思想を貫いてきたジムニーに訪れた、5ドアという変化。市場に応えながらも本質を手放さないその在り方は、無骨さの中にわずかな余裕を宿し、日常との距離を静かに縮めていた。変わることで見えてきた、もうひとつのジムニーのかたちだ。
変わらない思想
ジムニーというクルマは、日本の自動車史の中でも非常に特異な存在だ。
軽自動車として広く知られる一方で、その構造は一貫して本格的なオフローダーにある。
ラダーフレーム構造。
前後リジッドアクスル。
パートタイム4WD。
その成り立ちから、本格的なオフローダーであり続けてきた。
長い歴史の中でも、その思想はほとんど変わっていない。
時代がどれだけ進んでも、快適性や効率性よりも、悪路走破性という本質を優先してきた。
ある意味で、とても“プロダクトアウト”なクルマだ。
一方で、90年代から2000年代にかけて、自動車の作り方は大きく変わっていく。
メーカーの思想から生まれるクルマではなく、市場のニーズに応えるクルマ。
いわゆる“マーケットイン”の時代だ。
市場に寄せたのか
その流れの中で、ジムニーに対する別の解釈も生まれた。
三菱・パジェロミニや、その発展形であるパジェロイオ。
オフローダーのスタイルを持ちながら、より日常に寄せた存在だ。
今振り返れば、あの時代らしいクルマ作りだったと思う。
そんな中でも、ジムニーは変わらなかった。
無骨で、決して扱いやすいとは言えない。
だが、そこには確かな思想がある。
その一貫性に、当時から強く惹かれていた。
そして時代は進み、ジムニーにひとつの転機が訪れる。
5ドアモデルの登場。
長年、多くの人が待ち望んできた仕様だ。
正直に言えば、少し斜めから見ていた部分もあった。
ジムニーが市場に寄っていくことへの、どこか複雑な感情。
だがこのクルマに触れて、その印象は静かに崩れていく。
「変わらないこと」の先に
走り出してすぐに感じたのは、これまでのジムニーとはどこか違うしなやかさだった。
無骨さはそのままに、ほんの少しだけ世界との距離が近づいたような感覚。
決してキャラクターを失ったわけではない。
むしろ、これまでのジムニーが持っていた魅力が、より自然に日常へと溶け込んでいる。
そして、ふと思う。
自分が惹かれていたのは、「変わらないこと」そのものではなく、その奥にある思想の強さだったのではないかと。
長い間、ジムニーは市場に迎合しないクルマだと信じていた。
だがこのノマドは、市場の声に応えながら、その思想を手放していない。
その在り方に触れたとき、胸の奥がじんわりと熱くなった。
クルマの面白さは消えない
マーケットインの先にこそ、日本のものづくりの本質があるのかもしれない。
単なる迎合ではなく、求められるものを受け止めながら、その中に思想を宿す。
その積み重ねが、これまでの日本車を形作ってきた。
そしてそれは、これからのクルマにもきっと続いていく。
電動化が進み、「これからのクルマはつまらなくなる」——そんな声を耳にすることもある。
だがこのジムニーノマドに触れて、その考えは少し変わった。
技術が変わっても、パワートレインが変わっても、クルマの面白さは消えない。
むしろ、新しい形で生まれていく。
変わることは、終わりではない。
次の時代の、はじまりだ。
ジムニーノマドは、そのことを教えてくれた。

河野浩之 Hiroyuki Kono
18歳で免許を取ったその日から、好奇心と探究心のおもむくままに車を次々と乗り継いできた。あらゆる立場の車に乗ってきたからこそわかる、その奥深さ。どんな車にも、それを選んだ理由があり、「この1台のために頑張れる」と思える瞬間が確かにあった。車を心のサプリメントに──そんな思いを掲げ、RESENSEを創業。性能だけでは語り尽くせない、車という文化や歴史を紐解き、物語として未来へつなげていきたい。



















