- モーガン / 4/4
モーガンだけに流れる時間
1936年に生まれ、姿を大きく変えることなく進化を続けたモーガン・4/4。クラシックカーそのものの佇まいでありながら、走り出せば驚くほど気負わず付き合える。その絶妙な距離感に誘われて、気づけばもう少し先まで走りたくなる一台だ。

木でつながる、ふたつの英国製品
以前、ロールス・ロイス・レイスの記事を書いたとき、第二次世界大戦期の英国戦闘機、スピットファイアのことを思い出した。
レイスとスピットファイアをつなぐものはロールス・ロイス製V12エンジンだったが、モーガン・4/4を前にして思い浮かんだのは、同じ英国の航空機でもデ・ハビランド・モスキートだった。
共通項は、木である。
モスキートは機体の主要部分に木材を使い、「The Wooden Wonder(木の驚異)」とも呼ばれた。一方のモーガンも、スチール製シャシーの上にアッシュ材で組んだボディフレームを載せるという、今では珍しい作り方を長く守ってきた。
しかも4/4が登場したのは1936年。モスキートの試作機が初飛行した1940年より4歳も先輩だ。
そこから4/4は、エンジンやトランスミッションを時代に合わせながら2018年まで生産された。
今回の1994年式も、見た目こそ戦前だが、中身はフォード製1.8リッターエンジンと5速MT。
この年代の混ざり方が、なんとも面白い。
見た目ほど昔の車ではない
木のフレームを使った車と聞けば、ギシギシ、ミシミシと賑やかなものを想像するかもしれない。
ところが、そんなことはない。今回の個体では、知らずに乗れば木材が使われているとはまず気づかないだろう。
クラッチを踏んで1速へ。ここでも拍子抜けするほど普通だ。
クラッチに妙な癖はなく、5速MTにもきちんと節度がある。エンジンも素直に回る。1930年代生まれの姿を前に身構えていた身体から、すぐに力が抜けていく。
もちろん、この車が生産された90年代当時のスポーツカーなどと比べれば機敏ではない。
ステアリングを切った瞬間にスッと向きを変えるような車ではなく、動きには少し間がある。
けれど、その緩さがいい。
モーガンという姿から勝手に想像していた「おおらかさ」と、実際の乗り味がぴたりと重なる。
急かしてこない。競わせようともしない。
木漏れ日の下を流していると、それだけでこの車を選ぶ意味の半分くらいは理解できてしまう。
速さから離れて
1936年に登場した当時、4/4は立派なスポーツカーだった。
それから90年が経ち、自動車は恐ろしいほど速くなった。アクセルを少し踏めば、公道では持て余すほどの性能を発揮する車も珍しくない。
そんな時代に4/4へ乗ると、速度に対する感覚が少しだけ巻き戻される。
ウッドステアリングを握り、シフトレバーを動かし、低いフロントウインドウ越しに景色を見る。それだけで十分に忙しい。
だから遅いのかといえば、そうでもない。
街中の流れには普通についていける。合流や車線変更でも特別に構える必要はない。
ここが、この4/4の「おいしい」ところだと思う。
外から見れば何十年も前のクラシックカーにしか見えないのに、運転している本人はそれほど大層な気遣いを求められない。
古いものの雰囲気は欲しい。でも、古いものを動かすこと自体を趣味にしたいわけではない。
そんな少々わがままな要求に、この4/4はかなり上手に応えてくれる。
いつもの景色が英国に
この車、とにかく人に見られる。
ほんの数十分走っただけなのに、隣を走る車の子どもから何度手を振られたことか。
モーガンという名前も、4/4が1936年から続いたモデルだということも知らないだろう。
それでも手を振りたくなる。そういう姿なのだと思う。
そして面白いことに、乗っている本人もこの姿に影響される。
山間部の農道へ入る。左右のフェンダーを眺めながら走っていると、いつもの日本の景色が少し違って見えてくる。
ダム湖の周りなら英国の湖水地方、高原へ出ればヨークシャーあたりを勝手に想像する。
もちろん、実際には大分の山の中なのだけれど。
車一台で景色の見え方まで変わるというのは、なかなか贅沢な遊びだ。
これはスーパーセブンでも味わえない、モーガンにだけ流れる時間。
1936年から何世代もの人が似たようなフェンダー越しの景色を眺めてきた。その歴史まで一緒に走っているような感覚は、4/4ならではだろう。
必要な覚悟は
もちろん、本物の戦前車や1950〜60年代のクラシックカーなら、もっと濃密な体験が待っているだろう。
その代わり、維持や部品、扱い方まで含め、それなりの覚悟も必要になる。
1994年製のこの4/4は、その境界線の面白いところにいる。
ワイヤーホイール、背面スペアタイヤ、細いウッドステアリング、小さなフロントウインドウ──どこから見てもクラシックカーだ。
一方、キーをひねって走り出せば、意外なほど普通に付き合える。幌もサイドスクリーンもあるから、その気になれば日常へ連れ出すことだってできる。
クラシックカーに憧れている人の入口としてもいい。何台も乗り継いで、少し違う世界を覗いてみたい人にも面白い。
そして何より、所有すると生活の風景がちょっと変わりそうな車だ。
ガレージを開ければ、そこには1936年から続く輪郭がある。それなのに普通にエンジンをかけて、山まで走っていける。
必要な覚悟があるとすれば、故障より先に別のものかもしれない。
信号待ちで見られること。子どもたちに手を振られること。
そして、少し走るだけのつもりが、いつの間にか半日の予定に変わってしまうことだ。

スペックや値段で優劣を決めるのではなく、ただ自分が面白いと思える車が好きで、日産エスカルゴから始まり、自分なりの愛車遍歴を重ねてきた。振り返ると、...
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