マイバッハGLSの識別点

贅を尽くしたマイバッハの歴史は1921年から続いている。メルセデス・マイバッハGLS600は、同ブランド内で最大サイズであり、「徹底的な改良を施し、究極のラグジュアリーSUVに仕上げた」とコメントされる。

フロントグリルは縦方向のピンストライプをモチーフとし、よく見ると上端が太いボートのオールに似た形をしている。なお「スリーポインテッドスター」のボンネットマスコットをSUVで唯一採用するのはこのモデルのみ。

Bピラーやルーフレールはピカピカのクローム仕上げになっている。Dピラーにはマイバッハのエンブレムがあしらわれる。リアにもクロームがあしらわれ、エグゾーストエンド周囲まで輝いている。

アルミホイールはメルセデスの乗用車の中で最大の23インチ。フロントグリルのピンストライプをモチーフとしたマルチスポークホイールは鍛造のポリッシュ仕上げ。テスト車は純正オプションのグリーン/モハーベの2トーンでボディ上下を塗り分けられており、得も言われぬ趣と風格を周囲に振りまいていた。

字面だけを見ると、ある種、過剰なディテールに思えなくもないが、実際に目にするGLS600は、それどころか上品であった。われわれレセンスの本拠地がある京都の地にも、不思議なほどマッチしていた。

贅を尽くしたインテリア

メルセデス・マイバッハGLS600の室内で最も印象的なのは、3列シートを排し、2列にとどめたリアシートだ。ベースとなったGLSより120mmも後方に配置される。

SUVだけに頭上のスペースも大きい。リクライニングはメルセデス・マイバッハSクラスと等しい43.5°まで可能。身を委ねてみると、眠ることさえできそうな角度だ。座面は柔らかく、身体にぴったりと沿うフィッティング。革やステッチの仕上げも美しい。

シート後方は、固定式のパーティションが設置される。デザイン面で「囲まれ感」があるだけでなく、空調や騒音、剛性面でもメリットがあるのだという。

後席の中央には、750ccのシャンパンボトルが3本（！）入る、大型のクーリングボックスが備わる。7インチのリアタブレットを操作して流すブルメスターによるサウンドシステムは、27個のスピーカーと24チャンネルのアンプ、合計1590Wにより構成される。

まさに至れり尽くせりの環境だ。

脳がとろけ降りたくない

スタートボタンを押すと、4リッターV型8気筒ツインターボ＋48V電気システムを組み合わせるパワートレインは、フォーンと穏やかにひと吠えして、あとは黒子に徹する。エアコンから出る風の音がはっきりと聞こえるほど室内は静まり返っている。

ごくごく穏やかにアクセルペダルに足を載せているのに、すべての繊細な動きを察し、伝達する。なめらかな盛り上がり、スペック表を見なければ、V型12気筒、いやW12気筒と言われても信じてしまうほど。730Nmもの強大なトルクは、丁寧に鞣した革のように、柔軟でスムーズ。9Gトロニックの優れた仕事によるところも大きいのだろう。

サスペンションはEアクティブ・ボディ・コントロールを組み合わせる。エアマティックの機構をベースに、四輪それぞれに48V対応のアクチュエーターを加えたもので、スプリングレート/ダンパーの減衰力を個別制御する。ステレオカメラで前方のアンジェレーションをモニタリングし、事前にダンパーの減衰力を演算するこれは、すなわちタイヤへの初期入力からやわらげるため、バネ上まで振動を伝えづらいのが特徴。

常に路面とぴたりと接地しながら、車体はフラット。さらに「マイバッハ」モードに切り替えると、後席の乗り心地に焦点が合う。はっきりと変わったという声がテスターの中からも挙がった。

英国車のハンドメイドによる温かみとは異なる、隅々までロジカルなおもてなしを、香り、静寂、やわらかさを通じて感じる。メルセデス流のおもてなしは、マイバッハに乗って初めて感じられるものだと気づいた。

これ以上何を望もうか。とろけきった脳は、試乗の時間を終えることだけを強く拒んでいたのだった。