- マセラティ / グランカブリオMCセンテニアルスペシャルエディション(2014)
理由ではなく、本能で欲しくなるクルマ
フェラーリ由来の自然吸気V8、風とともに響く官能的なサウンド、そして100周年を記念した特別な装い。理屈ではなく感覚へ直接訴えかけてくる、最後の時代のマセラティだった。

速さだけでは終わらない魅力
NAモデル最後のマセラティ。
そう聞くだけで、胸が少し高鳴る。
久々に改めて、グランツーリスモ、そしてグランカブリオに触れた。
このモデルは今まで本当にたくさん扱ってきたし、細かく刻まれたグレードや仕様によって驚くほど表情を変えるのも、この車の大きな魅力のひとつだ。
今回の個体は、MCセンテニアルスペシャルエディション。
マセラティ創業100周年を記念した、特別なモデルである。
ベースとなるグランカブリオMCは、通常モデルよりさらにスポーティーな性格が与えられていた。
フロントスポイラーや専用デザイン、カーボンパーツを纏ったエクステリア。
そしてサスペンションやシフト制御もより俊敏に仕立てられ、あの優雅なグランツーリスモの世界観に、ほんの少し緊張感を加えている。
搭載されるのは、フェラーリ由来の4.7リッター自然吸気V8エンジン。
最高出力は460PS。
現代のスペック競争だけで見れば、もっと速い車はいくらでもある。
だがこのエンジンは、単なる“速さ”では終わらない。
回転数とともに高まっていく音。
アクセル操作へ即座に反応する鋭さ。
そして何より、自然吸気ならではの滑らかな高揚感。
近年のターボ車とはまったく違う、“呼吸しているエンジン”の魅力がある。
マセラティだけが持つ官能性
個人的にも、2008年のデビューモデルを15年以上前に一年ほど所有していた経験がある。
だからこそ思う。
あの頃感じた魅力が、今も1ミリも色褪せていない。
それどころか、たくさんの車に触れてきた今だからこそ、この車の特異性がより鮮明に見えてくる。
そしてオープンにした瞬間、この車は完全に別物になる。
風と、光と、そして官能的なエグゾースト音。
その音色に包まれていると、ふと、ある記事を思い出した。
マセラティのV8サウンドは、“ストラディバリウスにもっとも近い音色”だと。
以前はどこか大袈裟にも思えたその表現が、今では不思議と腑に落ちる。
ただ大きいだけではない。
ただ勇ましいだけでもない。
そこには、イタリア車特有の艶と抑揚がある。
まるで音楽のように、感情へ直接入り込んでくる。
さらにこの個体を特別なものにしているのが、“ビアンコ・バードケージ”というボディカラーだ。
これが本当に美しい。
簡単に言えばパールホワイトなのだが、そんな単純な言葉では到底片付けられない。
何十層にも塗り重ねたような奥行き。
光の当たり方によって、陰影がゆっくり変化していく。
だが決して、他メーカーにあるような過剰さや幼さはない。
むしろ圧倒的に上品で、イタリア的な色気だけが静かに漂っている。
さらに100周年モデルならではのディテールも、この個体の特別感をより濃密なものにしている。
唯一無二の存在感
そして改めて思う。
今、この車じゃないといけない理由が、本当にたくさんある。
速さだけなら、もっと優れたスーパーカーはいくらでもある。
最新技術だって、この車には沢山ない。
だが逆に、この車にしか味わえないものも確実に存在する。
しかもこの車は、スーパーカーのような緊張感だけでは終わらない。
4シーターで、荷物も積めて、ちゃんと日常にも寄り添える。
その絶妙な距離感が、この車を唯一無二の存在にしている。
現在の車にあるものは、この車には沢山ない。
だけど、この車にしかない理由がある。
それをここまで断言できる車が、果たして他にどれだけあるだろう。
そんなことを考えていたら、気づけば本気で思っていた。
「この車、この個体が欲しい」と。
理由ではなく、本能で欲しくなる。
グランカブリオとは、そういう車なのだと思う。

18歳で免許を取ったその日から、好奇心と探究心のおもむくままに車を次々と乗り継いできた。あらゆる立場の車に乗ってきたからこそわかる、その奥深さ。どん...
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