- シトロエン / ベルランゴ シャイン XTRパック(2020)
合理性にも遊び心を
商用車譲りの使い勝手に、フランス車らしい色と遊び心を重ねたベルランゴ。特別仕様車として登場した初期のXTR PACKには、日常の移動さえ少し楽しくし、用もないのに荷物を積んで出かけたくなる魅力がある。

商用車の形を楽しさに変える
ベルランゴの成り立ちを考えれば、この四角いボディは何よりもまず合理的だ。
高いルーフ、大きなガラスエリア、垂直に近いテールゲート、左右のスライドドア。荷物を積み、人を乗せ、限られた寸法からできるだけ広い空間をつくる。そのための形である。
ところがシトロエンの手にかかると、その合理性が妙に楽しそうに見えてくる。
今回のベルランゴは、2020年のカタログモデル本格導入を記念して設定されたシャインXTRパック。
シャインをベースに、エアバンプやフォグランプまわりへマットオレンジのアクセントを加え、前後にはアンダーガード風のデコレーション、足元には専用17インチ「ポンテベドラ」アロイホイールが備わる。
ボディカラーは「サーブル」。砂を意味する名前の通り、グレーともベージュとも言い切れない柔らかな色だ。
そこへ黒い樹脂パーツと鮮やかなオレンジを組み合わせる。SUVのように勇ましく見せるのではなく、アウトドアギアやスニーカーを選ぶような軽快さがある。
XTRパックは当初特別仕様車として登場したが、予想を上回る人気から追加生産され、2021年2月にはレギュラーモデルとなった。
2020年12月登録の今回の一台は、いわばその人気が定着する前、特別仕様車として送り出された初期のXTRパックである。
フランス車らしい豊かさ
ドアを開けると、外観以上にフランス車らしい色彩感覚が待っている。
ダッシュボードには深みのあるグリーンを大胆に使い、助手席側には旅行カバンのベルトを思わせる白い加飾をあしらう。そこにオレンジのステッチを添えるあたりも、どこか旅へ連れ出したくなるベルランゴらしい。
専用シートもブラックとグレーだけでは終わらず、鮮やかなオレンジと細いグリーンのラインが走る。
実用車だから内装は簡素でいい、とは考えていない。
毎日目にするものだからこそ、少しくらい楽しいほうがいい。ベルランゴのインテリアには、そんな価値観が自然に表れている。
そして頭上には、大きなパノラミックルーフと収納スペースを一体化した「モジュトップ」が広がる。
頭上からたっぷりと光が入り、四角いボディの車内はさらに明るく開放的に感じられる。高い着座位置と大きなフロントウインドウも相まって、一般的なミニバンとは少し違う、温室のような居心地がある。
豪華な素材を大量に使っているわけではない。それでも、色、光、形の組み合わせだけで「ここに座っていたい」と思わせる。
価格や素材の高級さとは違うところに、豊かさをつくれるクルマだ。
何を入れるか考えるところから楽しい
そしてベルランゴに乗ると、妙なことを考え始める。
「ここには何を入れようか」
とにかく収納が多いのだ。
なかでも意外だったのが、運転席のメーター奥。ダッシュボード上の蓋を開けると、そこにも収納が現れる。「ここまで使うのか」と思うような場所まで無駄にしない。
そして、その発想は頭上にまで及ぶ。
モジュトップにはフロント側の収納トレイに加え、中央部に最大14Lの「バッグインルーフ」を用意。さらに後席後方の天井には約60Lものリアシーリングボックスがあり、こちらは後席側からもリアゲート側からもアクセスできる。
「こんなところまで収納にするのか」と笑ってしまうほどだ。
もちろん、すべてを埋める必要などない。
サングラスでも、ブランケットでも、子どものおもちゃでもいい。アウトドア用品を積みっぱなしにしておくのも似合う。
むしろベルランゴに乗っていると、必要だから荷物を積むのではなく、この収納を使ってみたいから何か積んでおきたくなる。
実用性とは、本来もっと事務的な言葉のはずだ。しかしベルランゴは、それを遊びに変えてしまう。
ラゲッジも5人乗車時で597L、2列目を倒せば最大2126Lという大容量を持つ。3座独立式のリアシートを個別に倒すこともでき、助手席まで倒せば約2.7mの長尺物にも対応する。
何を積めるかではなく、何を積んで出かけようか。
荷室の数字以上に、その発想へ自然と向かわせることがベルランゴの魅力なのだと思う。
用事のない荷物を積んで
便利なクルマはいくらでもある。
広いクルマも、燃費のいいディーゼルも、両側スライドドアを備えたクルマも珍しくない。
ベルランゴのおもしろさは、それらの実用性を単なる便利さで終わらせなかったところにある。
サーブルのボディにオレンジのアクセントを添え、車内にはグリーンのダッシュボードと柄物のシートを置く。頭上から光を取り込み、空いている場所を見つければ収納にする。
そこにあるのは、毎日の生活を深刻に考えすぎないためのデザインなのかもしれない。
大きな荷室をいつも満杯にする必要はないし、無数にある収納をすべて使いこなす必要もない。
けれど、このクルマが家にあれば、折り畳みの椅子やブランケット、遊び道具のひとつくらい、用もないのに積んでおきたくなる。
そして休日になれば、それを理由にどこかへ出かける。
便利だから生活に合わせるのではなく、ベルランゴがあることで生活のほうが少し楽しく変わっていく。
そんな余白まで積み込めることが、この四角いフランス車を所有する面白さなのだ。

スペックや値段で優劣を決めるのではなく、ただ自分が面白いと思える車が好きで、日産エスカルゴから始まり、自分なりの愛車遍歴を重ねてきた。振り返ると、...
Learn More













