電動化されたAMGに抱いていた先入観は、走り出した瞬間に崩れる。圧倒的な速さを備えながら、静寂の中で研ぎ澄まされていく感覚。EQS53は、これまでとは異なる次元で“走る愉しさ”を提示する一台だ。
覆される先入観
これまで何度も、EQS450には触れてきた。
しなやかで、静かで、まさにメルセデスらしい電気自動車。
Sクラスの系譜にあるクルマとして、その完成度の高さは十分に感じていた。
だからこそ、今回初めて触れたEQS53には、どこか構えてしまう自分がいた。
電動化されたAMGとは、いったいどういうものなのか。
結論から言えば、それはこれまでのAMGとはまったく異なる体験だった。
EQS53は、メルセデスAMGが手がけた高性能EVである。
前後にモーターを備えた4輪駆動。
圧倒的な出力とトルクを持ちながら、その加速は驚くほど静かだ。
だが、このクルマの本質は単純な速さではない。
ガソリンAMGとは別の快感
印象的だったのは、高速道路での走りだ。
スポーツモードに切り替えた瞬間、このクルマはまったく別の顔を見せる。
圧倒的な安定感と信頼感。
それは、これまでのどのクルマとも違う、新しい種類の安心感だった。
長いホイールベースと、EVならではの重量配分。
それらが相まって、高速域でも車体は一切乱れない。
重さはネガティブに働くどころか、むしろ安心感として機能している。
さらに興味深いのが、回生ブレーキの制御だ。
このクルマでは、ステアリングのパドルによって減速特性を細かく調整できる。
これにより、フットブレーキに頼ることなく、走りをコントロールできる。
アクセルのオン・オフとパドル操作だけで完結する運転。
右足をブレーキへ踏み替える、わずかなラグさえも排除された世界だ。
それは単なる操作性の話ではなく、ドライビングへの没入感を高めている。
従来のAMGが持っていた、エンジンの鼓動や音による高揚感とは異なる。
だがその代わりに、このEQS53には別の快感がある。
日常使いよりも
静寂の中で、すべての動きが研ぎ澄まされていく感覚。
それはまさに、新しい時代のパフォーマンスだ。
もちろん、このクルマは本来、非常に高価な存在である。
だが今回の個体は、走行1万km以下というコンディションでありながら、新車価格のおよそ3分の1という現実的な価格帯にある。
この事実は、大きな魅力と言えるだろう。
もしこのクルマを所有するとしたら。
日常の足としてというよりも、もう一台の特別な存在として。
クラシックカーや、純粋な内燃機関のスポーツカーと並べて、もうひとつの軸として持つ。
そんな使い方が、このクルマにはよく似合う。
EQS53は、これまでのAMGとは違う。
だが間違いなく、新しい時代のAMGである。
そしてその世界を、このコンディションと価格で体験できることは、大きな価値だ。

河野浩之 Hiroyuki Kono
18歳で免許を取ったその日から、好奇心と探究心のおもむくままに車を次々と乗り継いできた。あらゆる立場の車に乗ってきたからこそわかる、その奥深さ。どんな車にも、それを選んだ理由があり、「この1台のために頑張れる」と思える瞬間が確かにあった。車を心のサプリメントに──そんな思いを掲げ、RESENSEを創業。性能だけでは語り尽くせない、車という文化や歴史を紐解き、物語として未来へつなげていきたい。




































