこそ残った感触をそのまま宿している。

踏み込めばわかる
Iペイスに乗ってまず感じるのは、加速のわかりやすさだ。
アクセルを踏み込んだ瞬間、背中をシートに強く押し付けられる。
EVらしい鋭さ、という説明でも間違いではない。ただ、それだけでは少し足りない。そこからさらにもう一段、余計に速い。
それもそのはずで、スペックは400ps/696Nm。数値としても、高性能スポーツカーと並ぶ領域にある。特にこのトルクは、内燃機関ではそう簡単に届く数字ではない。
ドライブモードはいくつか用意されているが、正直なところ違いはほとんど感じない。それほどまでに、このクルマはどの状態でも“常に速い”。
モータースポーツの土壌を持つ英国で、名門スポーツカーメーカーであるジャガーが、そのまま電気で走り出した。そんな印象を受ける加速だ。
荒々しさがむしろ
ジャガーは2021年に、完全EVブランドへの移行を宣言している。だがこのIペイスがデビューしたのは2018年。つまり、まだ方向性が定まる前のタイミングだ。
そして今に至るまで、量産されたEVは、このモデルに限られている。
この事実だけでも、なんとなく察しがつく。このクルマは、計画的に整えられたというより、「まず形にしてみた」ような空気を持っている。そして今回の個体は2020年式。フェイスリフトが入る前の、いわば初期の空気を色濃く残した仕様。
このクルマに乗って感じるのは、妙な遠慮のなさだ。
効率や完成度を過剰に追い込んだ気配がない。EVとしての最適解を探るというよりも、自重せず、そのまま高性能を押し出したような荒々しさ。
洗練されていないと言えばそれまでだが、スポーツカーとして見れば、このくらいの粗さはむしろ歓迎したくなる。
完成度の高さだけで言えば、もっと優秀なEVはいくらでもある。
その余白が、このクルマに独特の温度を与えている。
不思議な見た目も
見た目も、少し不思議だ。
フロントだけ見れば、いかにも近年のジャガーそのものだ。ところが全体を見ると、「これ何だっけ?」となる、既視感のない存在感。SUVでもないし、ハッチバックでもない。かといってクーペとも言えない。
クロスオーバーとして分類されるが、重心は低く、キャビンは後ろ寄りに配置され、オーバーハングは短い。その姿勢はSUVというより、やはりスポーツカーの延長線上だろう。
バッテリーを床下に収めることで得た自由度が、従来のカテゴリーから一歩ずれた輪郭を生んでいる。
20インチのホイールが組み合わされているにもかかわらず、乗り心地に硬さはない。エアサスペンションが路面の入力を丁寧に受け止め、車体の動きを落ち着かせている。
見た目の押し出しの強さとは裏腹に、実際の挙動は穏やかで、長時間の移動にも向いている。
テスラでもないしドイツ勢のEVとも違う、独特の未来感を持った佇まいが「特別なクルマに乗っている」という満足感ももたらしてくれる。
価値の密度
新車時、この個体はおそらく1200万円前後の価格帯にあったはずだ。それがいま、中古市場では250万円前後で手に入る。
単純に見れば、価値が大きく下がったように見える。
数字だけ見ればかなりの落差だが、クルマの中身がそれに合わせて縮んだわけではない。速さも、質感も、ジャガーらしさも、そのまま残っている。
だから見方を変えると、価値が下がったというより、“価値の密度が上がった”だけとも言える。
ジャガーというブランド自体、どこかそうした側面を持っている。他人と被ることが少なく、評価軸も明確に定まっていない。だからこそ、中古市場においては思いがけない位置に現れることがある。
さらにIペイスは、その中でも特殊な存在だ。ブランド初のEVであり、なおかつ現時点で唯一の量産モデル。しかも、転換前夜の思想をそのまま残した一台でもある。
価格と特別感のちょうどいいバランス。こういった「美味しい」一台との出会いこそ、中古車探しの醍醐味でもある。
このIペイスも、今がそのタイミングだろう。
それだけで、このクルマを選ぶ理由としては十分すぎる。

スペックや値段で優劣を決めるのではなく、ただ自分が面白いと思える車が好きで、日産エスカルゴから始まり、自分なりの愛車遍歴を重ねてきた。振り返ると、...
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